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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第一章 鉄パイプの魔法使い
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豚野郎は食べて寝てスッキリした

 王都に向けて出発する一行、イザは許可を得て盗賊共の懐と武装をあさり、計2金半と半月刀、片手斧、ダガーと皮鎧を手に入れていた。まるで盗賊の様だが、これらを王都で売って今後の旅費にする予定だ。


 途中ズカやダグラスが周囲を索敵していたが、とうとうオーク兵は見つから無かった。その後順調に旅を進めた一行は、長旅の末に無事王都に辿り着く事となる。






 黒ぶちは始めての大敗に悔し鳴きをしながら盗賊団の仮のアジトで治療に励んでいた。


「チキショ!あいづら ブキッ!ゴロず!ブゴッ!!」


 余り綺麗とは言えない布で身体中の傷を覆っていくが、信じられない事に大きな傷以外は殆ど癒えた後だった。

 赤羽の魔矢によって大量に失った血を補う様に保存していた食料を手当たり次第に食べ散らかしながら、寝た。


 見る見るうちに傷口が塞がって行く異常な回復力をみせる彼はまた一人になってしまった。産まれたての頃に集落を全滅させられた彼は、親の存在を知らない。

 親を殺した張本人、槍使いダムートに見出された彼は、以降強制的に弟子として旅をしながら槍を仕込まれた。


 ダムートは人間でありながら半馬人に起源を持つ槍術〝ケンタウルス源流〟の継承者で、高齢になってからは後継者に席を譲り各地を放浪する旅に出ていた。

 その後継者は真面目で素質も申し分の無い男だったが、ダムート程の逸脱した強さは持っておらず、何処か物足りなさを抱えていたのだろう。そこに見つけたオークの子供は震える程の才能を秘めていた。


「なんだこいつのフィジカル面の強さ!」


 槍で叩いても直ぐに回復する子豚は怯えながらも目をギラつかせてダムートを見据える。


 人として、オークを見つけたら殺さねばならない。そんな当たり前の掟を破ってまでも、この赤児に全ての術を仕込みたい。その欲求に逆らう事ができなかった。


 薄い茶色の全身に顔の左半分を覆う黒ぶちを持つオークの赤児に、何のひねりも無く〝黒ぶち〟と名付けたダムートは鬼の様な特訓を10年も強いた。


 時には戦場にも赴き死線を彷徨わせ、半魔境である迷宮ダンジョンの最深部に放り投げたりもした。


 理不尽なシゴキに耐えに耐えた黒ぶちはーー最後に師匠を殺して自由を得る。


 涙を流しながら師匠兼親代わりのダムートの胸に槍を突き刺した時、ダムートは笑いながら満足気に逝った。


「だにを まんぞぐ じてる ブゴッ!」


 ムカついた黒ぶちはダムートを丸々食べた。文字通り師匠越えをした彼は、魔法こそ使えないが強力な魔力を得、他のオークには使えない特殊槍術を使えるようになっていた。


 また、生来の回復力と耐久力、魔知覚とも言える全てを嗅ぎ通す鼻、戦場や迷宮で鍛えた隠密行動、そして、師匠からうばった魔槍〝一転空〟がある。



 〝一転空〟


 魔力を通す事によりその柄を任意の長さに伸ばす事が出来る。

 重量も増すため操作は難しいが、突きに合わせて使う事で、威力に上乗せする事も可能。

 古代武装の一つであり、素の威力も高く、貫通力に優れる。


 これらの能力を使ってモンスター渦巻く山谷を生き抜いた彼は、ある日小さな盗賊団の女首領メッシュと出会う。

 最初こそ戦闘になりかけたが、メッシュに気に入られると、そのまま行動を共にした。

 最初はただの強気な女といった印象で何も感じなかったが、しばらく生活を共にする内になんだかこの生活も楽しく感じ出す。一人の人格として初めて認められたからかも知れない。


 メッシュに求められて夜の相手もさせられた。オークの黒ぶちには身が薄すぎて満足行く相手ではなかったが、頼られるのが嬉しく、とても充足した夜を過ごした。


 人間の社会では受け入れられない、今さらオークの集落なぞにいく気もない彼にとっての唯一の場所、それがメッシュだった。それを一瞬にして失った。

 恨みの黒い炎を胸に、黒ぶちはしかし、冷静な部分では、このまま戦っては又負けると判断していた。



 食って寝た彼は翌朝スッキリと目が覚めた。身体の傷は全て治り、それどころか、以前より力強く感じられる。

 ダムートを殺して食べて以来の気の充実、

 強くならなければならない! そして、彼奴の使った術を知らねばならない。


 余り良いとは言えないながら、同族の豚共よりは少し頭のキレる黒ぶちは、復讐の為の第一歩として修行の旅に出る事を決意した。


 〝奴らは必ずぶち殺す!〟


 まずは強そうな人間を襲って情報を仕入れるとしよう。穴ぐらを出た彼は、朝日の方向へ意気揚々と歩き出した。

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