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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第一章 鉄パイプの魔法使い
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盗賊団と豚野郎

またまたNEWキャラクター。

 盗賊団〝群れて潰す〟の女頭領メッシュ、今彼女は地に伏せた馬の横にしゃがみ機を窺っていた。

 隣には頼れる若オーク戦士の黒ぶちが息を整えて静かに佇んでいる。


 彼女達は街道を進む騎獣車が土煙を上げて進むのを、少し高台の木蔭に隠れて待ち伏せていた。

 軍払い下げの巻き上げ式クロスボウを持った部下を筆頭に、弓使い3人が少し後ろの灌木に隠れて様子を伺っている。


 半月刀使いのメッシュ、槍使いの黒ぶちの他、近接戦闘要員3人と合わせて、8人の小さな盗賊団は、単独の商人などを襲って各街を荒らし回っていた。

 脅しなどせず、いきなり襲いかかり略奪する。彼女達は、まさしく獲物と見るや群れて潰す、最悪の職業盗賊だった。



 ズカは「あれで隠れてるつもりかね」とつぶやく。


 隣の御者台で計算問題と格闘しているイザは膝に抱えた黒板から顔を上げてズカを見た。彼は遠く前方を見ており、視線を辿ると、灌木の中で光を反射している物が見える。


 サッと黒い弓を絞るズカ、何処からいつ出したのかイザには全く分からなかった。その弓を限界まで引き絞ると、「良く見ておけ」と言うが早いか弓音高く矢を射る。

 勢いの付いた矢が放物線を描いて灌木に居る者に吸い込まれると、「ギャッ!」と言う声と共に男がもんどり打って倒れた。


「これが曲射だ」


 もう一本つがえたと思う間も無く射た矢は、今度も放物線を描いて別の的を捉えた。


「曲射は角度とパワーのバランスが一番大事だ、風は標的周囲の物のなびき方な どで確認をする事」


 言いながらもう一本、何事もないかの様に射る。


「威力を落とさずに曲射で的を射抜くのは相当な訓練を要するが、正面に相対した標的でも側面を攻撃できるから、膠着状態になった時も重宝する」


 喋りながらあっという間に、相手方の射手を三人倒してしまった。


「これでひとまず遠距離攻撃出来る敵は片付けたようだな。索敵は戦闘の基礎であり奥義だ。先手を取ることは中・遠距離攻撃を得意とする者にとって最高のアドバンテージとなる」


 ズカは周囲を見回すと、潜んでいる敵の場所をわりだしていく。




 メッシュは焦って黒ぶちを見た。相手は何故か正確にこちらの位置を掴み、こちらの手の出ない距離から矢を射ってくる。

 だが、頼りの黒ぶちは木に張り付いて鼻を効かせていて、目を合わせて来ない。

 彼女は一箇所に留まるのは不味いと思いながらも、遮蔽物たる木から身体を出す事すら出来なくなっていた。


 そうこうする内に騎獣車は近づいてくる。その走りにはなんの躊躇も見られず、ごく当たり前の様にゴトゴトと呑気な音を立てていた。


 向こうから仕掛けて来た以上、このままやり過ごす事は出来ないだろう。ならば打って出るかと思うが、正確無比な弓が怖くて出るに出られない。


 ジリジリと焦りながら時間だけが過ぎ、メッシュが自身の脂汗で武器が滑る様な錯覚を起こし出した頃、痺れを切らした手下達が、メッシュの制止も聞かずに各々の武器をかざして馬を走らせた。


 即座に放たれた矢で二人が倒される。だが残りの一人、斧をかざした手下が少し接近できた。


 すると反対側の御者台から強烈な水撃が襲いかかり、斧を持った手下も吹き飛ばされてしまった。主人を吹き飛ばされて自由になった馬はそのまま遠くまで走り去って行く。


 出遅れたメッシュも馬を置いて、なんとか騎獣車の死角を突こうと木々の間を走るが、気付けば左太腿を射抜かれてしまった。


 足がもつれて地面に投げ出され、身体を打ちつけながら丸くなる。足を見ると、矢じりが突き抜けて反対側の皮まで破っていた。


「グアーーッ」


 痛みと怒りと血の臭いで混乱しながら車の方を見ると、黒ぶちが弓使いの死角に張り付いているのが見えた。


 黒ぶちはオークに見合わぬ素早さでズカに飛び掛かりざま槍で突く。シュッ! 鋭い突きが繰り出されるが、すんでの所でズカが避ける。

 黒ぶちは自分の女を射抜かれた焦燥感で手元がブレてしまっていた。


 ズカも、ただのオークではあり得ない鋭い突きに驚く。第一警戒していたにも関わらず、かなり近づかれるまで気配を探知できなかった。思わぬ強敵の出現に気を引き締め直す。


 距離をとって戦いたい所だが、そうするとイザが危ないと判断き、仕方なしに弓を魔具のポーチに突っ込むと、同じ所から短剣を抜きざまに黒ぶちに斬りかかった。


 左手の短剣が槍の柄に受けられる、捻じるように払われた所を逆らわずに体を入れ替え、少し距離をとって右手に仕込んだ棒手裏剣を束ごと投げつけた。


 バラけて投げた手裏剣全てが槍のひと撫でで捌かれた、と、槍の届かぬ距離から黒ぶちが突きを放つ。


 牽制か?訝りながらもスウェーバックすると、シュッ! と鋭い突きが目の前から伸びてきた。明らかに届かぬ距離からの一撃でズカの右胸が突かれると、鋭い突きは皮鎧を貫通し、下の帷子まで届いた。


 後ろに下がった勢いのまま吹っ飛ばされるズカは後転すると、その勢いを利用して立ち上がった。その目の前まで黒ぶちが迫る。


うん!」


 ズカが左手で印を切りながら魔力を手裏剣に流すと、先ほど投げた棒手裏剣と黒ぶちの間に複雑に絡みつく黒糸が浮き上がり、黒ぶちの自由を奪った。


 素早く距離を取り、再度、短剣と短弓を持ち替える。


 バシッバシッバシッ! 一息に黄羽、緑羽、赤羽の矢を射かける。

 それぞれ動きを奪う、毒を仕掛ける、血を流し続けるという魔力を仕込んだ矢が簀巻きの黒ぶちに容赦無く突き立つ。


 暫く転がり暴れて、闇の糸を切りながら急所への直撃を避けていた黒ぶちも、大量の血を撒き散らすと、次第に動きを止めた。


 最後に赤羽の矢を再度心臓に打ち込むと、その場を離れて先ほどイザが打ち倒した敵のとどめをさしに向かう。

 そこには動かなくなった斧使いと、側に立つイザがいた。


 少し前のイザは、死闘を繰り広げる二人に目が釘付けになっていた。

 その時、後ろから〝ジャリッ〟という音がしたので振り返ると、転落のショックで弱りながらもこちらに近づいて来る斧使いがいた。


 もう一度水撃をくらわそうと鉄パイプを構えるも、また仕留め損なうかもしれないと思い直し、精霊ナイフを取り出す。

 鉄パイプを肩に担ぎ、ナイフを構えようと交差させたその時、鉄パイプとナイフが震えた!と思うと、パイプの中にシュルンッ! とナイフが吸い込まれてしまった。


 あり得ない展開に焦って鉄パイプを振るが、元から何も無かったかのごとく鉄パイプの手応えしかない。


 迫る斧使いに焦りながら鉄パイプを向けると水撃を発射した! と、何時もの水噴射では無く、精霊ナイフ状の切っ先を持つ水が勢いよく噴射されて、斧使いの胴体を背中まで貫通した。


 呆気にとられるイザの目の前で、ナイフ状の噴射物は、貫通後にただの水となって地面に打ち付けられた。


 それは鉄パイプに宿る上位水精が精霊ナイフの水精を取り込み、水噴射の性質を刃状に変える事が出来る様になったという進化とも呼べる出来事だったが、


『またナイフを失ってしまった』


 つくづくナイフと縁のないイザは、お気に入りのナイフを無くしたショックでシュンと項垂れた。



 ズカはもう一人の止めを刺していない人物メッシュを探す。

 その結果彼女が見つかったのは、矢傷を受けた場所から数百m、その間這いつくばりながらも移動し続けた彼女は失血死寸前だった。


 ズカが近寄ると弱々しく身構えるが、武器も持たない素手な上に、太腿からは新たにドクリと大量の血が吹き出している。どうやら大きな血管を傷付けたらしい。


 尚も近寄ると、「これで助けてくれ」と弱々しく震える声で、大きなサファイアを差し出してきた。だが次の瞬間力尽きてドサリと地に伏せる。


「チッ」


 後味悪く舌打ちしたズカは、サファイアをぶん取ると、騎獣車の方に急いだ。

 そこではイザが困惑しており、訳を聞くと、黒ぶちのオークが居なくなっていると言う。


 そんな訳ないと仕留めた辺りを索敵するが、死体どころかその痕跡すら見つからない。困惑した彼は、不可解ながらも急ぎ全てをダグラスに報告した。


 ダグラスは、


「ご苦労、そいつはもう近くには居ないだろう、いいから支度をして出発しろ」


 と言う。


『不思議な槍の使い手だった』


 ズカは手練の敵を逃した己の未熟さに反省し、しかし、尾を引かない様に心がけると支度をし出す。


「次に会ったら厄介な相手になるな」


 右胸の槍傷をさする彼は、半ば確信をもってそう呟いた。

キャラを掘り下げぬままに、ドンドン次に行く。

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