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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第一章 鉄パイプの魔法使い
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精霊石と魔封塔

 イザは今、街の雑貨店に来ていた。手元にはダグラスとの取引で手に入れた約5金が丸々残っている。


 結局、娼館の代金はダグラスがおごってくれた。悪いと思って払おうとすると「持ち金が全部吹き飛ぶぞ」と言われ、慌てて「ありがとうございました!」 深々とお辞儀をして事なきを得る。


 朝起きるとテオは居なくなっており、昨日の事は夢だったんじゃないか? と疑ったが、体に残った怠さや痕跡が現実感を呼び覚ました。


 そして今朝、ダグラスが用事があって出かけるとの事で一緒にピンフ・バーモールを出た。

 お付きの従者ズカが回してきた騎獣車に乗せてもらい、街の目抜き通りに向かう。


 イザが王都に行く予定だと言うと、ダグラスも丁度向かう最中との事で、一緒に送ってやると言ってくれた。

 シュビエでは最初から助けられたし、娼館も結局おごってもらった。至れり尽くせりのイザは大変恐縮し、何故こんなにも良くしてくれるのか質問する。

 それに対してダグラスは「遺跡の情報料だ」と言って「気にするな」と肩を叩かれた。


 実際のところ、ダグラスは決して散財しないタイプの男である。無一文から魔商人と呼ばれる様になるまでには、泥をすすり雑草をはむ日々もあった。

 そんな彼が、イザの今後の為にバーモールには貴重なアイテムを原価売りをし、イザのアイテムも適性価格で買い取り、女をおごり、その後の面倒まで見ている。とても不確定な遺跡の情報に対する見返りとして割があわない。

 総ての収支はダグラスの頭の中、余人の知るところではないが、計算の内の一つに、肉水で黒飛蝗を呼び寄せて一網打尽に出来ないか? との打算があった。


 他の現象と違い、黒飛蝗だけは何の痕跡も残らず神出鬼没な為、情報が取れずに他の呪いと別格視していたが、少年の能力いかんでは罠を仕掛ける事が出来るかもしれない。


 その為には実用に耐えられるかどうか、早急にイザの能力を解析し、鍛えなくては成らないと判断した。


 バーモールに教えられた水魔法使いは隣の大陸に居たため、長距離移動の手段がある王都に向かう必要がある。

 また、オルトス達が封印した悪魔の解析を王都の研究機関にまわさねば成らない。つまり、一緒に王都に行くのが一番手っ取り早かった。(女を覚えさせたのは単にスラム流の懐柔策で、本人も行きたかったという理由が大きいが)


 ダグラス達が治療院に行くとの事で、イザは近くの雑貨店で降ろされた。


「迎えが来るまでに旅に必要な物を揃えておけ」と言ったダグラスは、店員と少し話すと行ってしまった。


 店員がニコニコと微笑みながら、


「お客様、先程の方から旅に必要な品を一通り揃える様にことずかりましたが、今お持ちになっている物をお教えねがえますか?」


 と、気持ち悪い位に丁寧な接客をしてくる。どうやら金持ちのボンボンだと勘違いされたようだ。


 イザは素直に麻のバックに入った予備の服と下着類、フロシキ草の葉、鉄パイプをテーブルに並べた。


 店員は笑顔でうんうん、と頷くと商品棚の奥に行き、イザの前に無言でザックをドンッと置いた。その大きさはイザの腰まであり、木の枠に丈夫そうな布地を固定し、巻き込まれた毛布が外側に括り付けられている。


「初めての旅をお考えのお客様には、この、〝短期旅行パック〟をオススメしております。」


 そこからはいかにこのパックが優れているか商品説明が始まったが、めまぐるしいトークに惑わされ、半分も理解出来なかった。

 辛うじて分かったのは、これがあれば後は衣類とナイフと食料があれば総てまかなえる、と言う事。


 最初はダグラスを見習って値下げ交渉するつもりだったが、そんな隙など有るはずもなく、気づいた時には定価の50銀を払い終えていた。


『買い物おそるべし』この敗北はイザの軽いトラウマになる。


 そして店員によると二軒隣に武器店があり、そこでナイフを買えば旅の準備は完璧との事で、店にザックを預けたまま行く事にした。

 なにせ武器である、男子がワクワクしないはずが無い。沸き立つ心でお金を握りしめ武器屋に着くと、中を覗き込んだ。


 中にはズラリと槍や剣、斧にナイフといった刃物類からメイスやウォーハンマー、フレイルなどの鈍器まで、ありとあらゆる武器が所狭しと陳列されていた。


 店の奥では2人組の客がしきりに店主と剣の品定めをしている。


 イザは意を決すると、鉄格子のドアを開けて足を踏み入れた。


 〝ギラリ〟


 陽光を反射して白く輝く、整然と並べられた大量の剣。イザの村では村長しか持っていなかった鋼の剣がここには唸るほど並べられている。


 ギロッとこちらを見る店主と先客、


「いらっしゃい、何をさがしてるんだい? 冷やかしならお断りだよ」といって店主がイザを値踏みする。

 客はすぐに興味を失い自分の剣選びに戻った。


「すいません道具屋の紹介で来ました。ナイフを探しているんですが、見せてもらってもいいですか?」


 と先程のトラウマを引きずり弱気で聞くイザ。


「ああ、ナイフなら入ってすぐの棚に有るよ、先に見ておいてくれ、こちらのお客さんが済んだら見繕ってやる」


 道具屋の名前が効いたのか、親父の態度も柔らかくなる。


 本当は色んな武器を見たかったが、そう言われるとナイフを選ばないといけない気がしてくる。

 言われた棚には沢山のナイフがあった。値段もピンキリで、高い物になると一金を超える物もある。

 材質もイザの全く知らない物や、銅、鉄、鋼、銀製の物まであった。


 暫く見比べて行くが、いままで金属の刃物を使ってこなかったのでどれもこれも魅力的に見えてしまう。


 かなり時間が経ったが変わった形のナイフなどを飽きずに見ていると、一本だけ蒼曜石で出来た石のナイフがあった。他が金属の刃物ばかりの為、違和感がありしげしげと眺めてしまう。


「そいつは精霊石のナイフさ」


 いきなり後ろから声を掛けられてビクッとする、店主が棚の鍵を取り出した。

 先客が手ぶらで帰って行く所を見ると、上手く売れなかったのか? もしくは元々下見程度の客だったのかもしれない。

 店主はナイフを取ると、イザに持たせてくれた。


「こいつは精霊の力を宿した特別な蒼曜石を削り出して作ったナイフでな、特別切れたりするもんじゃないが、儀式なんかに使われるらしい」


 イザが持つと、確かにナイフからは魔力が感じられる。しかも、水精の力らしく、鉄パイプも魔力に反応して感覚が騒がしくなった。


「なかなか売れなくてな、なんせ魔力なんざ無いやつにとっちゃ関係ないし。坊主が気に入ったなら安くしとくぜ。」


 イザは他の金属のナイフも見せてもらったが、以前からあんなに憧れていたのにいまでは精霊ナイフの方が気になって仕方が無い。

 兄から貰ったナイフを打ち捨ててしまった事も気持ちのどこかにあった。


「じゃあ、このナイフをください」


 結局50銀もの大金をはたいて精霊ナイフを買う事にした。他のナイフの何倍もしたが、元々の値段よりもかなり安かったため、思い切って決めた。


 キラリと光る澄んだ青の刀身をみて、兄を思い出す、


「よろしくな」


 ギュッと握り締めると鞘にしまった。






 ダグラスとズカはシュビエ治療院でオルトスと面会していた。


「昨日はありがとうよ、おかげで今回も楽させてもらったぜ」


 豪快に笑いながらオルトスがズカの労をねぎらう。


「あの後岩壁の魔具で閉じ込めた黒神信者をしょっ引いたんだが、えらい数でな、街の警備兵も難儀したみたいだ」


 アッケラカンと言うオルトスの顔が曇り、


「やはり、ほとんどの者が辺境地域からの難民らしい」


 自分達を苦しめた黒神を恐れ、崇める心理はわからないでも無いが、こんな事が今後も増え続けると思うと、暗澹たるおもいがする。


 そして、「これを」と言うと絹袋に入れた金光塔を取り出す。


「こいつはかなり力を持った使徒らしい。今回産まれたてを叩けてよかったよ、これが本来の力を持ってたらと思うとゾッとする」


「これが悪魔の封じられた魔具ですか」


 ダグラスは手に取るとオルトスの承諾を得て魔鑑定を行う。


 〝悪魔の封塔〟


 黒神の使徒が封じられた魔具、高さ30㎝の小塔。光の魔力で悪魔を6分割して封じている。

 シーメン流サイプレス教授が製作。



 中身の悪魔までは解析出来ない。封印状態では無理のようだ。


「では、これはお預かりして教授の元にお届けします」


 ダグラスは手元のカバンに収納する。


「今回の件はすでに王にも報告してあるから、直接研究所の方に持ってってくれ。あと、たんまりとはいかんが、なるべく報酬は弾む様にいっといた、また何か有ったら頼むな」

 オルトスはダグラスと硬い握手をかわした後、ズカに「たのしかったぜ!」と笑い掛けた。

オルトス=戦闘狂

ズカ=隠密フォロー

かなり良いコンビで、今まで何度か組んで仕事してます。


歳はズカが一回り上。

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