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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第一章 鉄パイプの魔法使い
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暗中殺

 ズカは一人、木の上から眼下に拡がる森を見ていた。真っ黒に統一された装束は木のシルエットと被って周囲に溶け込んでいる。


 闇の中でも見通せる光精の魔具を通して、色を失った世界の輪郭をくっきり浮かび上がらせ索敵するが、周囲には見張り以外誰もいないようだ。


 森の端にある洞穴からは灯りが伸び、入り口に立つ男達の影を伸ばす。


 ズカが黒い短弓を絞り、バッ! バシッ! と連射すると、矢を急所に受けた見張りの兵士が、二人ほぼ同時に崩おれる。

 素早く木から降りて、相棒に頷きかけると、闇に溶けながら、洞穴の入り口に向かった。


 中の様子は変わりないようだ。見張りの生命反応にアラームトラップの魔法をしかけるケースもあるが、ズカの読み通り、そこまで洗練された奴らではないらしい。


 追いついて来た相棒を見やる。シーメン流の戦闘服に身を包んだ、シュビエ治療術院の院長 オルトスその人が、音もなく側に立っていた。


 普段は治療院で沢山の患者を抱える庶民派の治療師である彼は〝ツボ押しモンク〟などと呼ばれて、ザッパな性格と確かな治癒魔法の腕で街の人から人気があった。あだ名の由来は〝?型〟のツボ押し器で常に自分の肩や首をグリグリして居る所に由来する。


 しかし、王国一の戦闘僧である彼は、かつては現国王と王の座を争うほどの実力者で、格闘能力だけをとれば、現王を凌ぐ腕前だった。

 ツボ押し器も、古代の聖魔法使いが作ったマッサージ器で、光精の宿る玉により、光魔法が爆発的に強化される触媒である。


 今は弟弟子が王位を得た為、自分は街の治療院の院長をしている。だがその影で現王と協力し、国を揺るがす黒神の呪いや、黒飛蝗の原因を追跡していた。


 魔具商ダグラスの裏の顔は情報屋である。その情報網は知らない事は無いと言われる程の精度をもち、バイユ国王やオルトスからも度々協力を依頼されていた。その流れで今回の依頼を受けた経緯がある。


 シュビエの外れ、死の森近くの洞穴で、夜な夜な怪しい集会が行われている。

 黒神の儀式には生贄が付き物で、囚われた人々が犠牲になっている可能性が高い。


 ダグラスの情報網でそこまで分かると、オルトス自ら出張ると言って来た。だが敵地ではどの様な敵や罠があるかも分からない、かと言って大勢で行って逃げられても意味がない。


 そこでいっそのことオルトスとズカのみで敵の拠点に潜入、主だった者のみを捕獲または殺害する事にした。


 入り口に罠がないかを確認すると、大胆に侵入する2人。ズカの闇魔法が2人の存在感を最小にしている。

 事前の調べによると洞穴はかなり長く、最も深い所には山から湧き出した地底湖が広がっているとの事である。

 その途中には大小様々な小洞穴の部屋があり、その中に信者達が大量にいるらしく、その大半はバイユ辺境地域からの難民の様だ。


 そしてどん詰まりの地底湖には祭壇が作られており、司祭が黒神を祀っているという。


 それらの情報はダグラスも知る、シュビエの腕利きスカウトが潜入して掴んできていた。その女が作った地図を頭の中に広げながら、ズカは躊躇なく進む。


 信者であろう人々がすし詰めになった部屋を何箇所もスルーして、見回りの兵を数度やり過ごしながら奥へ奥へと進むと、三叉路に突き当たった。


 左の道を進んで行くと地底湖に繋がるというポイントで、ズカは来た道と右の道少し奥側の二箇所に黒い塊を置いた。

 何事かをつぶやくと、黒い塊は見る見る膨れ上がり、硬い岩壁となる。

 擬似的な岩塊を作り出す使い捨ての魔具によって、面倒な難民達の侵入路を塞ぐと、これで後の憂はないと頷きあって地底湖の祭壇にむかって進む。


 地底湖は大きく、澄み切っていたが、それに似つかわしくない血肉や臓物の生臭さに満ち満ちていた。

 湖の前には血肉に彩られた巨大な悪魔の木像が、ロウソクの火を受けてテラテラと怪しく照り返し、その周囲では司祭と思わしき男を中心に、男女の信者達が輪を作って交じり合っていた。

 外側には、生贄にしようと縛り上げられた10名もの人々が転がされている。


 少し離れた鍾乳石の影に身を潜めたズカ達は取り決めていた作戦通り行動を起こした。


 オルトスが影伝いに移動を始めると、ズカは布で口を覆い、懐から三本の筒を出すと、先端を地面にシャッ! と擦り付ける。


 途端にモウモウと立ち上がる煙筒を信者の輪の中に放り込んだ。

 突然の煙にトランス状態の信者も混乱する。煙は粘膜に着くと激痛をもたらす作用があり、あたりは阿鼻叫喚の地獄と化した。


 オルトスは生贄に捉えられた人々を解放して回ると、来た道に誘導する。


 そんな中、黒神の司祭が


「ばちあたりめが!」


 と一喝し、ドンッ と錫杖を地に突くと、杖を中心に猛烈な波動が放射されて煙を晴らして行く。


 〝ストンッ〟


 間髪を入れずに、その司祭の右目に黒羽の矢が突き立つ。そして続け様に心臓と眉間に二本の茶羽の矢が突き立った。


 ズカの仕込み矢、黒羽は魔法の干渉を受けないアンチマジックの魔力がこもった品で、彼の切り札の一つである。やばい相手には力を出させる前に叩く、それが歴戦のスカウトたるズカの常識だった。


 急所に次々と矢を受けた司祭は即死していた、だがその命は既に彼のものでは無い。


 突如として司祭の体が黒い炎に包まれ、燃え尽きた時、黒神の使徒を模した悪魔の像から、


「「ドクンッ!」」


 と波動が拡がる。


『ヤバッ』


 危険を感じた瞬間、ズカとオルトスは同時に真逆の反応をした。

 ズカは己の存在を霞の様に薄くして、影に溶ける様に消え入り、オルトスは悪魔像に向かって一息に飛び込むと、渾身の光属性を込めた正拳突きを胴体部分にぶちかます。

 飛び込む勢いを乗せた突きは魔力によって威力を増し、肉と木というよりは、金属同士がぶつかった様な音が響くと、光と闇が火花を散らした。


 その衝撃によって悪魔像の表面が吹き飛ぶと、中から赤黒い剥き出しの肉人形が現れる。人間の形をしたそれは、しかし、明らかに異質の者であった。


 第一に大きさが3m近い。それは丸めた肉の翼を広げると、太い尾を張り、


「ボエエェェー !ベロロロロ ビチャチャッ」


 目、鼻、口、総ての穴から真っ黒な液体を吹き出して醜い咆哮を上げると、真っ黒な液体は肉人形の皮膚となる。その外観は悪魔そのものだった。


 悪魔は両手を地面に向けると、指先から魔力の波動を発し、地面に魔法陣を浮かび上がらせる。

 その波動は洞穴内を揺らし、さすがのオルトスも二の手を出せなかった。

 魔法陣は赤く光ると、中から大量の赤い液体が溢れ出て来て、未だ苦しむ信者達の穴という穴に吸い込まれていった。


 オルトスは攻撃を一旦諦め、光魔法に集中する。ツボ押しの先端に付いた玉が金色の光を放ち、オルトスを包むと、そのまま鎧の様にまとい付いた。

 オルトスのオリジナルスペル〝金衣〟によって隙なく鎧われたオルトスは、悪魔に向かって再度突進する。


 松明などとっくに吹き飛んだ真っ暗闇の洞窟で、ギンギンに輝く人間が、放たれた矢の様に一直線を描いて悪魔に突き刺さる。

 硬い壁にぶつかる超特急の金線は、そのまま絡みつく様に悪魔の身体を伝い上がる。

 そのまま悪魔の頭部に辿り着くや、そっと手の平を添える。光属性の衝撃波を内部に浸透させる闘技〝掌撃〟は〝金衣〟によって増幅され、悪魔の頭の中に直接ダメージを与えた。


 攻撃が通ったと思った瞬間、悪魔の右手がオルトスの足を無造作に掴む。そのまま地面にフルスイングされたオルトスはバウンドする、そこに元信者達が殺到した。

 オルトスの肢体に所構わず噛み付く元信者。


 悪魔の頭は身体の中に吸収されると、新たな頭が形成され始める、さすがにその間は動きを止めざるを得ない様子だった。


 金衣に守られたオルトスは群がる元信者を薙ぎ払い、立ち上がると大きく退きながら距離を取る。


「やはり正攻法はつうじないな」


 独りごちた後、ズカの合図を待つ。


 悪魔降誕の儀式を行なっている事が予想された為、あらかじめ手遅れだった場合の対策として、ズカに光魔法の魔法陣を描く魔具〝金光塔〟を必要数渡しておいた。


 またもや信者達が殺到する手前で合図がくる。

 返事をする間も無く大きく横にズレると、ズカの設置した金光塔に意識を向け、そのまま儀式魔法に移行して胡座座になった。


 そこに再度殺到する信者達、それに対して死角からズカの矢が襲いかかる。

 黄色羽の動き封じの矢を惜しげも無く連射するズカ、どうせ経費は王国持ちである為容赦が無い。

 いくら金を掛けても構わないとのお達しに、景気良く魔矢を撃ちまくる。


 信者達があらかた黄色羽に動きを封じられる間、復活した悪魔がオルトスに向けて飛びかかった。


 と、一瞬早くオルトスの儀式魔法が発動する。


 光に包まれる両者、金光塔は正確に六角形の角に設置されており、その塔を結ぶ様に金光線が流れ、六芒星を描く。

 金光線に阻まれて六芒星の中心から出られない悪魔は翼を広げて羽ばたこうともがく、だがオルトスは魔力を強めると、六芒星を縮ませて押しとどめた。


 ここに来て魔力同士の押し合いになる。足掻く悪魔、縛り上げるオルトス。


 その時、動けなくなった信者達の口から黒い液体がドロリと吐き出されると、悪魔の元に集まって行った。


 悪魔にとって信者は戦力と言うより、パワーアップの為の熟成壺だった。


 その黒い液体はしかし、ズカの降り掛ける聖水によって焼かれていく。


『全くもって金に糸目を付けないという事は楽だな〜』


 とノンビリ考えるズカは最早やる事はやったと、オルトスが悪魔を絞り上げる様を観戦する事にした。


 マンキンに絞り上げられた悪魔に、浮遊する金光塔が絡みつく様に集まる。苦し気に呻く悪魔に触れたと思った瞬間、塔の中に悪魔を吸い込んでいく。

 そのまま吸い込み続けると、悪魔のからだはキュポッと六分割され、完全に封じられた。


 カランッと地面に落ちる塔を懐から絹袋を取り出して拾うオルトス。


 とりあえず終わったな、とズカに笑いかけると、いつもの様にツボ押し器でコリをほぐし始めた。

いきなり出て来て能力全開のオヤジ二人。突然過ぎて強さの説得力ゼロか?

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