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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
最終章 生存都市ノ夜明ケ
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外壁の死闘③

とうとう百話です、が、いつもの通り淡々と進みます(^◇^;)

 主戦場を離脱したズキについて来るのは、狼頭のレッサー・デーモン二匹のみ、その気配を察知しながら全速力で駆け抜けるズキは瞬く間に禍根の塔から距離を稼いだ。


 時折ズキは金属補強された己の服に、バーストをかけて加速する。追いつきそうになっては突き放される狼頭達は、今や四肢を駆って全速で追いすがって来た。

 それはまるで異界の風景の様な、異質感と共にある種の迫力を伴っている。口から漏れるのは荒々しい息ではなく、ブツブツと呟かれる異界の文言。その言葉の端から溢れ出す魔力が、靄となってなびいた時、ズキの背筋を悪寒が貫いた。


 瞬間、足裏にバーストをかけて、空中を駆け上がるズキの股の間を、狼頭達の口から放射された、二条の熱線が切り裂く。あまりの高熱に、かすりもしなかったズボンの内腿が焼けて、軽い火傷を負ったのかピリリと痛みが走った。


 思わぬ上位をとったズキは、すかさずポーチからダーツを数本掴み取ると、振り向きざまに投擲する。その時に地面にパラパラと撒きびし状の魔具を散らした。


 投擲されたダーツを避けて、駆け寄ろうとした一匹の右腕がその魔具に触れた時、同期するズキの魔力供給と共に爆発的な火炎が上がる。爆炎魔具の簡易トラップが放つ超高カロリーの火柱。だが、次の瞬間には目も眩む炎を突っ切った狼頭が駆け抜けて来た。レッサー・デーモンの抗魔力が魔法の火焔にも勝り、その体に軽い火傷すらも負わせない。


 着地したズキのすぐ背後に追い付いた狼頭の、少し前を行く個体が跳躍すると、ズキの頭上から剣爪を振りかざして襲い掛かる。

 そこに下から三本のダーツを放ったズキは、全てにバーストをかけて、自身は地面を駆ける個体に向き合った。

 そこには間髪おかずに迫ったもう一体の狼頭が、剣牙を剥き出しに飛び込んでくる。

 流石のズキもバーストの連発に魔法の発動が間に合わず、左手の火龍牙で直接剣牙を受ける。その間に頭上でダーツを受けた個体は少し間を置いた地点に着地した。投擲されたダーツの殆どを剣爪で弾いたが、左腕に一本刺さると、その周囲の肉が溶けて落ちる。その時忌々しげに一吠えした狼頭の呪詛が、ズキの頭を締め付けた。


 魔力を伴う呪詛を放った後、ぶら下がる腕を千切って投げつけると、突然の頭痛に目眩を起こしたズキは、まともにそれを食らってしまう。その時千切れた腕の剣爪が頬を掠めて血が流れた。


 更に剣牙を剥いて覆いかぶさる狼頭がメチャクチャに剣爪を振り回すと、捌き切れずに右手を深々と斬りつけられる。後方の片腕狼頭が更なる呪詛の遠吠えを放つと、堪え切れなくなったズキは、うつ伏せに倒れると左手の火龍牙を地面に突いた。


 トドメを刺さんと振り下ろされる剣爪がズキの後頭部に迫った時、火龍牙の魔石が波動を放つと、瞬間的に爆炎魔具と同調して空間を圧縮する。

 地に伏せたズキのすぐ頭上、魔石のある位置から閃光が放たれると、圧縮された空間に轟音が響き、無数の火線が荒れ狂った。


 高エネルギーの質量を伴った魔炎が狼頭二匹に絡み付くと、捕縛する鎖と化して全身に纏わり付く。暴れる二匹は呪詛の遠吠えを放とうとするが、その口元すら瞬時に縛られてしまった。


 消費され続ける魔力に目眩を覚えながらも、強靭な精神力で集中力を維持するズキは、立ち上がると、動けない二匹に聖水瓶を投げつける。

 高熱の魔炎に瞬時に溶けた瓶の中身は致死量を超える聖水。それをまともに浴びた狼頭達は、大量の煙を発するとグズグズに溶けた。


 魔炎の発動を止めたズキは、溜息と共に目眩を覚え座り込む。ボロボロになった服の隙間から見える傷口は骨が見えるほどに深かった。

 大量の魔力消費と失血から来る虚脱感を堪えて高級ポーションを取り出すと、二本まとめて嚥下する。更に増血剤と魔力ポーションも一気飲みすると、


「よしっ!」


 と気合一発立ち上がる。主戦場を見ると、双頭のレッサー・デーモンに苦戦する様子が遠目にも明らかだった。


 切り裂かれた服を脱いで、ポーチから水筒を取り出すと、傷口に付いた土を洗い流す。骨まで露出していた傷は、ポーションによって塞がりかけて、ピンク色の皮膜を形成していた。


 替えの服を着込むと、もう一度「ふーっ」とため息をついて歩き出す。魔力は尽きかけて、回復もジワジワとしかできないが、陽動位には役立つかもしれない。

 焦る気は無いが『早く兄の元に戻らなくては』との思いが疲労を訴える足を前に運ぶ。その視線の先には、黒の戦斧を振るって仲間を蹂躙する双頭悪魔の姿があった。





 戦況の一端を支配するズクは、双頭のレッサー・デーモン率いる軍勢に苦戦を強いられていた。配下の者たちは訓練通りによく働いていたが、いかんせんレッサー・デーモンは個々の能力が高く、倒しても後から湧いて出てくる。それに引き換え人間の軍勢は数を減らして、後方支援も含めて総勢100名を切りそうになっていた。


 このままではいずれパワーバランスが崩れる。タップリ用意した備品も無尽蔵にある訳では無く、熱線を弾き返すための結界魔具などは、いつ魔力切れを起こしても不思議ではない。


 そんな中、イゼル達の竜馬ドラグホースを先頭に何度も突貫をかける騎馬隊が、再度号令と共に中央突破をはかった。


 二メートルを超えるレッサー・デーモンにも体格的に劣らない竜馬は、興奮の咆哮を上げつつ先陣を駆ける。その背中に跨るイゼルは、こびりついた血肉を聖水で洗い流したランスを構えると、近くに迫ったレッサー・デーモンの喉元に突き入れて、なおも止まらずに駆け抜けた。


 後方の弩隊が援護射撃を一斉掃射すると、続く騎馬隊もイゼルに続かんと突撃していく。


 少し後方では、レッサー・デーモンの前線を足止めする歩兵隊の中で、アンジーが譲り受けた魔剣を振るって奮戦しつつ、油断なく周囲を認識していた。

 彼に任された役割の一つ、それは一瞬にして隊列を壊滅させる威力を持つ熱線放射を警戒する事だった。熱線を封じる結界魔具が後ろに控えて、彼の号令によって効果的に運用されており、ある意味戦局の鍵を握っている。


 だが、魔具に込められた魔力は底を尽きそうになっている。それ故に『この突貫がまともに攻撃できる最後のチャンスかも知れない』そう思って、 ズクを見ると目が合った。この状況、このタイミング、お互い言わずとも何をすべきか理解している。二人は目線を切ると、


「全軍騎兵隊に続け!」


 ズクが大号令を出し、全軍突撃を敢行した。


 流れに乗ったアンジーは真っ直ぐに双頭の元へと急ぐ。その巨体は遠目にも目立っており、草でも刈る様に振るわれる黒戦斧が、味方の兵士を薙ぎ払い、吹き飛ばしているさまに心がザワめいた。


 その巨体に遠距離攻撃が集中するが、左手に構えた苦悶の表情を浮かべる黒盾に阻まれる。更に攻撃魔法や魔具による毒煙を浴びせても、苦悶の盾が吸い込んでしまい、全て無効化されてしまった。

 一度などはズクが魔力を溜め込み、極太の雷撃を放ったが、苦悶の盾に空いた無数の口が吸収してしまい、次の瞬間一斉に呪文を唱えたかと思うと、強烈な呪詛の咆哮を放って来た。


 その呪いは波動となって戦場に放たれると、恐怖に取り憑かれた戦士の一部が発狂した様に叫び、泣き、あるものはショック死する。

 予期せぬカウンターに、魔法を放ったズクは衝撃を受けつつも、周囲の魔法使いに魔法の行使を辞めさせる。そして険しい顔で双頭を睨み付けると、


「やってくれるね」


 ボソリと呟きながら、歩を進めた。


 アンジーも認識魔法を最大限に行使して、その正体を見極めようとしている、だが何故か認識が阻害されてしまう。高位の魔獣などにはその抗魔力故に、偶に認識魔法が効かない事がある。そんな経験をしてきたアンジーは、却って冷静になった頭で戦況を見つめていた。


 双頭攻略の目星はついている、だが自分の考えには確証が無い。その確認の為に認識魔法を集中させているのだが、双頭の抗魔力には隙が見当たらなかった。


 その時、物凄い形相で前進するズクが、アンジーに追いついてきた。すかさず呼び止めて攻略の案を耳打ちする、あくまで確証の無い仮説である事を言い含めながら。


「うむ……うむ……悪くないな、やってみるべきだ」


 意外にもすぐに乗ってきたズクと細部の打ち合わせをしていると、狼頭を仕留めたズキが走り寄って来た。役者は揃った、二人は頷き合うと、ズキを巻き込んで行動に移した。

百話までお付き合いいただきまして、誠にありがとうございます。もう少し続くよ(´・Д・)」(←サイ◯人が出てくるフリじゃありません)頑張って完結を目指します。これからもよろしくお願いします。


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