少年
少年は飢えていた。
ここ数日口にしたのは、野草と虫、葉についた朝露のみで、パサつく唇は老人の様に粉をふいている。
持ち物は生成り色の貫頭衣を麻紐で結んだだけのボロ着と麻のズタ袋、石を割って作ったナイフに、火打石、布団がわりにかけたフロシキ草の葉っぱが2枚のみ。
危険な森のなかで、唯一の安全地帯と呼ばれる「守りの木」によじ登り、枝を組んだだけのねぐら。その一昨日よじ登った木から、降りる体力も、気力も失せていた。
今はただ、熱を持つ膝関節を抱えながら横たわり、餓鬼のようにポッコリ出たおなかを見るように丸まって。気持ちは不思議と凪いでいる、全ては諦めたから。ただただ、水を欲する……
とろんとした目覚め。
本日3度目の気絶明けの少年は、今が醒めてるともいえないまどろみの中で手を見る。
日々の労働にヒビ割れた手のひらを無感情に見続け、目がかすみ、また気を失いそうになる時、強烈に気がたぎる。
激しい渇きと絶望感が波のように襲いかかり、全てを諦めた少年も思わず「ゔーー」と鳴いた。
まんじりともしない中、手のひらに違和感を覚え、霞む目で見ると、ヒビ割れの間に丸い玉のようなものが見えた。
なにかの錯覚か、と親指でなぞると潰れて染み込む、水⁈
その後しばらくすると、もう一回り大きな水が朝露の様に手に溜まる。たまらず口に含むと「水」だ!
少年は歓喜した、しばらく飲むのを我慢して、手のひらに集中していると、一刻も経たない位の時間でふたたび拳大の水球ができあがる。
たまらずかぶりつき指紋の溝まで吸い尽くすと、少し粘度のある水が干からびた食道を伝い落ち、胃に染み込むのを感じた。
「うまい!」
次に水球を作り出した時は、半刻もかからなかったが、同じく拳大の水をのみ満足げにゲップを吐くと、お腹がグーッとなる。
渇きが癒えると、現金なもので今度は腹が減ってきた。昔一度だけ食べた炙り牛肉を思い出しながら、麻ひもをしがむ。
モシャモシャモシャモシャ噛み続けながら、ふと右手を見ると、今度の水はピンク色だった。何となく血肉の臭いがする水は、溜まりが悪いが、一時間もすると鶏卵大になる。
口を近づけるとムッとくる臭気、意を決して飲み込むと一気に飲み下す。
食道が火がともった様に熱くなると、視界が暗転してくずおれるーーそれは本日4回目の気絶だった。