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LastStory  作者: 咲哉
LastStory:Brave
4/16

03

「ふぅちゃん!遊ぼッ!」

「いいよッ!遊ぼう!」


 まだ4歳くらいの少年少女が遊んでいた。

 暫くすると、その二人がどんどん大きくなっていく。


「ふぅちゃん、今日は一緒に帰ろうか」

「あいよ」


「ふぅ、今日はどうする?」

「帰りに飯でも食って帰るか」


「ふぅ、今度の日曜デートね」

「わかった。何時から?」


「ふぅ、このままいったら私たち、結婚までしちゃうのかな?」

「俺はそのつもり」


「ふぅ……一回別れよ?」

「なんで…?」


「ふぅ、好きだよ、愛してる。でも、今は駄目」

「どうして?」


「ふぅ、大丈夫だよ。この気持ちは変わらない。また直ぐ付き合うとこになると思う。でも、今は別れよ」

「絶対だぞ?」


「ふぅ、一緒に帰ろっか」

「おう」


「ふぅ、今度一緒に遊びに行かない?」

「……いいぜ」


(夢…か、覚めない夢なんて初めて見たな……)


「ふぅ、愛してる」

「…俺も」


「ふぅ、日曜日に買い物付き合ってくれない?」

「……いいよ」


(んな夢見たくねぇのに……)


「ふぅ、今度また遊びに行こうね」

「……………ああ」


(誰か……誰か俺を起こしてくれ……お願いだから…こんな夢を見せんな…ッ…)


 そう願ったとたん、暖かいものに全身が包まれる。

 

「大丈夫だよ」


 その声で、俺の意識は覚醒した。


「おはよう」

「ん、おはよ」


 暖かいものの正体は愛璃だった。愛璃が、俺を抱きしめてくれていた。


「どうして?」

「泣いてたから」


 目元を拭う。本当だ、確かに俺は泣いていたみたいだ。


「悲しい夢、見たの?」

「まあな、さほど気にすることじゃないさ」


 意識が覚醒してからどんどん冷めていく俺の思考回路が、冷静な判断を出せるようにする。いつもの俺だ。


「悪かったな、ちょっと昔の夢でさ。っと今何時だ?」


 何でも無い様に苦笑しながら、話を反らすために時間を聞く。どうやらまだ朝の6時をちょっと回ったくらいらしい。因みに、時間はウィンドウを開くことで見ることが出来る為、いつでも何処でも確認できる。

 

「それじゃ、朝食にしよっか。もう準備してあるよ」

「んあ、愛璃の手作りか?」

「うん」


 それは楽しみだ。

 俺は愛璃に一言「ありがとう」と伝え、ベットを出る。枕には涙でシミが出来ていた。


「うっめぇ!」

 

 思わずそう叫ばずにはいられない程、愛璃の料理はうまかった。メニューはベーコンエッグに食パン。材料は昨日のうちに買い揃えていた。

 目玉焼きの黄卵の部分は丁度いいくらいの半熟焼きでいて、しかし白卵の部分にはよく火が通っている。

 ベーコンは口に入れるととろけるようなジューシーさで食欲をそそる。

 食パンも同じくうまい具合に焼いてあり、表面はパリッとしていて内側はふわふわだ。


「愛璃……もしかして彼氏でもいた?」

「…いくら私でもちょっと怒りそうかも」

「え?あ…う?…ごめん…?」


 何故怒りそうなのか分からないが、取り敢えず誤った俺に愛璃は困ったような微笑を浮かべる。それすらも様になるんだから天使さまさまだよな。


「いいよ、わかってたことだから。…いないよ」

「ほぇ?何が?」

「……彼氏だよ………」


 愛璃に呆れたように言われ、自分が訪ねたことを思い出す。ちょっと恥ずかしいかも……恥ずかしいな。


「まぁ、好きな人はいるんだけどね」

「へぇ~嫉妬もんだなそりゃ」

「本気で嫉妬してそうな表情だね……」


 俺の表情を見て愛璃が言う。そりゃそうだ、ガチで嫉妬してるのだから。愛璃の様な性格美人で容姿も美人な女子に好かれるなんて、男子の嫉妬の対象だ。

 過去、俺は彼女がいたが、その女子も愛璃と同じタイプで少々性格がお転婆だったくらいだ。つくづく俺の傍にいる女子のレベルは高いなと思いながら、やはりそんな女子に好かれるやつには嫉妬していた。

 と言っても、ひとりは元俺の彼女で、一度別れたが今でも相思相愛ではあるのだが。


「まぁ、してるからな~。俺も頑張って愛璃狙ってみようかな」

「本人の前でいうことじゃないし……ふぅは彼女とかいるの?」

 

 愛璃が顔を少し赤く(?)させて問うてくる。


「ん、今はいないよ。前はいたけどね。ちなみに言うと今でも2人は相思相愛でござる」

「………そ、そうなんだ」

「って言っても、俺は2又3又万歳なんだけどね」

「……それって、要するにハーレム志望者ってこと……?」


 少し冷たい目線で愛璃が俺を睨んでくる。

 そんなに悪いことだとは思わないのだが。何せ好きな人が好きな人と付き合えるのだ。数なんて問題じゃないと俺は考える。と言うか1人に縛られるのは何だか嫌なのだ。大勢いたほうが楽しいし、大勢愛したほうが幸せなのは決まっている。

 だから、俺はこう答える。


「もちろん」

「……そう、ってそろそろ時間だね。片付けよっか」


 少しだけ困ったような笑顔になり、しかし納得したというような表情で愛璃が言った。

 俺も「そうだな」と相槌を返し、片付けを手伝った。


「おは~!」

「おはよう」


 弓弦とヒロが隣の家の玄関前から手を振ってくる。弓弦はやはり朝からテンションが高かった。常時テンション20くらいあるんではなかろうか。

 そのテンションを5くらい俺に分けて欲しい。


「取り敢えず今日の予定は情報収集だ。班分けは……何かもう決まってるみたいだからそれでいい。んで、どこで情報収集をするかだけど――」


 やはりこの日も俺がしきっている。

 弓弦ではしきりきらないし、ヒロでは話が脱線しそうだ。愛璃はまとめるのは上手そうだが、仕切るのはやはり上手そうには見えない。なら俺がやるしかない、とそういうことだった。

 班分けは案の定、俺と愛璃、弓弦とヒロだ。

 場所は俺達が入口ポータル付近、弓弦達が出口ポータル付近だ。一応入口ポータル付近に居れば、新しくこの街に来た人にも対応出来るし、そこで情報交換もできるためこう言う場所分けにした次第だ。


「なんか俺たち信用されてねぇよな…」

「まあ、弓弦よりふぅの方がしっかりしてるのは周知の事実だからね。しょうがないよ」


 何やら大の大人2人がぼそぼそ言っているが、無視して言う。


「んじゃ、早速行動開始。取り敢えず12時にまたこの場所でおち会おう」

「らじゃ」


 そこで、俺達は別れた。

 俺と愛璃は入口ポータル付近へと歩みを進める。


「な~んか、私たちって落ち着いてるよね~」

「そう…かもな。ネット小説やらでこう言った物語は読んだことあったし、それが自分に降りかかってきただけかって感じで、いまいち危機感がないな」

「私も。おかしいのかな?」

「そうでもないんじゃないか?」


 俺は曖昧にそう返す。

 本心は、おかしいと思っている。これは何らかのステータスの影響によって冷静になっているだけであり、愛璃は聖魔だ。精神系には強いはずで、だからこそ冷静にいられるのだと思う。

 逆に弓弦やヒロは芯が図太い為、驚いてはいるものの、慌てたりはしていないといった感じだろう。俺は……元が冷めた性格で、物事を客観的に見るタイプなためそこまでの動揺は覚えなかった。と言っても、やはり驚くところを驚し怒るときには怒る。案外そこまで冷めていないのかもな、と思う。

 目の前に入口ポータルが見えてきた。

 と、そこで。入口ポータル前に幾つかの人の姿があることに気付いた。


「愛璃、あれ」

「きた、みたいだね」

「行ってみるか」


 俺がそう促すと、愛璃は首肯した。

 そのまま入口ポータルの方へ足を向ける。だんだんと大きくなっていく人の姿。数で言うと6人、1パーティーで来たのだろう。そして、その中の一人に俺は見覚えがあった。


「トシ!」

 

 俺が大声で呼びかけると、一人の男がキョロキョロと周りを見渡す。やはりその男は俺の知人だった。


「こっちだ、トシ!」


 もう一度俺が声かけると、男はこちらを凝視する。

 その男の視線に釣られ、周りの人達もこちらを凝視する。思ったことだが、あまり人に凝視されるというのは好きになれないな。芸能人をやっていた俺でさえこれだ。愛璃はどうなっているのだろう。少し気になって横目で覗いてみる。

 全然大丈夫そうだ。

 

「……ってお前ふぅ坊かッ!?」


 男がそう叫びながらこちらに向かって手を振ってきた。俺の事をふぅ坊などと呼ぶのはこの世に彼奴くらいしかいない。


「おう!てかトシ、お前LSやってたんだな」


 既に手の届く距離にまで近づいていた俺は、通常の声で話しかける。


「まぁな、てかお前……浮気か?」


 トシが横に居る愛璃を見ながら言った。


「違うよ……それにもしそうでも浮気とは言わない」

「はいはい、そ~でござんすねっと」


 俺の言葉をこうも適当にあしらえるのは、トシ以外居ないのではないだろうか。ふと、そう思ってしまう。

 

「んで…呼び方トシでいいの?」

「んぁ?ああ、こいつ等には既に本名晒してるし、全然いいぜ。お前もふぅ坊でいいんだろ?」

「ああ、それでいい。積もる話もあるが、まずは情報交換といきたいんだが……いいか?」


 トシは少しだけ考えるように、顎を撫でたあと、


「こっちからもお願いしたいところだね」


 とニヒルに笑った。

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