03
「ふぅちゃん!遊ぼッ!」
「いいよッ!遊ぼう!」
まだ4歳くらいの少年少女が遊んでいた。
暫くすると、その二人がどんどん大きくなっていく。
「ふぅちゃん、今日は一緒に帰ろうか」
「あいよ」
「ふぅ、今日はどうする?」
「帰りに飯でも食って帰るか」
「ふぅ、今度の日曜デートね」
「わかった。何時から?」
「ふぅ、このままいったら私たち、結婚までしちゃうのかな?」
「俺はそのつもり」
「ふぅ……一回別れよ?」
「なんで…?」
「ふぅ、好きだよ、愛してる。でも、今は駄目」
「どうして?」
「ふぅ、大丈夫だよ。この気持ちは変わらない。また直ぐ付き合うとこになると思う。でも、今は別れよ」
「絶対だぞ?」
「ふぅ、一緒に帰ろっか」
「おう」
「ふぅ、今度一緒に遊びに行かない?」
「……いいぜ」
(夢…か、覚めない夢なんて初めて見たな……)
「ふぅ、愛してる」
「…俺も」
「ふぅ、日曜日に買い物付き合ってくれない?」
「……いいよ」
(んな夢見たくねぇのに……)
「ふぅ、今度また遊びに行こうね」
「……………ああ」
(誰か……誰か俺を起こしてくれ……お願いだから…こんな夢を見せんな…ッ…)
そう願ったとたん、暖かいものに全身が包まれる。
「大丈夫だよ」
その声で、俺の意識は覚醒した。
「おはよう」
「ん、おはよ」
暖かいものの正体は愛璃だった。愛璃が、俺を抱きしめてくれていた。
「どうして?」
「泣いてたから」
目元を拭う。本当だ、確かに俺は泣いていたみたいだ。
「悲しい夢、見たの?」
「まあな、さほど気にすることじゃないさ」
意識が覚醒してからどんどん冷めていく俺の思考回路が、冷静な判断を出せるようにする。いつもの俺だ。
「悪かったな、ちょっと昔の夢でさ。っと今何時だ?」
何でも無い様に苦笑しながら、話を反らすために時間を聞く。どうやらまだ朝の6時をちょっと回ったくらいらしい。因みに、時間はウィンドウを開くことで見ることが出来る為、いつでも何処でも確認できる。
「それじゃ、朝食にしよっか。もう準備してあるよ」
「んあ、愛璃の手作りか?」
「うん」
それは楽しみだ。
俺は愛璃に一言「ありがとう」と伝え、ベットを出る。枕には涙でシミが出来ていた。
「うっめぇ!」
思わずそう叫ばずにはいられない程、愛璃の料理はうまかった。メニューはベーコンエッグに食パン。材料は昨日のうちに買い揃えていた。
目玉焼きの黄卵の部分は丁度いいくらいの半熟焼きでいて、しかし白卵の部分にはよく火が通っている。
ベーコンは口に入れるととろけるようなジューシーさで食欲をそそる。
食パンも同じくうまい具合に焼いてあり、表面はパリッとしていて内側はふわふわだ。
「愛璃……もしかして彼氏でもいた?」
「…いくら私でもちょっと怒りそうかも」
「え?あ…う?…ごめん…?」
何故怒りそうなのか分からないが、取り敢えず誤った俺に愛璃は困ったような微笑を浮かべる。それすらも様になるんだから天使さまさまだよな。
「いいよ、わかってたことだから。…いないよ」
「ほぇ?何が?」
「……彼氏だよ………」
愛璃に呆れたように言われ、自分が訪ねたことを思い出す。ちょっと恥ずかしいかも……恥ずかしいな。
「まぁ、好きな人はいるんだけどね」
「へぇ~嫉妬もんだなそりゃ」
「本気で嫉妬してそうな表情だね……」
俺の表情を見て愛璃が言う。そりゃそうだ、ガチで嫉妬してるのだから。愛璃の様な性格美人で容姿も美人な女子に好かれるなんて、男子の嫉妬の対象だ。
過去、俺は彼女がいたが、その女子も愛璃と同じタイプで少々性格がお転婆だったくらいだ。つくづく俺の傍にいる女子のレベルは高いなと思いながら、やはりそんな女子に好かれるやつには嫉妬していた。
と言っても、ひとりは元俺の彼女で、一度別れたが今でも相思相愛ではあるのだが。
「まぁ、してるからな~。俺も頑張って愛璃狙ってみようかな」
「本人の前でいうことじゃないし……ふぅは彼女とかいるの?」
愛璃が顔を少し赤く(?)させて問うてくる。
「ん、今はいないよ。前はいたけどね。ちなみに言うと今でも2人は相思相愛でござる」
「………そ、そうなんだ」
「って言っても、俺は2又3又万歳なんだけどね」
「……それって、要するにハーレム志望者ってこと……?」
少し冷たい目線で愛璃が俺を睨んでくる。
そんなに悪いことだとは思わないのだが。何せ好きな人が好きな人と付き合えるのだ。数なんて問題じゃないと俺は考える。と言うか1人に縛られるのは何だか嫌なのだ。大勢いたほうが楽しいし、大勢愛したほうが幸せなのは決まっている。
だから、俺はこう答える。
「もちろん」
「……そう、ってそろそろ時間だね。片付けよっか」
少しだけ困ったような笑顔になり、しかし納得したというような表情で愛璃が言った。
俺も「そうだな」と相槌を返し、片付けを手伝った。
「おは~!」
「おはよう」
弓弦とヒロが隣の家の玄関前から手を振ってくる。弓弦はやはり朝からテンションが高かった。常時テンション20くらいあるんではなかろうか。
そのテンションを5くらい俺に分けて欲しい。
「取り敢えず今日の予定は情報収集だ。班分けは……何かもう決まってるみたいだからそれでいい。んで、どこで情報収集をするかだけど――」
やはりこの日も俺がしきっている。
弓弦ではしきりきらないし、ヒロでは話が脱線しそうだ。愛璃はまとめるのは上手そうだが、仕切るのはやはり上手そうには見えない。なら俺がやるしかない、とそういうことだった。
班分けは案の定、俺と愛璃、弓弦とヒロだ。
場所は俺達が入口ポータル付近、弓弦達が出口ポータル付近だ。一応入口ポータル付近に居れば、新しくこの街に来た人にも対応出来るし、そこで情報交換もできるためこう言う場所分けにした次第だ。
「なんか俺たち信用されてねぇよな…」
「まあ、弓弦よりふぅの方がしっかりしてるのは周知の事実だからね。しょうがないよ」
何やら大の大人2人がぼそぼそ言っているが、無視して言う。
「んじゃ、早速行動開始。取り敢えず12時にまたこの場所でおち会おう」
「らじゃ」
そこで、俺達は別れた。
俺と愛璃は入口ポータル付近へと歩みを進める。
「な~んか、私たちって落ち着いてるよね~」
「そう…かもな。ネット小説やらでこう言った物語は読んだことあったし、それが自分に降りかかってきただけかって感じで、いまいち危機感がないな」
「私も。おかしいのかな?」
「そうでもないんじゃないか?」
俺は曖昧にそう返す。
本心は、おかしいと思っている。これは何らかのステータスの影響によって冷静になっているだけであり、愛璃は聖魔だ。精神系には強いはずで、だからこそ冷静にいられるのだと思う。
逆に弓弦やヒロは芯が図太い為、驚いてはいるものの、慌てたりはしていないといった感じだろう。俺は……元が冷めた性格で、物事を客観的に見るタイプなためそこまでの動揺は覚えなかった。と言っても、やはり驚くところを驚し怒るときには怒る。案外そこまで冷めていないのかもな、と思う。
目の前に入口ポータルが見えてきた。
と、そこで。入口ポータル前に幾つかの人の姿があることに気付いた。
「愛璃、あれ」
「きた、みたいだね」
「行ってみるか」
俺がそう促すと、愛璃は首肯した。
そのまま入口ポータルの方へ足を向ける。だんだんと大きくなっていく人の姿。数で言うと6人、1パーティーで来たのだろう。そして、その中の一人に俺は見覚えがあった。
「トシ!」
俺が大声で呼びかけると、一人の男がキョロキョロと周りを見渡す。やはりその男は俺の知人だった。
「こっちだ、トシ!」
もう一度俺が声かけると、男はこちらを凝視する。
その男の視線に釣られ、周りの人達もこちらを凝視する。思ったことだが、あまり人に凝視されるというのは好きになれないな。芸能人をやっていた俺でさえこれだ。愛璃はどうなっているのだろう。少し気になって横目で覗いてみる。
全然大丈夫そうだ。
「……ってお前ふぅ坊かッ!?」
男がそう叫びながらこちらに向かって手を振ってきた。俺の事をふぅ坊などと呼ぶのはこの世に彼奴くらいしかいない。
「おう!てかトシ、お前LSやってたんだな」
既に手の届く距離にまで近づいていた俺は、通常の声で話しかける。
「まぁな、てかお前……浮気か?」
トシが横に居る愛璃を見ながら言った。
「違うよ……それにもしそうでも浮気とは言わない」
「はいはい、そ~でござんすねっと」
俺の言葉をこうも適当にあしらえるのは、トシ以外居ないのではないだろうか。ふと、そう思ってしまう。
「んで…呼び方トシでいいの?」
「んぁ?ああ、こいつ等には既に本名晒してるし、全然いいぜ。お前もふぅ坊でいいんだろ?」
「ああ、それでいい。積もる話もあるが、まずは情報交換といきたいんだが……いいか?」
トシは少しだけ考えるように、顎を撫でたあと、
「こっちからもお願いしたいところだね」
とニヒルに笑った。