10
トシからのメッセージの後、リビングでは何とも言えない雰囲気が漂っていた。
唯、それが悲しみや絶望でないことはわかる。楓と愛璃、この2人は赤の他人がどうなったところで感情と言う感情はほとんど左右されない。それがわかっているアリスもまた、2人に感化されたのかその様な感情にはならなかった。
(まぁ……別に2人が生きていればそれでいいし)
それが、アリスの考えだった。
アリスはこの世界で言えばAIに分類され、NPCであるが、感情をもっている。何故このような現象が起きたのかは未だ誰にも分かっていないが、それは確かだといえる。
しかし、AIはAI、NPCはNPCである。
アリスは驚くくらいに白い。その為、この世界ではどうしても目立ってしまう。もちろん、LSには外国ユーザーもいる為、白人は結構な数居るのだが、その中でもアリスは相当目立つほど白いのだ。
その為、アリスはほとんど人前に出たことがない。出るとしても、フード付きの黒いローブを着込み、魔法使い風の防具を装備してから街にでる。
それゆえに、2人、いや、弓弦やヒロも入れて4人以外に、友人と言う友人がアリスには存在しなかった。
それが、このような考えに、アリスが至った理由なのかもしれない。
(取り敢えず……仲間たちだけは、絶対に守ってみせる)
それが、愛璃の考えだ。
愛璃は『友人』と『仲間』を全然違うものとして解釈している。もちろん、現実的に見ても、その2つは違うものなのだが、愛璃は少し違った。
『友人』とは、唯楽しくおしゃべりをするだけの存在。当然、信頼など出来ない。いつ裏切られるかもわからない、そんな薄っぺらい人間関係だと愛璃は解釈していた。
その為、愛璃は『友人』など、守る価値もないものだと考えている。それが間違っているのか、そう聞かれれば誰もが間違っていると答えるかもしれない。しかし、現実的に考えて、それが間違っているとは完璧には言い切れないのだ。
『友人』を裏切る様な人間は、この世に5万といるのだから。
(仲間だけは死なせはしない)
それが、楓の考えだった。
一見愛璃と同じ考えに見えるが、全然違うのだ。
仲間だけは死なせない。つまり、仲間以外でも、守る。とも解釈できる。
それが、楓と愛璃、2人の違いだった。
愛璃は必要ないものは全て切り捨てる。
楓は必要なものは全て守りきり、必要ないものも可能な限り守る。
合理的なのは愛璃。しかし、人間的に見れば、まだ楓のほうが人間味があった。しかし、傍から見れば、愛璃の方が人間味溢れているのだから、人間と言うのは不思議なものだ。
「っと、微妙な雰囲気は此処までにして」
「そうね。そろそろ始めましょうか」
「っへ?」
行き成りアリスが発言し、それに何の反応も示さず即効で相槌を打つ愛璃に、楓は間抜けな声を上げて動揺する。
「っへ、って。今日何の日だか覚えてないの?」
アリスが少しだけ、冷たい目線で楓を睨む。
それを楓は素で見つめ返し、わからないと小首をかしげた。
一方、素で見つめられたアリスはと言うと、顔を赤くして俯いてしまった。さらにその事が何が何だかわからない楓は愛璃に向かって小首をかしげる。
「はぁ……」
愛璃は心底呆れたような溜息を付いた。
「今日はふぅの誕生日でしょ」
「……………ぁあ!」
楓は今思い出したと言わんばかりに、手をポンと叩く。その姿は頭上に電球マークが出ているようにも見えた。
「ところで、アリスは何であんな感じに?」
「本っ当、鈍感なのか敏感なのかわからないよね」
さらに愛璃が呆れたように言う。
「楓に素で見つめられたら、誰だってこうなるわよっ!」
今まで俯いていたアリスが大声で叫んだ。
その声量に2人は驚きつつアリスに目線を向けると、アリスは肩でハァハァと息をしていた。
「ふぅって本当、良く知ってる相手以外には鈍感なんだから」
未だ肩で息をしながら、アリスがごちる。
そんなアリスに、楓は微笑みを貫いた。
「ふぅってたまにずるいよね」
「たまにじゃなく、いつもの間違いだろう?」
「いえいえ、謙遜ならさずに。いつもはもっと素直で可愛らしいですよ?」
「あらあら、それを貴方が言いますか。男性から見ればこれ以上はないくらいの美貌の持ち主の貴方が?」
「あははははは」
「はっはっは」
なぜだかいつの間にか始まった口論に口をポカンと開き呆然としているアリス。
「いや、アリス、固まんなよ」
「……そうね…もう2人に脅かされるのは懲り懲りだわ」
「俺がいつ脅かした?」
「今の流れよっ!」
今にもはち切れそうなアリスを見かねた愛璃が、仲裁に入るため2人の間に自分の体を割り込ませた。
「はいはいそこまで。2人はテーブルに付いてて」
楓は普通に、アリスは呆れたと言わんばかりにテーブルへと歩いて行った。
楓とアリスはテーブルにつくと、先程までの険悪なムードは何処にいったと言わせんばかりに仲むずましく、悪く言えばいちゃいちゃしていた。
そこに、1つの箱を持った愛璃が入る。
「ふぅ、手伝って」
「あいよ」
楓は愛璃から、その1つの箱を受け取ると、テーブルの中央に置く。いくら楓と言っても、この箱の中に何が入っているかはわかりきっているため、そぉっと置いていた。
しかし、よくよく考えてみれば、この世界に地球と同じケーキが都合よく存在しているのか、と疑問に思うだろうが、今の楓にそのような疑問は思い浮かばなかった。
愛璃がアリスの横に着席する。
楓の向かい側にアリス、その横に愛璃といった感じだ。
「さ、ふぅ、開けてみて」
「おう」
愛璃に促され、楓は立ち上がり箱を開けにかかる。アリスはそれを何が出てくるのだろうと好奇心満載で見つめている。
そして、ついに箱が開かれた――
「うごぉ!」
――出てきたのは、グローブ。ボクシンググローブ。
それが楓の顎に向かって勢い良く放たれた。
しかし、楓はここで驚異の反射神経を見せつける。
大きく後ろにのけぞり、そのボクシンググローブを見事に避けてみせたのだ。これには愛璃もアリスも驚くしかなかった。
やや微妙な沈黙が訪れる。
「いやいやいや!」
その沈黙を破ったのは楓だった。
「何故にビックリ箱っ!?」
「いや、流石にこの世界にケーキってなくてさ。それで誕生日パーティーの定番といえばこれかな~と」
「まぁ定番っちゃ定番だけどさぁ……」
愛璃の回答に少し気落ちする楓。
アリスは未だ硬直から解き放たれていない。それほどまでに楓の反射神経と身のこなしに驚いていたのだ。
そんなアリスの肩を、愛璃が優しく叩き、強直から解き放つ。
「………本当に、驚き疲れるわ」
「私もさっきのにはビックリしたよ」
2人でうんうんと言っている愛璃とアリスを見て、何だか蚊帳の外の様な気がしないでも無い楓。
と、そこで愛璃が動いた。
「さっきのはほんのジョーク。はい、これプレゼント」
「んぁ、ありがと。っつっても男が女からプレゼント貰うってどうなんだろうな~」
「あら?両親はプレゼントあげたりしてなかった?」
「してたけど……ああ、そう言う意味ね」
何だか当回しにプロポーズされたような気分になる楓。
しかし、それで終わりではない。アリスもいるのだ。
「はい、これは私から」
「ん………ってこりゃぁ……」
アリスから手渡されたのはブレスレット。
一見、定番なプレゼントだが、モノが違った。そのブレスレットは、虹色に輝きを放っていて、人の心を惹きつけるような色だった。
思わず楓と愛璃はそのブレスレットに釘付けになってしまう。
「その、ね。これは感謝の気持ちよ。楓にはいろいろ世話になってるから、ね」
「……いいのか…これすげぇモノだろ?」
「良いの。これが私の気持ちだから」
アリスが、白い女神を連想させるような微笑みでそう告げた。
(ったく、アリスにしても愛璃にしても、ずるいのはお前らだろうが)
そう思ってしまう楓だったが、アリスの気持ちは本心で嬉しかった。
うやうやしくそのブレスレッドを受け取り、腕にはめる。大きさは自動調節されるのか、腕に通した瞬間丁度いい大きさにまで縮んだ。
暫く3人でそのブレスレッドの輝きを見つめたあと、楓が動いた。
「さてと、愛璃からは何かなっと」
先ほど愛璃から受け取った小さな箱を手に取り、楓は包装をといていく。
そこには四角い箱があった。そしてその箱を開け、楓は細く笑んだ。
「ありがとう」
「ん」
心なしか、愛璃も嬉しそうに微笑んでいるように楓には見えた。
箱の中にあったのは――
――Airi・Fuと刻まれた指輪だった。
愛璃は左腕を掲げて、指を見せる。そこには、今楓がもっている指輪と同じものがあった。律儀にも薬指に装着されている。
それを見た楓は、同じく左薬指に、指輪を装着した。
「「誕生日おめでとう、ふぅ(楓)」」
「……ありがとう」
楓の瞳から1粒の雫がこぼれ落ちる。
それに2人は驚愕し、動揺した。誕生日に、プレゼントをもらい、涙を流す。そんな事実に、2人は驚愕し、動揺したのだ。
誕生日にプレゼントを貰うのは世間一般帯では当然とも言える。
人口知能をもつアリスはそれを知っているし、地球で生まれ育った愛璃もそれは知っている。
だから、2人は何故楓が涙を流したのかがわからなかった。
いや、分かりたくなかったのだ。
何だかそれは、知っていはいけないような気がしたから。
「わりぃ」
そうなることを知っていたかのように、楓は服の裾で涙を拭う。
そして、2人に心配させないよう、言葉を紡ぐ。
「やっぱ愛する2人の女性にプレゼントを貰うって、嬉しくてさ。歓喜あまっちまった」
薄く微笑む。
「驚かせて悪いな」
そう言って、もう大丈夫だと言わんばかりに、力強く微笑んだ。
「そんなに喜んでもらえたのなら、私も嬉しいよ」
「ったく、楓って泣き虫なのかそうじゃないのか本当わからないわね」
2人も微笑み返す。
自分達が、どれほど動揺しているか悟らせないために。
自分達が、今の楓にどれほど心を締め付けられているか悟らせないために。
その後は、3人でどんちゃん騒ぎ――とはならなかった。
楓、愛璃、アリス。
この3人でどんちゃん騒ぎなどなり得るはずもなく、甘い甘い空間になっていた。それはもう、独身男性なら楓をどんな拷問器具をつかって殺害しようかと考えるほどに。
そんな時間が数時間続き、そろそろ就寝の時間だということで解散する。
寝室に行き、3人は眠りにつく。
愛璃とアリスは楓が眠りについたのを確認すると、起き上がった。そして、2人で涙を流す。
「知らなかった……」
「愛璃姉だけじゃないわ……多分、誰も知らないのよ………」
愛璃とアリスは思い出す。
あの楓が見せた、悲痛の微笑を。
それは、何かに絶望し、全てを恨んだ者の微笑みだった。
今の楓はそんな事を微塵も思っていないだろう。しかし、昔はそう思っていたのだと、2人は確信していた。あれはその時の事を、思い出しての微笑みだったのだと、確信していた。
そして、それを思い出させてしまったのは自分たちだということも、確信していた。
だから、2人の胸は今、こうやって強く締め付けられる。
嗚咽を漏らし、泣きそうになるのをこらえるのが限界だった。これが唯の仲間だったならば、罪悪感は覚えるもののここまでは至らなかっただろう。しかし、相手が最愛の人だった場合、どうだろう。
「……愛璃姉」
「……わかってる。ふぅにこんな事思い出せないくらい幸せになってもらおう……」
「………幸せにしてあげる。……でしょ?」
「それだけ軽口がたたけるなら、大丈夫ね」
未だ涙が収まらない義妹の髪を、愛璃は撫でる。そんな愛璃も、未だ涙は収まっていない。
しかし、人生経験の差はあった。
これまで何度か世界に絶望仕掛けてきた自分と、AI、NPCとして生み出され、地上に足をつきまだ間もないアリス。
愛璃は、アリスの涙が収まるまで、その頭を撫で続けた。
この日の夜、1人の少年と、2人の少女の絆はさらに深まった。
それは良い事とも言え、悪いこととも言える。
仲間との信頼関係をより深くするのは良い事だが、深めすぎると情に流されやすくなり、危険が増える。しかし、3人にとってそれはどうでも良い事だった。
3人は、今この瞬間、一緒にいられれば、それで十分だったのだから。
本編10話記念
楓「で、何しろってんだ」
なにか面白いことしてください。
楓「えらい投げやりだな………これはどうだ?今から目の前のワイバーンを通常攻撃だけで各部に斬り分けるってやつ」
………お疲れ様でした。
楓「gdgdすぎるだろ!」
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流石に嘘です。




