09
楓と愛璃は、あの後手短に食材の調達に狩りに出向いたあと、自宅へと帰宅していた。道中、他愛の無い話をしながら、手を繋いで歩いているその姿は誰がどう見てもカップル同然だ。
「そう言えば、昨日あの子いなかったよね?」
「いつもの通り、帰ってきてるだろ」
「まぁそうだね」
その後も他愛の無い話を続け、約10分程歩いたくらいで自宅へと到着した。楓と愛璃の家は、今でも変わらず【ルードリア】のとある一角にある。今では、誰にでもそこは知られていて、たまに人が訊ねてくるが、そう多くはない。
楓からしてみれば「地球にいた頃よりまし」らしく、それが彼の地球での人気度を表しているとも言える。
お世辞にも広いとは言えない庭を歩き、玄関の扉を開ける。
「ただいま~」
「ただいま、っと」
2人が社交辞令で帰宅の言葉を漏らすと、リビングの方から誰かが急ぎ足で駆けつける音がした。
「おかえりっ!」
それは少女だった。
彼女の名前はアリスといい、約1年と半月前に出会った少女だ。いろいろあったが、今ではこうして一緒に暮らしている。
「よう、アリス。昨日は何してたんだ?」
「ん?ああ、今日はアレだから、ね、愛璃姉」
「うん」
アリスの言葉に愛璃が相槌をうつ。どうやら楓は蚊帳の外のようだ。
その事に、少しムスッとしないでもない楓だったが、彼がそれを表情に出すことはない。
楓は、元人気アイドルグループリーダーであるため、表情や感情のコントロールには慣れている。だが、それも今となっては少し脆いものとなっているのが現状だ。しかし、やはりその技能は、今でもこうして役にたっているのだ。
(アリスに悟られたら、からかわれるのがオチだしな)
楓は内心でそう思いながら、家に上がる。それに追随して愛璃も靴…と言うよりも戦闘用のブーツを脱ぎ、家に上がる。そんな2人を追って、アリスは家のおくへと進んでいった。
傍から見れば、中の良い家族か何かだろう。それも、かなり容姿的にレベルの高い。
事実、近所を拠点としているユーザーからは、そう見られているのだが、その事実を楓達は知らない。いや、知ったからといって何だかんだと言い訳するような3人では無いので、あまりその事実は意味をなさないだろう。
楓と愛璃は、調達した食材を冷蔵庫に収め、リビングにあるソファーに肩を並べてドスッと腰を下ろす。
「今日も疲れたねぇ」
「だな~、にしてもトシの奴大分きてんな~」
「ん~、その辺は穂波さんがコントロールしてくれるだろうけど、根本的解決は出来ないだろうね」
愛璃は楓の顔を見ながら、ニヤリと笑った。
「だろうな。何処かの美人さんが介抱してやれば、あいつも男だ。案外簡単に解決するかもな」
楓も愛璃の顔を見て、ニヤリと笑う。
そんな2人を見て、
「あはは………」
乾いた笑い声を漏らすアリスだった。
「まあ、その内2人で話してみるさ」
「そう、じゃ、私は夕食作るから。アリスとイチャイチャするといいよ」
「……その言い方はちょっとなぁ…」
「あはは、じゃぁよろしくね」
愛璃はそれだけ言いのこすと、キッチンの方へ小走りで行ってしまう。
そこで、楓がアリスに目を向けると、アリスは心なしか若干顔を赤面させ、もじもじと動いていた。
「あんまし気にすんなよ」
「ん」
少し優しく楓が言うと、アリスは顔を上げ、そのまま楓の隣へ座る。
「あれから半月だね……」
「あんときゃ疲れたわ~」
半月前。
楓はある方法を使い、AI、つまりNPCであるアリスをこのLSの世界に留まらせることに成功した。実際、2人はその1年前に一度合っているのだが、その時はそのある方法を楓が知らなかったため、涙ながらに別れたのだ。
その為、こうして今一緒にいれることを、2人は心から喜んでいた。
楓とアリスが、暫く駄弁っていると愛璃から及びがかかった。どうやら夕食ができたらしい。2人はソファーから立ち上がり、キッチンに繋がるテーブルの方へ移動する。
そこには、いつも通り豪華な料理が並んでいた。
楓、愛璃、アリスは知らないが、今このテーブルに並んでいる料理の数々は、相当豪華なものなのだ。最前線ユーザーに属する楓と愛璃だが、2人の実力は他の最前線ユーザーよりも抜きん出ている。何せ、2人はスキルを使わずに、毎朝Mob狩りを鍛錬にしているのだ。
楓はまだ、元の職業が戦闘職の為、ステータス補正である筋力もありそれほど不思議ではないが、愛璃は非戦闘職である聖魔の為、ステータス補正である筋力は少ない。その為、スキル無しでMobを倒すのはかなりの数攻撃しなければいけなくなる。
そこで身に付いたのが、ステータスでの筋力ではなく、肉体的による筋力、体重移動の技術だ。その為、今の愛璃には通常の男性が暴力で挑んでも、あっさりと一発いれられてやられるのがオチだろう。
そんな2人が、スキルありの戦闘で、最前線Mobの食材を調達してきているのだ。かなりの数に、かなりレア度の高い食材もある。しかし、2人からしてみれば、それは毎日の作業と言っていいくらい当たり前の事で、この程度の料理は誰しもが毎日食べている料理だと思っていた。
「いつもながらに見た目はあれだが、美味いな」
「うん、美味しいわ、愛璃姉」
「ありがとう」
ほぼ社交辞令と化している感嘆の言葉を口にし、料理を堪能する。
やはり女性が2人いる為か、食事中にもガールズトークに花が咲き、楓は蚊帳の外になるのだが、そこは楓も男だ。第一にガールズトークに入るなど、楓には不可能であった。
(女の趣味なんてわかんねぇしなぁ………それに――)
「でさぁ、楓ってば――」
(話すこと俺のことばっかだしな……)
そう言った理由もあり、楓は自ら蚊帳の外を選んでいる。
「あ、明日時間ある?ふぅ」
と、愛璃から楓へと声がかかった。
楓は一旦箸を止め、愛璃と向き合って答える。
「いや、聞かなくてもわかるだろ」
楓は本心で言っていた。
何しろ、このLSの世界に来て、大抵の時間は愛璃と一緒に過ごしているのだ。その為、時間があるなどと言う質問が、愚問に値した。
「いや、まあこれも社交辞令じゃない?それなら、明日佳奈ちゃんのとこ付き合ってくれない?」
「んあ、武器強化でもすんのか?まあそれなら俺も明日行こうと思ってたし、全然オーケーだ」
「良かった。ありがと」
愛璃はそれだけ言うと、またアリスとのガールズトークに花を咲かせ始めた。
それを横目に、楓は自分の分の夕食を食べ終え「ご馳走様」と一言残し、食器をキッチンに運んだあとリビングのソファーへと向かった。
しかし、このLSの世界。
冷蔵庫やら風呂やら現実的な生活用品は用意されている癖にテレビだけは無い。理由としては、放送する番組などが無い為と言う例もあげられているが、それでもDVDなど置けば見れるではないかと思ってしまう楓であった。
だが、無いものは無い。その為、諦めもついている。
そこで登場するのが、小説だった。そして何故か、漫画本が無い。漫画家が居ないのだからしょうがないと言えばそれまでなのだが、小説だって小説家は居ないのだ。しかし、小説は存在している。
そのどれもが古い書籍ばかりだが、あることにはあるのだ。
少し不思議に思う楓だったが、やはりこれも諦めがついていた。
(諦めがなけりゃ、こんな世界では生きていけないしな)
それが楓の本音だった。
楓は仲間を守る為なら、大であろうと小であろうと切り捨てる性格だ。その為、仲間を救うため、他のユーザーを見殺しにすることも、諦めという言葉で片付けている。
それが逃げだとしても、楓は全知全能の神では無い為、そうするしか無いと言えば無いのだ。
その事について誰も責めないし、責められたとしても楓はどうとも思わない。自分の考えは自分の考えなのだ。他人にあ~だこ~だ言われる筋合いはないのだから。
楓は小説を棚から一冊取り出し、ソファーに寝転びながら読み始める。
丁度最初の1文字目を読もうと下あたりで、ピコーンと甲高い効果音が鳴った。
この世界には、フレンドと言う欄から通話とメッセージを送ることができる。一度だけピコーンとなるのがメッセージで、トゥルルルルとなるのが通話だ。現実世界と然程変わりはない。
変わりがあるとすれば、目の前にウィンドウが自動的に開かれるということか。
「どれどれ………っと、ん?トシか」
メッセージ通知からメッセージを開き、内容を見る。
「っておいおいおいっ!」
普段あまり動揺しない楓が、大きく動揺する。そのことを知っている愛璃やアリスは、なんだなんだと楓の傍に集まってくる。
そして、ウィンドウの中を覗き見た。
「これって……」
「っちょ、なによこれっ!」
愛璃もアリスも動揺を禁じ得なかった。
そこに書かれていた内容はこうだった。
▲▲▲▲▲▲
To:トシ
Message:今日、お前に情報もらってから中ボス討伐に行った。そこで、約20名が命を落とした。この世界で、初めての戦死者だ。もちろん蘇生魔法も使ったが、効果はなかった。道中、死んだ奴を蘇生魔法で生き返らせることが出来たことから、中ボスエリアでの蘇生は不可能とみた。多分、これから先の中ボスエリア、ボスフィールドでも同じことが言えるだろう。お願いだ、お前たちもこれからのボス討伐に参加してくれないか?認めたくないが、人を纏める能力、カリスマ性、指導力、戦闘能力においてお前は俺より断然上だ。良い返事を待っている。
▼▼▼▼▼▼
「ついに……かぁ…」
「死んだユーザーは動かすことが出来ない。おかしい条件だと思ってたけど……こう言う事だったんだ…」
楓と愛璃は、どことなく冷たい声音でそう呟いた。
その2人の声音からは、残念感というものが伝わってこない。
同情も、悲しみも伝わってこない。
「………」
アリスは黙っていることしかできなかった。
アリスは知っていた。この2人が何処か壊れていることに。だが、悪い方に壊れているわけではないことも知っている。唯、2人は仲間の事しか考えていないのだ。
もちろん、2人は助けてと言われれば、十分な情報収集の上、助けを求めた人物が一方的にやられていれば助けるだろう。だが、もし助けた求めた人物の方にも、悪いところがあった場合、この2人は簡単に見捨てる。
この2人は、平等なのだ。
仲間以外の相手に対し、全てにおいて平等なのだ。
仲間、友人、知人が相手ならば、バレないように手助けをするが、知りもしない相手ならば、見向きもしない。
非常だが、優しくもあるそんな2人に、アリスは少しの恐怖と、少しの憧れを抱いていた。
「んま、俺は今後参加するようにするけど、愛璃はどうする?」
「私も参加するよ。もちろん、ふぅに迷惑はかけない。それに、私はこれでもふぅの次に強いんだから」
楓にはわかる。愛璃は唯、楓が自分を守ることに専念しないように、そういったのだ。内心では、少しは恐怖を抱いているだろう。もちろん、自分が死ぬことに対して、そして、楓が死ぬことに対しても。
愛璃が参加すると言った理由はこれにある。
自分が知らないところで、死んで欲しくない。もし楓が死にそうになったら、自分が助ける。それは要らぬ世話だと言いたい楓だが、自分とて我が儘を言っているのだ。
そこまで愛璃が何故参加すると言ったのか、何故その後に続きを言ったのかを楓は理解しながらも、
「わかった」
と、返した。
もちろん、楓は決めている。
愛璃に危険が迫れば、自分の命を投げ売ってでも庇うと。
もし愛璃が楓を庇おうとすれば、気絶させてでもそうさせないと。
そしてそんな楓の考えに、愛璃も気づいている。
自分が楓を庇うなど、出来もしないとわかっていながらも、愛璃はその道を選んだ。
それを、楓は知っている。
お互いがお互いを理解し、お互いがお互いを尊重しあい、楓と愛璃はこの2年と半月を生きてきた。その為、これだけの、少ない会話の中で、それだけ相手の事を悟る。
これが、本来の『絆』なのかもしれない。
楓はメッセージを打ち、送信する。
▲▲▲▲▲▲
To:Furin
Message:了解した。俺と愛璃は参加する。翡翠にヒロには、明日にでも聞いておくさ。それと、あんまり背負いすぎるな。お前のせいじゃないんだ。お前は、お前でいろ。それだけで、事は上手くいく。だが、これだけは理解していてくれ。俺は、全てにおいて『仲間』を優先する。その次に『友人』その次に『知人』。名も知らない奴は、俺は切り捨てる。以上だ。
▼▼▼▼▼▼
ピコーンと甲高い効果音が、広い職務室の中に響く。
青年はメッセージ通知を開き、内容を見て、苦笑した。
その苦笑は慈愛に満ちていて、親族を思いやる様な苦笑にも見える。
「俺は知らず知らずの内に事を上手く運び、お前は自分の手で事を上手く運ぶ。どっちが優秀か、だれに聞いたって答えは同じだよな、ふぅ」
静かに囁いた青年の言葉が、窓から差し込む月明かりに紛れ、消えていった。
ほ、本当は22時に更新する予定だったんだよっ!?
でも、予約投稿しようとしてた時に22:01分だったんだっ!
ごめんよっm(_ _)m
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