08
さて、今回から3人称になります。
前まで1人称だったのは主人公メインだったからね!
今回からは愛璃を始めとして色んな人がメインになるから3人称に変えたってわけさ!
まあくだらない前書きはこの辺で。
※この話は、以前投稿していたものを、番外編投稿のため一度削除したものです。
そのため既に読んでいる人は、読まなくても大丈夫です。
「弓弦!」
「おうよッ!【暗殺】……!」
瞬間、弓弦の姿が一瞬消えたように見えたと同時にMobが悲痛の鳴き声を漏らす。既に弓弦は敵の背後にまで到達していた。
それを見ていた愛璃が【光の矢】を発動させ、防御力の低い首元に命中させる。そこでまた、Mobは大きく鳴き叫びながら仰け反った。
「来たれ我が力たる数多の真槍よ!【グングニル】」
その隙を見逃さずヒロが強力なスキルを発動させた。その間も、愛璃の【光の矢】は続き、弓弦による通常攻撃の手裏剣等的をMobは喰らっていた。そして、一定ダメージを超えたのだろう。Mobは今までの中で一番大きな鳴き声をあげながら横に倒れる。しかし、それは死ではない。唯のスタン状態と考えても間違いではないこの状況、その僅かな硬直状態を楓は見逃さない。
一息にMobに接近し、片手に持った大剣を振り上げ、跳躍する。10m程の跳躍、頂点に達した瞬間に減速し、急降下を始め、そのままMobの脳天に向かって突き進む。Mobの脳天が近づき、楓の間合いに到達したその瞬間、楓は大剣を急降下の威力と共に振り下ろした。
Mobの脳天が割れ、頭蓋が砕け、脳漿が炸裂する。脳漿と共に飛び散る返り血を浴びながら楓は地上に緩やかに着地した。
楓の眼前にウィンドウが出現し、それを慣れた手つきで操作する。すると血だまりの中に横たわるMobがうっすらと透けていき、次の瞬間には目指できなくなった。
「あいっ変わらずの動きだなぁおい」
ウィンドウを操作し終え、ドロップしたアイテム、所謂素材を確認していた楓の頭を小突きながら弓弦が呟く。楓は小突かれた頭をさすりながら自身のウィンドウを閉じ、振り返る。
そこには、このLSの世界にとばされてからずっと一緒に過ごしてきた仲間がいた。
愛璃、弓弦、ヒロ。
この3人と一緒に過ごせてきたのは、楓にとって嬉しいことだった。
この3人が居たからこそ、今の自分がいると思える程に。
この3人が居たからこそ、此処までこれたと思える程に。
あの日、大晦日の深夜。
楓達はこのLSの世界へと、とばされた。
今はそれから2年経っている。いや、正確には2年と半月程度か。
既に、あれから9つ目の街にまで到達していた。大体街と街との間にあるフィールドは5つ、その各フィールドにボスは存在する。1から4までのボスは中ボス、最後の5のボスはその名のとおり、次の街へ進むために倒さなければいけない最後のMobだ。現状、フィールド的に言えば街9つ分と3つ進んでいると言ったところか。あと2フィールドクリアすることで、ようやく10つ目の街に到達する。
楓はその10つ目の街に、何かあるのではと考えていた。
理由は簡単なことで、10と言えば一つのクォーターポイントとして有り得るからだ。もちろん、5つ目の街の時にもそうでは無いかと思っていたが、その予想は外れた。今回、10つ目がクォーターポイントでなければ、次は15、20と予想を立てるに違いない。楓は自分で自分を嗤った。
何を自分は焦っているんだ、と。
しかし答えが返って来た事で、楓は自分が変わったのだと実感した。
答えは簡単、仲間である3人を速く地球へと帰してやりたいのだ。否、一緒に帰りたいのだ。それが偽善だと言うやつがいるかもしれない。唯、楓にとって仲間に振りかざす偽善は、偽善では無い、と思えた。
見知らぬ人に振りかざす偽善は、明らかな偽善である。だが、知っている、そして親しい仲間に振りかざす偽善は、本当に偽善と呼べるのだろうか、と。
偽善と言うのは、楓の解釈からすると、自分勝手に善を振りまくことだ。
事情も知らず、自分が助けたいからと勝手に助け、それでいて自分は相手を救ったんだと思っている奴のことを、偽善者だと思っている。
だが、自分はそうではない。
救いたいのではなく、唯、一緒に帰りたいのだ。
だから思う、これは偽善ではなく、我が儘なのだと。
「何一人で百面相してんだよ」
弓弦の一言により、楓は現実に意識を戻した。
既に愛璃とヒロも、近くまで来ている。
そんな3人の勇姿を見て、2年でここまで人は変わるのかと思えた。
弓弦は明らかに2年前の体より1回り大きくなっている。もちろん太っている、と言うわけではない。唯、筋肉が発達しているのだ。楓達はこの2年間、最前線で戦い続けた。筋肉が付き、体格が良くなるのも当たり前といえば当たり前といえよう。それはヒロや愛璃も同様だった。
ヒロも弓弦と同じく、筋肉がどう見ても発達している。このLSの世界では、ステータスで筋力が補正され、細身でも重いものを持ち上げたり振り回したりすることができるが、身のこなしはその範疇に無い。いくら補正が効いていたからといって、体が出来ていなければ無理な動きに壊れるだけだ。
そんな危機を悟ったのか、楓達の体は日々成長を遂げていった。
愛璃は見た目が変わったとは言えない。男性ではなく女性なのだから、そこまでの変化があったらやはりおかしいだろう。しかし、全身が引き締まっていることは目に見えてわかる。それもそのはず、愛璃は男3人と一緒に行動していて、この2年間一度も弱音を吐いたことがないのだ。女性にしては異常な程の体力、そう思えるほどの行動をしても、だ。
楓は知っていた。と言うよりも、知っている。
愛璃からこうお願いされたことがある。
『私と一緒に鍛錬してくれない?』
と。
その言葉には、自分を鍛えてくれと言う意味合いが含まれていたことに、当時の俺は即座に気付いた。当時、愛璃は分かっていたのだ。このままでは自分が3人の足を引っ張ってしまうことを。
それから、今でも楓と愛璃は早朝から鍛錬を行っている。
ここで問題になるのが楓だ。
楓は筋肉的にも、体的にも、全てにおいてなんら変わっていなかった。一緒に過ごしている3人がここまでの変化を遂げ、日々肉体的に強くなっていく中、楓だけは何の変化もない。
それは、異常とも思える事だ。特に楓以外の3人にとっては、だ。
何故なら、4人の中で一番動いているのは楓だからだ。それが、その疑問に得体の知れない恐怖を加えた。
ある日、しびれを切らした弓弦が楓に問うた。どうしてお前だけ成長しない、と。
楓の答えは簡潔だった。
それ故に、3人は驚き、そして戦慄した。
その答えは、
『俺の肉体は、このLSの世界にとばされる以前から既に完成されてるからな。これ以上伸びることはないんだよ』
本当に、簡潔で、それでいて驚きを隠せない答えだった。
愛璃に弓弦、ヒロはこのLSの世界に来て、筋肉や肉体が発達していった。と言っても、まだ完成されたとは言えない。だが、その筋肉や肉体が発達したのも、この苛酷なLSの最前線で戦っているからだ。それでもまだ完成しているとは言えないのに、楓はこのLSの世界に来る前から自分の肉体は完成していたといった。
到底、3人には想像のつかない苛酷な人生を、楓が生きてきたことを物語る答えだった。
「さてっと、取り敢えずこの奥に行けばフィールド3のボス部屋に到達するだろ。一旦街に帰るか」
「そうね、ボス攻略は大人数に任せたほうが得策だもん」
「俺も賛成、今日は疲れた~!ふぅ、今日のMob討伐数は?」
「304体」
「………何だか自分にご褒美を上げたくなった」
「同じく……だな」
「だよなっ!よし、今日はパーッ!と行こうぜ、ヒロ!」
段々と話がズレていく弓弦とヒロを横目に、楓はアイテム欄から羽のようなものを取り出した。
「うぉ~し!どこ行く!?」
「そうだな……あそこはどうだ。ほら、猫耳の……」
楓は弓弦とヒロを完全に無視することにし、愛璃に近寄る。
「ほら」
そう言って、愛璃に手を差し伸べる。昔なら悟られない程では少しの動揺を覚えていた愛璃は、今やなんの動揺もなく楓の手を握り返す。
「飛翔【ルードリア】」
楓がそう告げると、持っていた羽が弾け、楓と愛璃の身を包んだと思うと同時に、楓と愛璃の姿はそこには既になかった。
楓が持っていた羽は【飛翔羽】といった道具屋でも買えるアイテムで、一度行ったことのある場所の名前を『飛翔』の言葉のあとにつなげることで、そこへ飛翔出来るといったアイテムだ。
「いや~やっぱメイドさんじゃね?」
「猫耳だろうっ!」
未だ、楓と愛璃が既に帰っていることに気づいていない2人が居た。
フワッと言う感覚と共に、ゆっくりと地面に足を付く。
この感覚に未だなれない楓は少したたらを踏んでしまうが、愛璃がそっと手を添えてくれたおかげで転倒せずに済んだ。
「で、俺達はどうする?」
「ん~、いつも通りでいいんじゃないかな。一応NPCレストランよりは美味しいご飯、作れる自信あるけど」
「それもそうか、じゃ、行こう」
楓はそう言って歩き出す。
愛璃は想う。
(安心出来る場所だった人が、今じゃ片想いの相手になるなんてね)
愛璃は楓の背中を見ながら、一言小さくごちる。
「好きだよ、ふぅ」
その一言を隠すよう、愛璃は勢い良く走り出すと楓の右腕に自身の腕を絡めた。
「最近寒いよね」
「そうだな~、なんか防寒性能のある防具買っとこうかな」
今の愛璃には、この距離感で十分だった。
もちろん、将来的には……と考えないわけではない。
だが、このLSの世界でそういう関係になるのは避けたかった。自分が知っているのはLSの世界での楓だけ。地球での楓を自分はまだ知らない。
だから、愛璃は思う。
楓を、仲間を地球に帰したいと。否、一緒に帰りたいと。
2人は知らない。
自分たちが同じようなことを考えていることを。
翌朝、毎朝行っている鍛錬を終え、楓と愛璃はある場所へ向かっていた。
目の前には巨大な門。その奥にそびえ立つ城のような建物。かつてこれは貸家だった。しかしそれが今や、トップギルドの領地となっていた。
ギルド名は【同盟軍】。その名のとおり、幾つものギルドが同盟を組み、まとまったギルドだ。
楓は門の前に佇む門番達に軽く会釈し、中へ入っていく。楓はここのギルドマスターと知り合いでいて、さらに最前線で戦い続けている数少ないユーザーであるため、顔パスが通じるのだ。それはもちろん愛璃も同じである。
建物の中に入ると、直線上に扉がある。そこがギルドマスターの居る場所だ。他にも色々と部屋があり、色々な研究や検証を続けているようだが、楓たちはなんの躊躇いもなく直線上の扉に向かう。
扉の前につき、ドアを軽くノックすると、中から「どうぞ」と声が上がった。その声を聞き届け、楓と愛璃は中に入っていく。
そこに居た人物。
すなわちギルドマスターは、
「久しぶりだな、トシ」
トシ。つまりは楓の地上での知り合いであった。
「よぉ、ふぅ。今日はどんな用だ」
トシの机の上には数多もの書類が積み上げられている。トシの横には秘書と思われる女性が佇んでいる。
「ん、取り敢えずマップリスト提供に来た。あとは久しぶりに会って見たかったってところかな」
「つ~ことは、ボス部屋前までは攻略したってことでいいんだな?」
「ああ、それでいい」
楓の言葉を聞き、トシは苦虫を噛み潰したような表情になり、呟いた。
「こちとら1000人もの人員をつぎ込んで攻略してるってのによ……お前らはたった4人で俺らより先に攻略しやがる。ったく、どうなってんだよお前ら」
それは…と答えようとして、楓はやめた。
どうせトシには理解できない、そう思ったからだ。無言を貫いていた楓は、トシの横に佇む女性と目があった。だからと言って気まずくなるわけではない。その女性も、楓の知人だったからだ。
暫くお互いを見つめ合い、女性の方が苦笑した。その苦笑は、自身のギルドマスターであるトシに向けられたものだ。女性を知っている楓としても、そうしたくなるのはわかる。
トシは1000人もの人材をつぎ込んだと言っているが、その一部が最前線に出ず、攻略をサボっていることに気づいていないのだ。第一、楓からしてみれば人を使うことからして馬鹿げていた。
もちろん、使う人材が、トシのように正義感の塊で本当にどうにか進もうと思っているのなら、それでいいだろう。だが、そんな人間がそうそう居るわけがない。
その辺をトシは勘違いしていた。皆が自分と同じよう、互を助け合い、救おうと考えていると思っている。
一回その事について、トシに話したことがあったが、トシは聞く耳を持たなかった。唯、お前は間違っている、お前のその考え方の方がおかしいんだ、と言って。
それ以来、楓はトシに対して何も言わなくなった。必要な事だけを告げ、たまに顔だけを見に来る。唯、知人の生死を確認できれば、それでよかったのだ。
嫌な沈黙の中、トシの横に佇んでいた女性が口を開いた。
「ふぅ、取り敢えず出ましょ」
「あいよ」
楓は一つトシに会釈したあと、愛璃を連れて部屋から出る。暫くすると、中から女性が出てきた。
「本当、トシにも困ったものね」
「ったく、お前も秘書だったらちゃんと主導権ぐらい握っとけよ……」
「それをしたら、ふぅが嫉妬しちゃうんじゃない?」
楓は一つ息を吐く。
そう、この女性はあいつである。つい1年前の話だ。楓達が4人で前の街を探検していたとき、であってしまった。
別に会うのが嫌なわけではない。
別に話すのが辛いわけではない。
それに、今となってはあの時に関しての事情を話してもらっている為、なんの溝も存在しない。
理不尽に別れられ、その後も親しく接してきた彼女と今の楓は、かつて恋仲だった時と同然のように話せるようになっていた。
「まあ、するだろうな……」
そうつぶやくと、愛璃が少しだけ動いた。本当に少しだけ、拳が握られた。それに気付かない楓では無い訳で、楓が愛璃の頭を撫でることで一連の微妙な空気が終わりを告げる。
「なあ、穂波」
「ん?」
「地球に戻れたら、もう一度俺と付き合ってくれないか?」
楓は愛璃のいる前で不謹慎だと思いつつも、そう問うた。
「もちろんよ」
それが楓の元彼女であった、三枝穂波の答えだった。しかし、楓の問いはまだ続く。
「お前が俺と離れた理由も、十分理解しるけど、それをどうにかしようとは思っていない。だから最初に言っとくけど、俺はお前一人だけを見ることは出来ない」
「従順承知。って言うより、ふぅを独り占めなんて出来る訳ないしね。現にほら、ね?」
穂波は愛璃の方を見て、ニヤリと挑戦的に笑ってみせる。楓は苦笑しつつ愛璃に顔を向けた。
「まあ、愛璃もそういう事だ」
「……やっぱり気付いてたんだ…」
愛璃は少しだけ、勘づいていた。もしかしたら、自分が楓に好意を抱いていることに、楓は気づいているのではないか、と。
「つっても、最近だけどな。まあ、愛璃も最近になって、ある感情がその感情に変わったみたいだけど」
「そこまでお見通しとか……」
楓が意地悪く告げた言葉に、愛璃は絶句した。自分の感情が、楓には全て把握されているような気がして。だが、不思議に嫌ではなかった。いや、これが惚れた弱みなのかもしれない、と愛璃は内心苦笑する。
「私もそれは承知の上だよ。前に一回聞いてたしね」
「あれ?そうだったっけか……」
愛璃の言葉に過去の自分の発言を探ろうとする楓を横目に、愛璃と穂波は目を合わせる。
そして、二人共挑戦的な笑みを見せながら近づいていく。
「独り占め出来ないからといって、一番を譲るつもりは無いからね」
穂波が愛璃を挑発する。
「そうでなきゃ、余裕で私が一番ですもんね」
挑発を挑発で返す愛璃。ふたりは本当に同時に手を出し、固く握手を交わした。
その光景を目にしていた当事者である楓は、面倒なことになりそうだと内心で深く溜息をついたことは、楓だけの秘密である。
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