夢は大きく抱いても希望は小さいほうがいいよって話
凄いやりたい放題&駄文。
それではげっそりとお送りします。
なんやかんやあって出会ったノリで翔と桜は残り約100mの距離を一緒に登校することにした。もちろん並行運転は危ないので2人は自転車から降りている。
「えっと、僕は桜さんと呼べばいいんですか?」
「何で敬語なの翔ちゃん? 普通に桜って呼べばいいのに~」
同年代だし敬語呼びは確かにおかしい。しかし、翔はそれに対して大きく首を振った。
「とんでもないですよ! 突然ジャンプして現れるなんて物騒なことしてしまいましたし!」
果てしなく意味不明な理由だった。妙なとこで責任を感じているらしい。
翔はそれに、と付け加えた。
「小学生の頃に姉から色々教わったんです。僕はそれを守っているので敬語呼びにしてるんです」
桜はその教えが気になった。小学生の時から今までずっと守っているのは性格もあるのかもしれないが、余程大きな教えだったのだろう、と期待を膨らませた。
「へぇ~、どんな教えだったの?」
「こんな事です。あ、回想シーンで教えますね」
初っ端からメタ発言したけど気にしな~い。
。。。。。。。。
ケース1
「いい翔。お姉ちゃんが今から大事な事を言うからちゃんと守りなさい」
「うん」
「えらいわ。いい? この世の中は『女尊男否』なのよ!」
「じょそんだんひ?」
「そう! 簡単に言えば女の子は男の子より偉いのよ! だからちゃんと女の子を敬いなさい」
「わかった!」
ケース2
「翔。またお姉ちゃんが大事な事を教えるわよ!」
「なに?」
「女性を敬うことは世界の真理なのよ!」
「……どういうこと?」
「つまり女性を尊敬することは世界の常識なのよ!」
「わかった!」
。。。。。。。。
「って感じです」
凄まじく酷い教えだった。いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌、ではなくいつもニコニコ笑顔の桜も流石に苦笑いしていた。この教えを真面目に受け止めた翔もそうだが、姉も色々おかしい気がする。
「は、ははは。そうなんだね…」
「ちなみにあと50個ありますよ。どれもいい教えでした」
全てを守れば彼はただの女性の忠実な僕になってしまう気がする。大体何で小学生にこんな事を教えたのか。
「この教えを毎日復唱する時間も設けられました」
「ねぇ、それただの洗脳じゃないかな…?」
桜は、ただ姉が偉い人気分を味わいたかっただけなのでは?、と思った。52の女性中心な教えを小学生に教え、更に毎日復唱させれば十分身に染み付くだろう。というかずっと嫌がらなかった翔も凄いと思う。
「洗脳ですか…。確かにそうかもしれませんが、この教えを守って損をした事は無いですよ」
「まぁ、そうだね…」
一応女性を敬って大切にする事は非常に好印象を与える。具体的に言えば恋愛面で。それで嫌な思いをする事はまず無いだろう。だが桜はどうにも素直に褒める気にはなれなかった。何せ一種の洗脳で身についた騎士道だから。
そんな雑談をしている内にちらほらと登校している生徒を見かけるようになってきていた。やはり入学当日とあって緊張している者もいれば、自分達同様気にせず雑談している者、そして恐らく2年生や3年生であろう人もいた。そして…
「あの~桜さん。何故か殺気を感じるのですが……」
「ん? 気のせいだよ~。まだ出会ったばかりの人達から殺意を抱かれるなんてありえないよ~」
そもそもエリート校なのだから不良がいる訳無いので出会い頭に因縁ぶつけられる事はまずない。だが、翔は確かに感じていた。主に嫉妬や憎悪の念が込められた痛い視線を!
(ま、まさか明らかに1年生なのに入学初日から女の子と登校しているからなのか!? さっき出会ったばかりだし、交差点でぶつかって、パンモロを見ることなく、『どこ見てんのよ!』と言われる事も無かったのに何故だ!?)
確かにベタな展開は避けたが、スタイリッシュな出会いをやってしまった事に変わりない。それにどんなに東大生だろうが、早稲田大学に行ったって非リア充は必ずいる。太鼓の達人でどんなにチャンピオンになったってモテないなら非リアなのだ。だから恨まれたってしょうがない。
結局隣にそんな事も知らずにニコニコ笑顔な桜と共に、げんなりしながら校門をくぐるのだった。
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自転車を駐輪場に止め、入学式を行う体育館へ向かうと何やら人だかりが出来ていた。
「あれ? 何あの人だかり?」
「見た感じ早めのクラス発表といったとこでしょうか。何か紙が貼ってありますし」
向かってみると翔の言う通りクラス発表だった。紙にそれぞれ1-Aから1-Fまでの割り振りが書かれていた。もちろん2人も気になるので紙を見た。
「わぁ! 私と翔ちゃん同じクラスだったよ~!」
「ほんとですか! えっと……1-Cですかってはぁ……」
自分のクラスの項目を見ていた翔は何かを見て溜息をつき、落ち込んでしまった。その様子に桜は驚き、あたふたしてしまった。
「な、何で!? そんなに嫌だった!?」
「いや、それは無いですが、また出席番号1番なんだなぁ…って」
「……へ?」
特になんでもなさそうな事だったので安心した桜だったが、相変わらず翔の表情は深刻なものだった。
「僕の名字『相原』じゃないですか。苗字の『あ』と『い』のコンボのせいで学生ライフ始まってから10年間全て1番なんですよ……」
「ああ、全部名前の頭文字で決めたんだ……」
「それに誕生日も4月1日ですから、たとえ誕生日で決めても1番。小学1年生の時は1番で嬉しかったですが、流石に10年続くと……」
「嫌になっちゃうよね……」
とは言ったものの正直何が辛いのかあまりよくわからない。
1番になると色々大変である。例えば自己紹介は始めだったり、歯科検診とかでは必ず最初だったり何かと嫌な事が多いのである。
「と、とりあえず早く席に着こうよ! 時間もそこまで無いし!」
話すたびに暗くなっていく翔の事を考えて桜は席に着こうと促した。
中に入ると既にほとんどの生徒が座っていた。時計を見ればあと10分なので当然だろう。翔達も1-Cの席を探して座るのだった。
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『それでは最初に、理事長からのお話です』
マイク越しに教頭らしき人が言うと1人の男性がステージに降壇した。その男性の外見に誰もが驚いた。
理事長と言うのだから初老の人を浮かべていたが、全く違う。パッと見20代後半くらいで、その顔はアイドルグループにでも入れるのでは、と思ってしまう程にイケメンだったのだ。
その顔に女子生徒は入学式の最中にも関わらずざわついてしまっていた。
『あー、俺の外見でキャーキャー言うのは構わないが、まずは話を聞け』
(いいのかよ……。てかタメ口……)
翔はこの態度からして理事長は俺様キャラなのかと考えた。何か身分が身分とは言え生徒に式の最中でモロタメ口だし、外見を褒める事に対して注意しないのだから。
『いいか? じゃあ、お前ら。よくこんな学校に来たな』
(((((え、えー………)))))
理事長の話。最初の1言は学校及び入学した生徒へのダメ出しだった。今体育館内は静まり返っている。
だがそれは式の最中だからというマナーからなるものではなく、絶句からくるものだった。そんな空気の中理事長は話を続ける。
『大体ここをエリート校と思ってる奴が多いだろうが違うぞ。行事も方針も何もかもへんちくりんなのばっかだからな。まぁ、俺がそうしたんだが』
(アンタかよ!)
翔は心の中でツッコミを入れた。というか他の生徒も同じツッコミを入れたはずだ。
『なのに普通に楽しんでるからな。楽しむのはいいが、イコールでバカばっかだ。だが、人間バカにならなきゃ話にならない。だから方針はこれだ』
そう言うと、理事長が指を鳴らした。すると、ステージの上から巨大な看板が降りてきた。そこには超でかくこう書いてあった。
『唯皆全尊』と。
(ゆいかい……ぜんそん? 唯我独尊じゃないのか?)
翔が疑問に思う中理事長は意味を話しだした。
『これは見て分かる通り唯我独尊から出来た造語だ。あれが自分一人が最も優れているという意味だが、これは違う。人間必ず優れているとこがあり、ダメなとこがある。一長一短だ。そして絶対1人では生きていけない。だからこそ互いの持つダメなとこを認め合い、優れている部分を尊重していかなければならない。そうすれば、必ず仲間が出来、仲間ならその間でバカになれると考えている。わかったか?』
理由を話し終えると教頭が拍手した。それにつられてその場にいた人全員が拍手し始めた。翔自信中々良い言葉だと思った。恐らくこれも目の前の俺様理事長が考えたのだろう。
『最後に1つ。ここ進学校のくせに就職率98.7%だから不祥事起こさなきゃ好き勝手生きてくれていい。以上』
(就職率98.7%!? この不況で!? てか進学校なのに何で?)
ちなみに毎年進学する生徒は卒業生の約10%しかいない。何で未だに進学校なのかが謎である。
理事長の話が終わり、礼をすると教頭が次に進めた。
『続きまして、生徒会長からのお話です』
今度は1人の女性が降壇した。その姿は非常に可憐だった。清潔さを感じさせる黒の長髪に、高校生にしては中々のスタイル、何よりその美貌に次は男子がざわついてしまった。
『皆さん静粛に。私がこの学園の生徒会長、2年生の天藤アリサです』
(綺麗な人だな……)
翔は純粋にそう思った。アリサに後光が差しているような錯覚にまで見舞われたほどだ。というか綺麗と思わざるを得なかった。
『まずは新1年生の皆さん、入学おめでとうございます。中学校を卒業し、高校生となりましたがどうですか? ほとんどの人が期待に胸を膨らませているでしょう』
先程の俺様理事長とは違いかなりまともな言葉だった。正確にはこれがあたりまえだが。何と言うか外見通りのまじめさがあった。
『はっきり言いますが、そこまで期待しなくても結構です』
前言撤回。やっぱりおかしい。何故そんな満面の笑みで希望を潰すのかわからない。新入生の高校生ライフへのあこがれや期待を潰すのがここの風習なのだろうか。
『私も最初は期待しました。高校生活は楽しいですが、この学校は先程の理事長のせいで他校より10割増しでおかしくなっています。特に行事は毎年怪我人が出て危険です』
(あの理事長さん、どこまで好き放題やってるんだ……)
地味にこの学校に入学したのを後悔してしまった。周りも見ても多少げんなりしている生徒がいた。それでも上級生の数は多かったので大丈夫……のはず。
と思ったが、先輩方の顔は引きつっていた。もうダメかもしれない。
『ですが、勉強に部活、新しい友達との交流は非常に楽しいものです。ここからの3年間頑張ってください』
こうして、根こそぎ期待を奪われながら入学式は進んでいった。やっぱあながちあの占いは間違っていないのかもしれない。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
翔達は1-Cの教室で自分達の担任がくるまで待機していた。周りの生徒は同じ中学校だった人と談笑してたり、1人で読書してたり、机に突っ伏して寝ている者と様々だった。そして、翔は1番奥の列の1番前の席にいた。これも出席番号1番の運命である。
「あれ? 何で僕ここにいるんですか? 入学式は?」
「何言ってるの? さっき終わったから『はぁ~、何で根こそぎ希望を潰すんだろ……』て言いながら一緒にこの教室に来たじゃん」
「え…? そんなこと言いましたっけ……」
これが日常ネタでよくある『登校したと思ったら放課後になっちゃった』というやつである。しかし翔がそれをわかっているわけがないので頭を抱えて悩んでいた。桜はその様子を不思議そうに見ている。
(いや、マジで思い出せない。何でいきなり記憶喪失? 意味がわからない……)
「とりあえずあれは多分覚えて無くて良いと思うよ……。それより私達の担任の先生ってどんな人なんだろう? 楽しみだなぁ~」
とりあえず謎の記憶喪失ネタから話題を変え、担任の話にした。桜は眩しいばかりの笑顔で期待している。その様子を見ていると小さい記憶喪失がバカバカしくなり、癒された。この子は幸せを呼びそうだと純粋にそう思った。自分と違って。
すると1人の女性が入ってきた。見る限り自分達の担任だろう。だが、やっぱりおかしかった。
スーツなのに前のボタンを止めていないし、つまようじを咥えてるし、何より美人なはずなのにそれを台無しにしたやる気の無い目。どう考えてもただ者じゃなかった。
「ほら席につけ1年坊ども。今日は私の自己紹介と連絡で終わりだから」
若干だれた声で呼びかける先生。聞くところ早く終わりそうなので全員が自分の席についた。
それを見届けた先生はチョークを手に取り、黒板に名前を書き始めた。
「え~、このクラスの担任となった、天城明日奈だ。年は25。担当教科は数学。趣味は生徒をからかうこと」
4つ目の紹介で何故か寒気がした。きっと気のせいだと思っていると明日奈は爆弾発言を繰り出した。
「ちなみに、私はこの学園の理事長の妹だ。よろしく」
『『『『『えぇええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!』』』』』
--僕の高校生活は、非常にとんでも無い事になりそうです
気づいた方は恐らくいませんが、最後に出てきた先生は依然の二次創作にて1話だけ登場した人が元です。