占いが最下位の時に限って良いことあるよねって話
というわけでスーパーグダグダラブコメ第1話、ゆるりぐだりだらりとお送りします
4月6日
まだ日も昇らない深夜
高校生程度の1人の少年が自転車を漕いでいた。何故学生がこんな時間に自転車で街を走り回っているのか。それは
「ふぅ、今日の新聞配達終わり!」
新聞配達のバイトをしているからである。紺色の髪をし、女の子にも見えそうな中性的な顔つきの少年、相原翔は左手で汗を拭いながら、もう片方の手で最後の朝刊を郵便受けの中に静かに入れた。
新聞配達となるとかなりの体力と毎朝早朝に起きる気力が必要になるが、彼は13歳になってすぐに始めて、もう当たり前の習慣となっていたため、清々しい表情だった。
新聞配達のバイトには学生も何人かいるが、13歳から始めた者なんて1人もいない。13歳とは新聞配達のバイトが出来る中で最年少の年齢である。というか、中学でバイトを始めるなんて余程の事情を持った子だけであろう。
しかし、彼は別に生活がままならない程貧乏というわけではない。ただ、今時珍しい将来への興味本位でやっているのだ。
「しっかし、今日は入学式かぁ~。ほんと何で受かったんだろ」
自転車で帰路を辿りながら独り言を呟いた。
4月6日となり、各地の学校では新学期が始まる。彼はここらで一番のエリート校である天城学園高等学校へ入学していた。
正直受験では問題が難しすぎて、社会の答案なんて配られた時と大差ない驚きの白さで終わり、帰った後にどっかのボクサーのようにベンチで真っ白になってしまったが、どういう訳か受かっていた。
ちなみに受からない確率の高いこの学校に入学した理由は『近くにたくさん店があり、家が近いから』と『進学校のくせに就職率が98.7%だから』である。
「高校生になればもっと資格が取れるだろうし、バイトも増えるだろうなぁ。新学期、頑張るぞー!」
何か学業でも部活でも無い事に期待を膨らまし、右腕をあげて叫んだ。まだ深夜という事を忘れて。
「「「うるさい!」」」
「あ、すみません……」
なので近所の人に怒鳴られてしまい、しょんぼりしながら家へと帰って行った。
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家についた翔は玄関の鍵を開けて、さっさと部屋に戻った。
新学期の準備に通学用のカバンに筆記用具などを入れながら、時計を確認して見た。
『AM 04:44:44』
(え、えー……)
翔のテンションが10下がった! という文章が頭の中に浮かんだ。更にカレンダーを見れば、
『4月6日 金 仏滅』
と書いてあった。更にテンションが10下がってしまった。
「1週間後の13日に見たら、何て不吉だったんだ……。嫌な予感しかしない……」
せっかくの新学期初日だと言うのに、何が楽しくてこうも不吉なものを見なければならないのだろう。
暗い面持ちで支度を終えると、一旦仮眠を取るべくベッドに横になった。
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目を覚ますと丁度6時くらいだった。起き上がって伸びをすると、カーテンを開けて朝日の光を浴びた。空を見ると天気は快晴、そして綺麗な朝日だった。こうも綺麗なら今日は良い日になりそうだ。さっきの地味な不幸などすっかり忘れてしまった。
天城学園の紺色のブレザータイプの制服を着ると、部屋から出て朝食を作るべく台所へ向かっていった。台所には相変わらず誰もいない。
彼は1人暮しである。両親は事故で他界し、ずっと面倒を見てくれた年の離れた姉がいるのだが、去年の春、家へ帰ると
『親愛なる(笑)弟へ ちょっくら旅してくるわ。あでゅ~(・ω・)ノシ 可愛いお姉ちゃんより☆』
というなんともふざけた書置きと共にどこかへ行ってしまった。これを見たときは正直探そうという気より殺意が沸いた。前々から何か変な性格だが、所在をくらます時まで変だと誰だっていらつくはずだ。
一応定期的にメールがくるため生きているのはわかるので、今更心配はしていない。
時々姉に会いたいと思うが、シスコンではない。この1人暮らしも大分なれたので特に不自由もしていない。
とりあえず姉の事を考えながらトーストを作り、頬張りながらテレビのリモコンを手に取り電源を入れた。テレビではニュース番組のおまけである星座占いをやっていた。丁度自分の星座である牡羊座と獅子座が残っていた。どうやら1位と最下位を発表するようだ。
だが、翔はこれといって占いは信じない主義だ。今まで一度も当たったことなどないので信じる気など微塵も起きない。
(こういうのってビリを取った日に遊〇王でホロが当たって、1位を取った日に限って財布を落とすんだよなぁ、うん)
そんな事を考えている内に遂に1位が発表された。翔はせっかくやっているので暇つぶしがてら見ることにした。
『今日の1位は獅子座のあなた! もうとにかく幸せすぎてやばい! どれくらいヤバいかと言うと一生分の幸せを味わうくらい! そんなあなたの運を更に上げるラッキーアイテムはそこらへんにあるもの全てです!』
尋常じゃないくらい適当な発表だった。というか一生分の幸運となると後日から不幸になってしまうのでは、と思った。結果自分は最下位となったが2連続でアバウトすぎる結果は無いと思いトーストを食べる事に意識を置いた。そんな翔を他所にテレビは最下位を告げる。
『最下位は牡羊座のあなたです。今日の運勢は1億年に1度のレベルで最悪です。というかこの結果はここから先3年間ずっと反映されます。下手をすれば自殺したり、ラグナロクが起こった方がマシと思えるくらい最悪な3年間でしょうが、精一杯生きましょう! あなたを救うラッキーアイテムは赤黒い液体でじっとり濡れたわら人形です! それでは良い1日を!』
「過ごせるかぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
占いを信じない翔も流石にキレて食べかけのトーストを床に思い切り叩きつけた。というかこれでキレていない牡羊座なんて恐らく生まれたばかりの赤ちゃんぐらいだろう。
「何だよこの結果! 地上波でこんな人生どん底な発表していいのかよ! ラグナロクが起こった方がマシってどんだけ不幸なんだよ! しかも何で『今日の運勢』を発表するコーナーで3年分の運勢決定してんだよ! 更にラッキーアイテムが赤黒いわら人形って救われるかぁああああ!!!!!」
誰もいない食間でツッコミどこを全てツッコんだ。そのツッコミは虚しく部屋に響くだけだったが言わずにはすまなかった。せっかく綺麗な朝日で上機嫌になっていたのにまた逆戻りだ。メンタルが弱い人なら3年間引きこもりになってしまうかもしれない。
こんな絶望的に不幸な結果をくらうのはそげぶな高校生だけでいいのに。
そんな絶望的に不幸な結果をくらった翔は受験終了時のようにイスに座り込んで項垂れていたり、歯磨きしたりしていると7時30分になっていた。入学式は9時開幕だが受付は8時半まで。そろそろ行かねばまずい時間帯だ。
「いや、占いなんて外れる! 今日はデュ〇〇を買えばスーパーレアしか入ってないくらいついているんだ!」
彼にとって幸運とは、カードを買ったら1番上のレアが出るくらいの小さなものなのだろうか。
玄関の鍵を閉め、自転車に乗り通学路へ駆けだそうとした時、携帯が鳴った。音声から察するに姉からのメールだった。
(こんな朝早くからメールなんてどうしたんだろ?)
そう思いながら携帯を開きメールを確認した。メールには件名は無く、ただ1行だけこう書いてあった。
『弟よ、3年間ざまぁwww』
「…………」
どうやら姉もあのふざけた占いをどこかで見ていたようだ。というか弟の不幸を喜ぶなんて腐ってるにも程がある。
もちろん翔の心の中には殺意が湧いていた。帰ってきたら殴ってやると思いながらメールを削除した。
姉のバカバカしいメールに溜息を吐きながら、気を取り直し自転車を漕いで行った。
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自転車を漕いでからかれこれ15分。翔は珍しくあの占いを気にしていた。
(落ち着け。落ち着くんだ僕! あんな占いを信じてどうする! ラグナロクレベルの不幸なんか起きるわけないじゃないか!)
確かにまだ不幸なことは起こらず何事も無く学校へ近づいてきている。そもそも冷静に考えればこの地球上に牡羊座になる3月21日から4月19日生まれの人なんて数え切れないくらいいる。その全ての人に3年間ラグナロクレベルの不幸が牡羊座全員に起こっていたら地球は終わりだ。しかも所詮ニュース番組のおまけコーナーでやっている占いの結果なのだ。信じる方がバカバカしい。
(よし大丈夫だ。仮に占いがマジでもその結果が僕に当たる確率なんて……)
と考えていたその時
「きゃあぁあああああああああ!!!!! ひったくりよぉおおおおおおおお!!!!!」
(えー…)
テンプレな叫び声が聞こえてきた。見ると30mくらい先にへたり込むOLと、更に30mくらい先に黒いニット帽に黒い革ジャン、ジーパンというあと5分以内には捕まっちゃうようないかにも小物臭のする男がカバンを抱えて走っていた。
ほうっておくわけにもいかないので、急いで女性の元まで自転車を漕いだ。
「大丈夫ですか!?」
「は、はい! それよりもあのカバンの中には所有者が持たないと牡羊座の人がラグナロクレベルの不幸に見舞われると言い伝えられる石が!」
なんて狙ったような伝承を持つ石なのだろう。というかそんな伝承ありえなすぎる。が、翔は逆に狙いすぎていて恐怖を感じた。というわけで
「今すぐ取り返してきますッ!」
もうお前競輪やれよ、とでも言いたくなるぐらいの猛スピードで小物臭のする男の元へ向かっていった。
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男は必死に逃げていた。自分の前方にいた人を突き飛ばしてまで必死に逃げていた。
「へ、相変わらず楽なもんだぜ。これで今月も生きて……「待てぇえええええええええええええええええええええええええ!!!!!」……はぁ!?」
小物な台詞を言っていた時後ろから呼び止める声が聞こえた。見るとものすごいスピードで自転車を漕ぐ高校生、翔がいた。
翔はペダルから足を離してサドルの上に乗ると、勢い良くジャンプした。自転車の勢いを付けた状態で翔は右足を突き出し、飛び蹴りを放った。
「うぉりゃあああああああああああああああ!!!!!」
「ゴフッ!?」
その飛び蹴りは見事に男の後頭部へ炸裂し、男は吹きとんだ。その拍子にカバンが男から離れ宙を舞った。しかし翔は焦ることなく数歩前へ出ると片手を出した。カバンはまるで吸い寄せられるように翔の手の上に着地した。
「ふぅ、とりあえず警察は呼んでくれてるだろうし、とっとと返しにいこ」
気絶している男を放っておいて、横転しているであろう自転車の元へ向かった。そして、その自転車は……どういうわけかサドルが180°回転した状態で横転していた。
(最初の不幸すげー地味だなぁ……)
ラグナロクレベルの不幸その1:サドルが180°回転してる
なんて項目は確かに死にたくなるくらい嫌だし、ラグナロクレベルじゃないしと色々嫌だが直せるからまだ良かった。とりあえずサドルを直そうとするがサドルを固定するネジが全く動かない。良く見ると雑に瞬間接着剤を塗られていた。
「ふざけんなぁあああああああああああああああああああああ!!!!!」
やっぱり叫ばずにはいられなかった。
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その後、180°回転したサドルに座って自転車を漕いでOLにカバンを返し、再び学校へ向かい始めた。
だが、やはりサドルのせいで尻が非常に痛かった。地味にそれが苦痛なため坂道でもないのに立ち漕ぎで進むことにした。
立ち漕ぎで体力を消耗しながらも学校が見えてきた。パンフレットや見学で見てきたがやはり異常なまでに巨大だった。小中高一貫校なら何とかわかるがそうではなく普通に高校なのだから信じられない。噂では夜になれば富士の樹海レベルで迷うらしい。
「ほんと大きい学校だなぁ。ここで3年間学ぶのか。きっと凄いんだろうなぁ」
そう独り言を言っていると目の前に交差点が見えた。一見普通の交差点だが翔は何かを感じ取った。そう、何かベタな展開が起こりそうな予感を!
(このまま普通に通ったら右から女の子が来てぶつかりそうな気がする! 普通ならそこから少女漫画スタートだけど絶対ヤバい!)
何か凄く杞憂な気がするが、実際あと約30秒後に右から女の子が来ます。
(くっ、どうすればいい! このベタな展開を回避する素晴らしい方法は! 何か無いのか!)
翔は悩んだ! 進路を全く決めていない状態で三者面談前日になってしまった学生レベルで悩んだ! そして彼は1つの答えを出した。
「そうだ!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
一方、その30秒後に翔と衝突しそうな女の子、紫色の髪をサイドでお団子にして纏めた天城学園のセーラー服を着た超笑顔な少女、木崎桜は鼻歌を歌いながら自転車を漕いでいた。
「うーん、今日は何かいい事ありそうだな~」
特に根拠もなくそんなことを呟いた。彼女は日常の8割は笑顔でいる。笑う門には福来たると言うし確かに幸せなことが起こりそうだ。そして彼女も目の前に交差点を発見した。
「こういう時って左側から男の子が来てラブストーリーになるんだよね。でも自転車でぶつかって大丈夫かな?」
翔と全く同じ事を思いつき、全く違う事で悩んだ。表情は流石に残りの2割で笑顔じゃなく悩んでいる。うーんと唸って悩んだ末彼女は結論を出した。
「きっと何とかなるよ!」
運任せだった。その結論に満足したのかまた笑顔になって鼻歌を歌い始めた。そして、その運命の交差点に差し掛かった瞬間…
……自分の少し前を自転車で飛び越える一人の少年が目に映った。
「…………ほぇ?」
あまりにもありえない光景に思わずすっとんきょうな声を出してしまった。その自転車でジャンプした少年、翔は着地すると桜の方へ振り返った。
実は翔が出した結論は飛び越えるということで、助走を付けてどうやったのか思い切りジャンプしたのだった。
「あ、突然すみません!」
「い、いや大丈夫だよ! それより何で飛んだの!?」
「ベタな展開を回避して、幸せな生活を送りたかったんです」
「そのベタな展開って普通幸せに向かうはずだけど……」
とりあえずベタな展開『交差点でぶつかってからの出会いで始まるラブストーリー』は回避したが、結局出会いになってしまったのに2人は気づいていない。2人は沈黙していたが翔が先に声をかけた。
「と、とりあえず同じ学校みたいですし一緒に行きませんか? えっと……」
名前を聞くのを忘れていたため困ってしまった。しかし、それを察して桜は名乗った。
「木崎桜だよ~。君は?」
「相川翔です。宜しくお願いします」
名前を聞いた桜は顎に手を当てて何かを考え始めた。しばらく考えると思いついたのか手をポンと叩いた。
「じゃあ翔ちゃんって呼ぶね!」
「…………はい?」
こうして妙なあだ名をつけられた翔の高校生ライフは始まった。しかし、こんなのまだ序の口ということをまだ翔は知らない……
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一方、2人とは違って吹上高校へ歩いて登校していた茶髪のポニーテールにブレザータイプの緑色の制服を着た少女、水澤奏美は何かを感じ取っていた。
「は! 翔が私の知らないとこで大変な事になりそうな気がする!」
彼女はしばらくほうっておいて次回へ続く……
「え!? 私の出番しばらくなし!? 何で出したの!?」
何かバトルものみたいな終わり方ですがちゃんとラブコメです
とりあえずあの借金執事みたいなノリでやっていきたいです。
次回は第2ヒロインが降臨します