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宇宙からの訪問者  作者: 赤腹井守
前兆訪問
6/20

epi-05:リーフを探せ 彼女の趣味は

 1



 下校時。

 帰路を歩く俺の前に現れたのは――リーフだった。

 しかしこれは既に予測していた事。

 時間は三〇分前に遡る。



「リーフを探せ?」

「お願い。今日の朝から姿を見せてないから、ひょっとすると憑依された人間を見つけて、無闇に殺しているかもしれないのよ」

 教室の席で、俺はシグナルの頼みを聞いていた。

「何故に俺が探さないといけないんだ?」

「部活を紹介するって、いろんな人から言われたのよ。断りきれなかったから、今から私は多忙になるわけ」

 彼女の人気を嫉妬するつもりはないが、さすがに全部活動からスカウトされるとなると、彼女の一瞬にして上位の人気を手にしたその美貌には、愚痴を挟みたくもなる。

 外面だけの美少女っていうのは、実に傲慢だ。

「まぁ、探すといっても、多分貴方の前に現れると思うのよね」

「どういう事だ?」

「人間の貴方に――最悪の場合には協力してもらいたいことがあるって、昨日言ってたからね」



 そして現在。

 繁華街の道を歩く俺の前に、ブルーのシャツとブルーのタイパンツを穿いたリーフが現れた。

「……よお」

「……」

 鞄を持つ右手を、軽く上に上げるが、リーフは無表情のままでいた。

 この女とはやりにくいが、しかしあえて我慢しながら彼女の下へ近づいていった。

「シグナルから用件を聞いているはずだ」

 不意に、リーフが口を開いた。思わず足を止めてしまった。

「あ、ああ、まぁな。……その、何か俺に協力してもらいたい事があるんだろ?」

 戸惑いながら彼女の問いかける。

「それは最悪の場合だった。だが、最早協力は必須条件。――有瀬美里、単刀直入に言おう」

 淡々とした口調で彼女は言葉を編んでいった。

「感動する音楽を聴きたい。何か、とても良い音楽は、この星にないのか?」

「……」

 てっきり、俺は「何か良い刀はあるか?」とか、「刀を切れ味を知りたい。お前、斬られろ」とか、そういうことを言ってくるのかと思ったが、意外だった。

 音楽を聴きたい、という要求を出してきたのだから。

 つうか、内面と外面がマッチングしない。

「ええと……、感動する音楽ってのはつまり、クラシック音楽とかそういうのか?」

「クラシック? 耳にしない単語だな。どういう音楽だ?」

 宇宙人だから、クラシックという単語を知らないのも当たり前か。

 とりあえず俺はクラシック音楽について、頭に保管されてあるだけの知識を口に出した。

「なるほど。……ベートーベン、みたいな奴なのか」

「ああ。ベートーベンだったらクラシックだろ」

 生半可な知識だが、宇宙人に教えるには十分な事だろう。

 感心したのか、ぶっきらぼうな表情をやや和らげたリーフ。俺はそれに気づいて、

「だったらなんだ、今からCDショップにでも行くか?」

「CDショップ?」

 疑問系の言葉として聞き取れない淡々とした口調でリピートするリーフ。

 ここまで地球の知識を知らないとすると、さすがに説明するのも面倒だった。

 しかし幸いにも、ここから一〇〇メートルもすればCDショップがあることを、俺は知っている。

「ついてこいよ。買う金はないけど、試聴ぐらいは出来るだろ」

「金ならある」

 ガサッ、という音が聞こえてリーフのポケットから出される右手を凝視すると、福沢諭吉が写された紙幣の束が出てきた。

 ごくり。

「……あ、ああはいはい。買う金は……あるのね」

「いくぞ」

 先陣を切ったリーフは、自身を先頭にCDショップとは逆の方向、つまりは俺の方へ歩き出した。

「向こうだよ」

 ショップのある方角を指差す。

「……歩行練習だ」

 誤魔化しにも無理がある。

 引きつってはいないが、無表情のリーフの顔から汗が流れていることが、すぐに分かった。

 ポーカーフェイスが崩れそうだ。

 下校中の予測していた出会いは、意外にもCDショップへ行くという結末になったが、しかし結末から始まりイベントが、普通以上であるということを警戒しておきながら、俺はリーフを後ろに、CDショップへ足を進める。

 約一〇〇メートル歩いて、高層ビルの一階にあるCDショップの前に辿り着く。

「ここだよ」

「……」

 後ろを振り向けば、リーフが無表情でありながら、目が踊っていることが分かった。

 感動しているのだろうか。

 とりあえず中に入れば、彼女は俺を無視して早速クラシック音楽が置いてあるコーナーへと歩き出した。

 仕方なく着いて行けば、彼女は既に三枚のCDを手にしていた。

「それを買うのか?」

「ああ」

 淡々と返事をすれば、彼女は迷うことなくレジへと歩いていった。

 着いて行く。

 女性店員がレジを打っている間に、俺はリーフの後ろで待っていた。

 買い物が終了したらしく、リーフがビニール袋を持ってこちらにやって来る。

「終了だ」

 相変わらずの短い言葉。

「そうか。じゃあ帰ろう」

 CDショップを出て、自宅へと向かう中で、住宅街へと足を踏み入れた時、彼女の口から意外な言葉が漏れた。

「――ありがとう」

 思わぬ言葉に、言葉が詰まったが、彼女のポーカーフェイスを見つめるにあたって、狂った調子をすぐに戻した。

「どういたしまして」

 宇宙人に、この言葉が伝わるかどうかは定かじゃないが。

 それでも、彼女の表情が少し緩んでいたのは確かだった。

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