epi-19:これにて終幕 終わりは始まり
-ERROR-
翌日。
いつものように朝起きて、学校へ行く支度をする途中――ドアのない玄関から中を覗き込む顔が見えた。
制服のカッターシャツの最後のボタンを締めると同時に、
「どうしたんですか、大家さん?」
と声をかける。
ピンクの兎がプリントされたパジャマ姿を見せる大家さんは、声を聞いてずかずかと、勿論靴を脱いで中に入ってきた。
テーブル前に座ることなく、大家さんは壁にもたれた。
「……どうしたんですか?」
立ったまま問う。
「実はよ。お前に言いたくないことがあってな、でも言うべきじゃないかと思ってこの一週間迷ってて、やっぱ言うべきだろうと結論を出して、今ここに来たんだ」
相変わらず格好いい顔をしてらっしゃる。
俺の憧れであり、好きな人とは大家さんのことだ。
「言うべきことっていうのは?」
「あー、……こんなもん言ったところでどうにもならねーんだけどよ……」
怪訝そうな顔をしながら、大家さんは言った。
「私、この前キャトルミューティレーションってのを体験したんだよ」
「あ、はい……」
一週間後にその話題か。
てっきり血塗れの俺を見て、あの後何かとやかく訊いてくるんじゃないかと恐れていたのだけども、刃渡荘の住民からは何一つ問われなかった。
今となって大家さんが訊いてくるってことに、別に不思議はないのだけど。
「でもその時の記憶がなくてな。……あの後眠ってしまって、その後気付いたら部屋にいたんだよ。なんだったんだろうな、アレ。今まで経験した中でも、一番鳥肌のたった出来事だったよ」
「…………」
どうやら。
あの目障りで恐ろしい宇宙人共は――大家さん達の記憶を改変しているらしい。
としか思えない。
その後、大家さんのキャトルミューティレーション体験を聞いていたが、別に驚く事も共感することも出来ず、大家さんの怒りを買ってしまったことに酷く苛立ちを覚えた。
勿論自分自身に。
何故なら、
こんなにも、あり得ないような経験をしてしまった俺だからこそ、あり得ない現象にこれから立ち遭ったとしても――驚く、なんて感情、早々出せないだろう。
誰かに観察されている。
誰かに狙われている。
それは、ポジティブに考えるとつまり今までもそういう状況に置かれていたわけで。
シグナルの言うような、人間も誰かに飼われた存在、という可能性を少しだけ信じてみるとするならば、俺は喜んで常に吠えてやろうと思う。
ちょっとした反抗だけど。
俺は、次からやって来る訪問者にも、首は縦に振らないことを決めている。
訪問者との、日常という名の激闘という嘘だらけの日々は、
The Story Begins By Ending
地球は誰かによって観察されており。
また宇宙も誰かによって観察されており。
だからこそ、俺達は進化という成長をしなければならない。
進化のしないものなんて、つまらないじゃないか。
ありがとうございました