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宇宙からの訪問者  作者: 赤腹井守
迷惑訪問
2/20

epi-01:三人登場! 波乱の幕開け

 1



 刃渡荘で暮らす俺には、家族というものがいない。

 幼少期の頃に家族に棄てられたらしいが、本人である俺には全くといっていいほどその記憶がない。

 今でも信じられない過去を背負っているが、小学生の頃から俺の面倒を見てくれた刃渡荘の大家のおかげで、こうして今も生活出来ている。

 そんなわけで、謎の四人組から逃げてきた俺は、住んでいる刃渡荘に帰ってくると、早速家に帰るのが遅くなった理由と怪奇現象に偶然出くわした事を話した。

 大家さんこと立神真砂さんの住んでいる一階の一〇四号室の玄関前に立つ俺。

「すいませーん。大家さん居ますか?」

 インターホンが無いのでドアをコンコンと叩く。すると中から「へいへい。今いく」と声が聞こえた。

 大家さんは気の強い性格の持ち主のために、少々緊張してしまう。無礼のないように背筋をピンと伸ばしドアから出てくるのを待った。

「よぉ、遅かったな有瀬。……って、何でそんなに汗ダラダラなんだよオメェは」

 ドアがガチャリと開けられると同時に、大家さんは言いながら出てきたが、俺の姿を見ては目を丸くし驚いたようだった。

 こちらも大家さんの格好に驚いた。

「えっと……、もしかして今起きたんですか?」

 パジャマ姿の大家さんが出てきたのだ。それもピンクの可愛らしい兎がプリントされたパジャマ。

「ああ、五分前に起きたよ。……で、何でオメェはそんな汗ダラッダラなんだよ?」

 先ほどの四人組の一人の少女は、ボッサボサの髪の毛を垂らしていたが、大家さんの茶髪のロングヘアもボッサボサだった。というより、ただの寝癖だろう。あの不気味な少女には敵わないけども。

「いや……、実はその事で相談してもらいたくて……」

「……ん?」

 とりあえず、俺は大家さんの家に入ることにした。



「で? 要は婆さんに私がオメェにやった十五万円の入った鞄の盗られ、取り返そうと追いかけていたら、変な四人組にばったり出会って、いきなり婆さんに電撃みたいなもん浴びせては、私達に協力しろと脅してきたと。――どんなSFだよ」

「現実なんですよ」

 随分と散らかった部屋の真ん中に置かれたテーブルの前に座る俺は、先ほど起こった謎のイベントのことを赤裸々に語った。

 パジャマから着替えようともせず、顔も洗わない大家さんは頭を掻きながら、俺の前で呆れていた。

「まずオメェの言う婆さんは何人だ?」

「日本人だとは思うんですけどね」

「そんな婆さん……、アーノルド・シュワルツェネッガーの祖母か何かじゃねーの?」

 呆れるわ、と大家さんはその場に倒れた。

 畳の床に寝そべる大家さんに、俺は言う。

「実際この目で見たし、五メートル以上の壁をも軽々と飛び越えたんですよ、あの婆さんは。……人間業じゃないですよ、あれは」

「そこなんだよなー」と大家さんは身体を起こし、テーブルに置いてある湯飲みを手に取った。「オメェの話が本当ならその婆さんはマジで化け物だわ。――まぁ、どうせ幻覚か何かっつうオチなんだろうよ、結局は」

 湯飲みを口に近づける大家さんに、

「だったら幸せですよ。出来たらあの四人組のことも夢にしてほしいぐらいなんですから……」

 あれが幻覚だったら、俺は相当病んでいたのだろうか。現実ならば、俺はかなりヤバい領域に足を突っ込んだらしい。

 湯飲みの茶を飲む大家さんは、それを飲み干すとドンとテーブルに置いて、俺を睨んだ。

「まぁ落ち着け。落ちつかねーと前進しないぜ。……なんつーかよ、そういうときもあるさ。疲れてんだろお前、今日は折角の午前中授業ってんだから、ゆっくりと休めや」

 睨みながら言う大家さんにやや恐怖を感じたが、相変わらずの優しさには涙が出そうだった。

 この人は本当に良い人なんだよな。

 俺をずっと支えてきた唯一の理解者であり、保護者みたいなもんなんだ。

「心配かけてすいません。――じゃ、失礼しました」

 散らかった部屋から抜け、俺は玄関から出る前に軽く頭を下げる。テーブルの前で座っている大家さんが軽く手を振るのを見ると、外に出て自分の部屋に戻っていった。

 二〇四号室が俺の部屋である。

 大家さんの部屋の真上に位置するため、下手に暴れたり叫んだりすると、翌日には鉄拳を喰らうのでいつも静かに過ごしている。

 そのため、テレビを見ることもなく、俺は帰ってきて畳んでいた布団を畳の上に引き、身体を横にした。

「はぁ……」

 この溜め息に、今日起こった謎のイベントの思い出を詰め込み、吐き出した。

 ポニーテールの少女。

 金髪セミロングの少女。

 散切りショートカットの少女。

 ボッサボサ黒髪ロングヘアの少女。

 全てが印象的で、そして何より謎だった。

 そんな風に、今日一日の苦いイベントを思い出していくうちに、何時しか俺は眠りにつこうとしていた……。



「      」

 …………。

「す     」

 ……ん?

「すいませーん」

 ん?

 目を開く。見えたのは天井だった。どうやら寝てしまったらしい。そして起こされた原因は、外から聞こえる「すいませーん」の声。

 コンコンと、ドアを叩く音も同時に聞こえる。

「……何だ?」

 どうやら俺の部屋らしい。すいませーん、という女性の声と共にコンコンという音が近くで聞こえた。

「はい、今いきます」

 声をかけて、俺はむくりと身体を起こす。疲労感が溜まっていたせいか、身体がかなり重かった。

 ドアのほうへ足を進めると、更に「すいませーん」という声が響く。「はいはい今開けます」と言い、俺は鍵を開けて、ドアを開けた――。

「あ……、どうも」

 バタン!!

 勢いよくドアを閉める。

 いかんいかん。寝起きだったのかそれとも寝不足だったのかは分からないが、ドアの先に変な人物が見えてしまった。いやマズい。さすがに日常生活にまで幻覚という悪影響が成されるとなると、俺の生活にも支障が出てくる。

 そんなのは真っ平ごめんだ。

 幻覚かどうかを確かめるために、もう一度ドアを開ける。

「はい、どなたですか?」

「あー、すいませんすいません。私、エメラ――」

 バタン!!

 …………オイオイ。

 今のどう見ても、どう考えても見覚えのある顔だった!!

 あの青白い肌に、ボッサボサの黒髪。前髪の所為で目が隠れているために、ホラー要素たっぷりのオーラを醸し出していたあの四人組の少女の一人――、まるで彼女だ。

 いや、彼女だ。

 それに、彼女の後ろにあと三人はいた気がする。

 マズい。これはマズい。

 ドアの向こうにあの奇怪な少女がいると分かっていながら、俺はまたドアを開けなくてはならないのか? それこそごめんだ――と思っていたら、

 がちゃり――、

「酷いじゃないですか、自己紹介中にドア閉め――」

 バタン!!

 急に開いたドアを俺は強引に閉めた。

 いかん。いかんぞコレは!! どうしようもないじゃないか! このまま黙っててもずっとドアの前で立っているはずだ彼女は! ホラー映画の幽霊並みの怖さを持つ彼女がドアの前で立っているのを深夜想像してみろ、――トイレに行けないッッ!!


 ――がちゃり、

「……いい加減にしてくれない? 有瀬君。お遊びに付き合う暇は――宇宙人にはないのよね」


 唐突にドアが開けられた。

 出てきた顔は見知った顔。それもそのはずだ。嫌でも印象に残るあの顔だ。

 黒いブラウスに黒いミニスカート。ポニーテール。片手に銃を持っていた彼女の顔だった。

 今は銃を持っていないが、代わりに右手に黒い鞄を持っていた。

「あとそれと、今ここでエメラルドに謝りなさい。貴方が何回も無視したせいで泣いちゃってるじゃない」

 ポニーテールの少女は後ろで顔を手で隠しながら地面に佇む少女を指差した。

 ボッサボサ黒髪ロングヘアホラーガールだ。

「……えっと」

 一瞬にして恐怖も狂気も焦りも消えた。女の子を泣かせてしまったという事実を前にしては、どれを並べても女の子をどうにかしようと優先してしまう。

 俺は、前に立ちはだかるポニーテールの少女を退けては、地面に佇む少女の前で腰を下ろし、優しく声をかけた。

「あー、えっと……、その、ゴメンよ。その……何だ、驚いたっていうか……」

 貴方の顔を見てビビりました、とは口が裂けても言えない。

「えーと、……その、とにかく悪かった。すまん、この通りだ」

 俺は頭を下げ、両手を合わせて頭の前に出す。しばらくそうし続けていたら、

「……ぐすっ、も、もういいですよ。大丈夫です私は。……こちらこそ申し訳なかったです。何分こんな顔ですから……」

 それを聞いて顔を上げると、手で前髪を顔から退けた彼女の姿が見えた。

 意外にとても可愛い顔をしていたことに半ば驚いたが、しかし、なんとも青白い肌なんだ。

 ホッとした俺は立ち上がる――と、目の前にいた三人に気を取られる。

 そうだった。この三人、いや、この四人組はさっきの連中だった。

「……随分と警戒してるのね、有瀬君は」

 ポニーテールの少女がこちらを見もせずに、俺の部屋の中を覗きながら言った。

「知らない人に名前を知られてるんでね……、ちょっとは警戒しなくちゃいけないでしょ」

「うーん、警戒っていうにはちょっと少なすぎると思うけど?」

 彼女がそう言った直後――、ビュンッ! と音が耳の横を通り過ぎると共に、一瞬の風が生まれ、俺の髪を揺らした。

「……は?」

「とりあえず中でお話しましょう、有瀬君」

「お、おいちょっと待て、勝手に部屋に入るな」

 堂々と俺の部屋の中に入ったポニーテールの少女を止めようと手を伸ばしたが、ガシッと、誰かに伸ばした手を捉まれた。

「ふふーん。とりあえず中に入ろうよー」

 腕を掴んだのは――金髪セミロングヘアの少女だった。ニッコリとした笑顔をこちらに見せてくる彼女に、俺は何故か「……はい」と頷いてしまった。


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