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宇宙からの訪問者  作者: 赤腹井守
電撃訪問
17/20

epi-16:叫びと叫び 最終章の始動

 6



 戦争を体験したことも、この目で見たこともない俺にとっては、この緊迫とした状況を肌で感じるとなると、思わず――身震いをせずに、何も感じなくなってしまう。

 どういう恐ろしさが此処にあるのかも知らず。

 単身で戦場に乗り込む俺は――さすがに周囲からしてみれば馬鹿なのだろう。

 燃え盛るビルは右に。

 硬直したリーフと、こちらをじっと見つめるエメラルドは左に。

 そして――左のビルの中から、金髪セミロングガール、『破壊運動』を得意とし営業スマイルとは裏腹にとてつもなく嘘の上手い宇宙人――アップルが外に出てきた。

 所々焦げているドットバルーンワンピースを華麗に着こなす彼女もまた、こちらを笑顔で見ていた。

「……三人、か」

 アップル。

 リーフ。

 エメラルド。

 この三人が――ここにいた。

 俺の、敵として。

「最初に俺と闘うのは誰なんだ? 『完全念力(サイコキネシス)』を欲しがる強欲な宇宙人は、エメラルド、アップルのどっちなのかね」

 しっかりと三人を見据える。

 誰も動こうとしないことを勘付くと、一歩、戦場に深入りする。

 殺される覚悟はない。

 闘う覚悟もない。

 そんな中途半端な弱気腰の俺を相手に、エメラルドとアップルは、こちらをじっと、じっと凝視する。

「……遊ばされていたわけですか、私達は貴方に」

沈黙の空気の所為で、ビルを燃やす炎の音が聞こえていたが、不意にエメラルドが口を開いた。

 怪訝そうな顔をするエメラルド。

 しかし彼女はしっかりと俺を――恨むように睨んでいた。

「『終章、最終進化完全体フルエヴォルディング・ファイナル』は完璧に失敗しました。もうこれ以上、貴方を強引に捕らえたところで、次に何が起こるのかも分かりませんし、それに貴方は今度こそ私達の――敵になりました」

「最初っからだろ」

 馬鹿にしてみる。

 反感を買うかと思ったが、案外彼女も素直に答えた。

「ええ。そうですね。最初っから、私達と貴方は――敵でしたね」

 敵。

 しかし考えてみると、それほどまでに俺は彼女達から敵視されるような雰囲気を感じたことはなかった。むしろ、楽しげに日常を送るような雰囲気を。一人の知人として、仲良くあのアパートで時を過ごした気が――してしまった。

 罪悪感が――多少はあった。

 しかしそれは、一番あるのは――裏切り者のシグナルだろう。

 俺に全ての情報を与えた彼女が一番――この視界に映る三人に、申し訳ない気持ちで一杯のはずだ。

 悲しげな顔を、唐突に見せるエメラルド。

 そして、

「『終章、最終進化完全体フルエヴォルディング・ファイナル』を終わりにしましょう。――『最終章・目標死亡』の始まりを、始めましょう」

 にへへへへへ、とエメラルドは笑った。

「あっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははッッッッ!!!!」

 そして、高らかに笑い声を上げながら――アップルはビルの方向からこちらに走ってきた。

 一〇メートルほどの距離というものは――すぐそこで、アップルはもう既に得意の運動を駆使して、俺の目の前に来ていた。

「バァァァァァァァァァァァ――――」

 叫ぶ彼女に、『完全念力(サイコキネシス)』をかけるような思考したが、彼女の速さが尋常じゃないことが、今ここで実感された。

 今さっき振り上げたはずの右手が、もう既に俺の頬の横に来ている――、

「ッッッッッッカァァァッ!!!!!!」

 パチンッ! ではなく。

 バチンッ! でもなく。

 バンッ!! どころでもない。

 どんなに擬音語を並べたところで、今この瞬間俺の頬に喰らった衝撃を、擬音なんかで表現するとなると、おそらく「ドカンッ!」だとか「デストロイッッ!!」的な表現が一〇個ぐらいはないと――俺を襲う衝撃には至らない。

「――――ッッッ!!」

 叩かれた頬――そのまま叩かれた勢いに乗って俺の顔は左へと向けられ、身体ごともっていかれた。

 自分でも実感できるぐらい、この身体が回転しながら吹っ飛んでいることが分かる。

「ぉおっおぉぉおおっおおぉぉおぉぉおッッ」

「結局全部悪いのはミサっちゃんなんだよッ! 大人しく私達に協力すればいいのにッ! なんでしなかったのッ!?」

 回転している俺の腹部に、綺麗にパンチを決めてくるアップル。

 ――中身が破裂した感覚を味わった。

 殴られ、そのまま後方へ吹っ飛ぶ。

 アスファルトの地面に転がり落ちる俺に、アップルは容赦なく拳を持ってきた。

「ばかばかばかばかばかばかばかばかッッ!! ミサっちゃんなんて消えちゃえ! 『完全念力(サイコキネシス)』なんて消えちゃえッ!!」

 重い――思いの一撃が、俺の腹部にまたもや炸裂する。

 口を開けても、悲鳴を出せない俺は、息さえままならない状態で、アップルを視界の中心におく。

 殺される。

 そう思った。

 その瞬間――酷く恐怖した。

 たった三発の攻撃だけで、これほどまでに激痛が走るとは思ってもいなかった。もう死んでもおかしくないとどこかで考える自分を知ったとき、自分自身に慄然してしまう自分を感じて――反射的に涙を流した。

「あぅ……」

 誰にも聞こえない呻きを上げる。

 誰にも聞こえないからこそ――アップルは次なる攻撃をしようとしていた。

 両手を握り、拳二個分の凶器を、身体上に作るアップル。

「ミ、……ミサっちゃんなんて……死んじゃえ。……私達をこんな事にした、――お前なんて、死んでしまえ……」

 悲しみの声を上げていても、しかしアップルの形相は厳しかった。

 顔を真っ赤にして、じっと俺を見つめる。

 これを。

 これこそを待っていた。

「お、……お前らを……こ、んな風に、……した……の、は、お、れなの、……か?」

 死に物狂いで口に出す。

 声を出した所為で、咳き込んでしまい、口から血が出た。

「そ、うだよ……! 『完全念力(サイコキネシス)』なんてミサっちゃんが持たなかったら、ずっと私達は仲の良い仲間だったんだよッッッ!!」


「だったら、何してんだよ」


「な、に?」

「……仲の良い仲間に、戻したいんなら……、こんなところで、な、にやってんだよ……!!」

 渾身の怒声を上げても、響く声の大きさは小さかった。

 それでも――アップルの両手の凶器が僅かに震えたのは確かだった。

「俺を……殺して……お前らが……元に、もど、るとでも?」

「何言ってんの……!?」

 震える声が聞こえる。

 震える凶器が見える。

 俺だって十分に震えているが、それでもそれを隠し続けて、目の前にいる彼女に言う。

「あ、いや、なんでもない」

 と。

『時間稼ぎは十分に出来た』

 ここからは。

『反撃だ』

――『完全念力(サイコキネシス)』、発動。


「オラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!」


 叫ぶ。

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!』

 叫ぶ。

 ゴゲガグギギギグゲガゴゴギガグガガギガゴガグガガゴギギゴゴガゲゲ――。

 全身から力を放つような感覚に浸りながら――身体を跨ぐアップルを、宙に浮かせた。

「ふえっ!?」

「なっ!?」

 唖然とした顔をこちらに見せるアップル。

 驚愕し、声を上げるエメラルド。

「『完全念力(サイコキネシス)』ってのは確かに嫌な能力だよなぁッ! 見たくもない未来が見えたり、人を騙す嘘を造ったり――最強と謳われていても最悪なのは確かだなッ!」

 地面に寝ながら、叫ぶ。

 徐々に上空に浮くアップルを見据えながら、それと呼応するかのように強い風が吹いてくるのも分かった。

「それに『完全念力(こいつ)』の所為でお前らの仲も悪くなったてんだからよぉッ! 最低最悪だな! 俺もこんな力欲しくなかったよ!」

 拳を握る。

 かすり傷しかしていない――両手の拳を握る。

 立つことすら死に値するぐらい、俺の激痛は常に身体中を走っていたが、それでも、それでもここは我慢するべきだと自分に言い聞かせ、ゆっくりと地面に立った。

 宙を上がっていくアップルを凝視し。

「でもなぁッ――」

 エメラルドに聞こえるぐらい、

 アップルに十分聞こえるぐらい。

 リーフが寝てても聞こえるように。

 シグナルが遠くにいても聞こえるぐらい――。


「『完全念力(こいつ)』が誰かを救う事のできる力になるなら!! ――闘いますよ、誰とでもな」


 最後の部分を小さな声で言ったのは――。

完全念力(サイコキネシス)』の所為で上空に浮かばされていたアップルが、突然右へと吹っ飛んでいったからである。

 と同時に、俺の身体を思い切り倒すぐらいの強風が吹いてきたのだから、驚いてしまうのは無理ない。

 地面に叩き落されるような衝撃によって、アップルに暴行された際の激痛が更に増した。

 それがスイッチのように。


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