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宇宙からの訪問者  作者: 赤腹井守
真相訪問
12/20

epi-11:遂に出遭う…… 火花を散らす男!

 5



「どこへ行くの?」

 幸い中の不幸というべきか。

 それとも不幸中の幸いなのか。

 銅像が下にあるビルまであと数キロというところ――鱧川橋の歩道で、シグナルと出遭ってしまった。

 シグナルは俺の通う高校の女子制服姿だった。

「アップルから聞いたわ。――大変らしいわね」

「分かってんなら、通らせてもらうぜ」

 無視することに決めて、彼女の横を駆ける。

「それこそ無意味だと思わない?」

 と、通り過ぎたところで、シグナルが不意に言った。

 そのまま走り去ろうとしたが、俺の足はそれに歯向かいゆっくりとペースを落としていった。

 振り返って、シグナルの背中に声をぶつける。

「何がだよ」

「人助け」

 そう思わない? と彼女はこちらを振り返った。

「何かのために自らの身を削る。何かのために自らを犠牲にする。――その行為の結末を考えれば、随分とアホらしいとは思わないの?」

「何言ってんだ」

「自己犠牲なんてものはつまらないって言いたいのよ。自分を傷つけてまで他人を救おう、っていう考えは――とっても間抜けよね」

 ガガガガ、と頭が揺れる。

「この星の人間という生物は、七つの大罪を司ると知ったわ。なのに、それなのに人間の中には善を語る者がいる。警察だのヒーローだの、お人好しと言わんばかりに。その人達に聞いてみたいわ、――そんな事して何になるんですか? ってね」

 ガガガガガガガ。ガガガ。

 ガガガガ。ガ。ガガ。

「貴方にとってその行動の利益は? 貴方に報酬はやってくるんですか? 貴方が傷ついて、助けられた人は貴方に対してどのような思いを抱くんですか?」

 ガガ。ガ。

 ガガガガガガ。ガガガ。ガ。ガ。ガガ。

「貴方にとって、人助けに――意味なんてあるんですか?」


「ねーよ」


 バリンッ! バリンッバリバリバリンッ!

 歩道の横――道路を走る乗用車全ての窓ガラスが一斉に割れた。

 容赦ない雑音が耳に響いた。

 破片が飛び散る。それでも、俺はシグナルを睨んだ。

 シグナルの顔は――驚愕を示していた。

「意味なんて、そんなもの必要ない。人助けに、意味を求めてるんじゃねーよ」

 限りなく危険な状況――割れた硝子の破片が一斉にこちらに飛び散ってくるという現象の中にいても、俺は、それでも俺はシグナルに言った。

 いや、言わなくちゃいけない。

 地球人代表として。

「人間っていうのには、感情や思いや気持ちがある。人はそれに従って生きている。人助けもそれに属してんだろーよ。あのなシグナル、――理屈じゃねーんだよ、人助けっつうやつは」

 飛び散る硝子は俺に当たらず。

 そしてシグナルにも当たらず。

「自分を傷つけてまでも助けたい人っていうのは絶対にこの世に存在する。いざその人を救わなくちゃいけないとき、意味や理屈を考えてどーする? 助けたいって思いがあるなら、助ければいい話なんだよ」

 硝子の破片は鱧川橋の下に流れている鱧川へと落ちていった。

 驚愕しているシグナルに、指を差す。

「宇宙人には理解できねーのかもな」

「だったら――」

 と、やや笑みを浮かべた顔に戻すシグナル。

「それが無意味と分かっていても、貴方はその『助けたい気持ち』というものを、貫き通すのかしら?」

 無意味と分かっていたら、助けたりしないさ。

 まず、その前にお前は――。

「お前は思考を再構築してろ」

「――――」

 地球人を知った振りしている宇宙人を後にして。

 銅像が下にあるビルへと走っていった。



 6



 何故銅像が下にあるビルを知っているのかと聞かれれば、鱧川公園に前来たことがあり、その際にそれを目にしたからである、と答えよう。

 鱧川公園へ入園する前に、高層ビルが立ち並ぶ道がある。

 その道のとある場所に、北西を指差す人の銅像は建てられていた。

 確かにあった。

「…………しかし」

 しかし、銅像の背景は――ビルではなく、駅だった。

 午後六時過ぎ。駅のホームにあるデジタル時計がそう示している。銅像の前に立っていてもそれが見える。

 よくよく考えてみれば、ビルの下に銅像があるというのは聊か不自然だ。

 しかし切羽詰った状況で『完全念力(サイコキネシス)』をあてにし、少しの喜びがあったあの時では、それに気づくことなんて不可能に近かった。

 ならば、あの時見たビルの下にあった銅像は、何だったのだろうか?

 幻覚なのか。

 ただの見間違いなのか。

 前向きに考えれば、この他にも銅像が下にあるビルってのがあるのかもしれない。

 がしかし、確かにリーフと鱧川公園へ行く途中でそれを見ているのだ。だったら俺の記憶に問題はないとみる。だけども、何度も繰り返すようだけど目の前に広がっているのは、ビルではなく駅だった。

 帰宅ラッシュなのか、人通りが多い今現在。

 人々の足音が、俺の焦りを加速させようとしている。

「……いかん。考えろ」

完全念力(サイコキネシス)』たる超能力に頼ったのがいけないのだろうか。

 シグナルいわく、地球上よりも遥か上に存在するものを舐めないほうが身の為だと言っていたが、それはつまり地球に存在するはずのない超能力も舐めないほうが身の為だというのだろうか。

「くそ。ここらで銅像があるところなんて他にあるのか……」

 手当たり次第に、通りかかる人々に聞く、なんて事は出来ない。

 時間が無いんだ。

 いや、時間はあるのか。

 無闇に三六〇度ぐるりと回転し、周囲を見渡すも、結果は同じだった。

 銅像を見つめる。

「…………なんでお前はビルの下にいないんだよ」

 醜い愚痴だ。

 ここに居てもしょうがない、と考え、俺は踵を返す。

 ――しかしそこで、不意に気づいた。

「ちょっと待て……」

 もう一度振り返る。

 確かリーフとここに来た時。

 向こうに鱧川公園が見えていたはずだ。

「……公園、じゃねーよな」

 あるのは――駅。

 鱧川公園へ行く際、あの狭くて暗い道を歩いた。

 ビルと――ビルの間だ。

「そうか、なるほど」

 実に――なるほど。

 いわばこれは挑戦状と受け取るべきなのか、それとも本当に騙しているのか。

 いや――もう既に騙されているのか。

「――――やってやろうじゃねーか」

 あの感覚をもう一度。

 歩道の真ん中でやった――『完全念力(サイコキネシス)

 ガガガ、と。

 ギギギ、と。

 女性の悲鳴のようで、男性の唸り声のようで、犬の遠吠えのようで、猫の鳴き声のようで、誰かの笑い声のような、不可解で不愉快な雑音。

 握力を感じる事が出来なくなるぐらいに、拳を握る。

 全身に力を入れる。

 ゆっくりと、目を閉じた。


「――んん」

 んん――んん――

『ん――んんんん――んんん――ん――んんんんんん――んん――』

 ぐがげぎぐがげぎぎぎごげがぎごぎぐがごげぎがげがげがぐげごぎげがげががぎぎごごごげげがぎぎぐがぐぐががぎごごごごぎぐが、

 闇、

 闇闇闇、

 ――思考、

 ビル、

 ビル、

 駅、

 銅像、

 鱧川公園、

 リーフ、

 完全念力(サイコキネシス)

 有瀬美里、

 挑戦、

 騙し、

 ――闇闇闇、

 闇、

 光、

 ――最後に、

 幻覚。

 ごごげげぎがげごがぐぐぐげぎぐがごぐぎげががぎぐげごがぎぎごげぐぎがぎがぎがげげげぎごがぎがごぐげごげごぐがぐぎが、

『唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖唖――ッ』

「――ああッ!!」


 目を、開ける。

 視界に映る景色には――ビルを背景にした銅像があった。

 否、ただのビルではない。

「――――」

 鮮やかな炎を、黙々と出し続けるビルが目の前にあった。

 熱気が直に伝わってくる。

 煙たい。

 後ずさりをする。

 さっきそこにあったはずの駅は無く、あるのは、およそ五階ぐらいから、燃え盛る炎に蝕まれているビルと――炎の光によって煌く銅像。

 確かに、ビルはそこにあった。

 ビルと燃えるビルの間にも、小さな道があった。

「……どういうことだよ」

「こういうことだよ」

 呆れたような声が聞こえた。

 凝視していたビルから視線を外す。

 そう。

 燃え盛るビルによって、暗く閉ざされていたビルとビルの間の道に、明かりが来ていたために、そこからゆっくりとこちらに歩み寄ってくる影がすぐに分かった。

 KEEP OUT。

 立ち入り禁止。

「お前が今目の当たりにしている現実は――こういうことなのさ、玩具(おもちゃ)の少年」

 バチバチと。

 頭から火花を出しながら、彼はこちらに迫ってきた。

 不気味な幻覚は終わり。

 不気味な現実は始まった。


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