表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙からの訪問者  作者: 赤腹井守
真相訪問
11/20

epi-10:使う時は来た 完全念力の見る幻!

 4



 ワンピースの姿に、金髪のセミロング。終始にこやかな笑顔を見せる彼女の名は、アップル。宇宙人狩りを目的として地球に訪れたグリーンというヒューマノイド宇宙人の暗殺係と呼ばれる存在。一番の怪力の持ち主であり、見た目で判断しちゃいけないとはこの事だ。

「大変なんだ……」

 彼女の存在を目に焼き尽くす。

 アップルだ。

 丁度いいところに来てくれた。

 刃渡荘の出入り口付近に、彼女は心配そうな顔でこちらを見ていた。

「ん? どしたの? そんなに慌てて」

 彼女の言うように俺は慌てていた。

 彼女の下へ駆け出していたからだ。

「…………誘拐だ」

「へ? ユウカイ?」

「あ、お前、誘拐の意味知ってるんだっけか? まぁいい! とにかくだ。とにかくだよッ!」

「お、落ち着いてよ、ミサっちゃん」

「落ち着いちゃいけないんだよ!」

 叫ぶ。いや、怒声だろうか。

 終始笑顔の彼女とは逆に、俺は終始怪訝そうな顔をしているに違いない。

「――落ち着いてよ」

「――ッ」

 不意に、アップルらしくない低い口調を聞かされる。

「何があったかしらないし、ユウカイの意味も分からないけどさ。ミサっちゃん、これだけは言えるよ。落ち着かないと、失敗しちゃうんだよ」

 はぁ、ふぅ。

 深呼吸をして、刃渡荘の建物へと振り返る。

 開けっ放しのドアはそのままにしておいたので、遠くから見れば奇妙で仕方ない。

「……大家さん達が、どこかに連れて行かれたんだよ」

「ぅえーッッ! あの強そうな女の人が!? どーして!? どこに!?」

 驚き方さえも場違いな気がしたが、しかしアップル、お前のお陰で落ち着くことが出来たと言っておこう。

 刃渡荘を見て、気づいたのだ。

 そういや大家さんも似たような事を言っていたな、と。

 確かにここに大家さんがいたら、大家さんは俺をこっぴどく叱っていたに違いない。まるで母親のように、俺を、正しい道へと進めさせていただろう。そう考えると、まるで慌てていた俺が醜く感じた。

 アップルのほうを振り向く。彼女の顔をじっと見て、お願いをした。

「助けてくれないか。手伝って欲しい」

「いいよ!」

 考える暇も無く、まるで反射的にアップルは答えた。



 夕方五時過ぎ。

 空には夕焼けが広がっていた。似合わしくない。今の俺の心境と外の景色がかみ合わない。その所為か、焦るような感覚が時々不意に俺を襲ってくる。

 繁華街を駆ける俺に、走って何の意味がある? と問いかけてくる。

 意味はない。

 でも――走らないといけない気がした。

 アップルと手分けした探す事になった。改めて思うが、現れたのがアップルで良かった。シグナルだったら変な条件を出すに違いない。

 ありとあらゆる場所を探す。

 いないと分かっていてもショッピングセンターを探したり、不良が集まるような路地裏にさえ足を運んだ。

 こんな事で大家さん達が見つかるのだろうか。

 どうせなら警察に電話すべきだった。

 ――警察に電話する。それが第一だ。

 ――駄目だよ。アパリッショナル宇宙人が関与している事件に、警察は駄目。

 なんて強引に言われては、俺も首を横に振りたかったが、肯くしかなかった。

 自力で探せ。大家さんがそう言ってるに違いない。

 無理はあるがな。

 しかし困った。

 大家さん達を見つけるにしても、ヒントが何一つないのならば探すあてがない。

 ヒントといえばアレだ。

 脅迫文というか、洒落た置手紙を残した謎の人物。俺の推測が正しいのならば、間違いなく犯人は『KEEP OUT』と書かれたパッキングテープを身体中に貼り付けた白い衣を纏った奴だ。

 記憶の中にいると語ったのだから、間違いなく奴だろう。

 ならば感電死事故――の犯人も彼に違いないとみる。

 頭の中がキーワードで埋めつくされる。

 刃渡荘。誘拐。大家さん。ドア開放。ドア全壊。置手紙。記憶。KEEP OUT。変人。感電死。アパリッショナル宇宙人。グリーン。シグナル。アップル。リーフ。エメラルド。

 そういえば、今日の内に俺は変な知識を詰め込まされたはずだった。

 昼休みの中の会話。

『あ、そうそう。貴方の『完全念力(サイコキネシス)』。使い方って様々なのよ。透視とか予知能力とか、結構ジャンルは多いからね』

『あ? 透視能力?』

『どうしてそこに引っかかるの?』

『あ、いや。……そうか、そういう使い方もあるのか。だったらよ、未来を見るとか、千里眼とか、死人と話すとか動物と話すとか……、そういうのもあるのか?』

『あると――思うわよ。多分ね』

 ――あ。

 歩道の真ん中で足を止めた。

 気づけば横には、昨日リーフと行ったCDショップがあった。

「『完全念力(サイコキネシス)』……」

 呟く。

 その呟きも雑音によってすぐに掻き消された。

 だけども消されることのないものが心にあった。俺の内心に、一つだけポジティブな可能性が確かに芽生えていた。

「……千里眼ってか」

完全念力(サイコキネシス)』がどこまで扱えるのか無知だ。

 だからこそ。無知だからこそ可能性があるのだろう。

 落ち着け。

 落ち着かないと、前には進めない。

 落ち着かないと、何もかも失敗する。

 俺は、人の歩行の邪魔になるような場所に立ちながら。

 ゆっくりと呼吸を整え、空を見上げる。

「試してみようか……」

 気まぐれで起こる『完全念力(サイコキネシス)』だが、ここぞという時に発動してくれるのがこの力の良い所だ。例えば、あの四人組と初めて遭ったとき、逃亡の手段にこれを使った。

 危機的状況で発動する、という条件があるのなら――。

 今この瞬間だって。


『アアアアア『ウウウ『エエ『ギギギギ『ンンン『ガガ』――――――――――――――


 ――緑色の空。

 発光体が白く輝きながら、一つのビルに向かっている。

 ビルから黄色い輝きが新たに生まれた。

 電流のような青白い光が、滝のようにそこから流れている。

 端から端まで、『立ち入り禁止』とかかれたテープが貼り付けられる。

 笑い声が聞こえてきた。

 数人の影がビルから落ちてくる。

 落ちた影はやがて地面に消えた。

 ビルの下には銅像が建っていた――。


 ――――――――――――――――『オオ『ゲゲゲゲ『ググ『エエエエエ『ゴゴゴ――


「…………ぅぁ」

 ぐぎぎ、と何かが埋め込まれるような頭痛が急に生まれてきた。

 その場に倒れるように身体が後ろにもっていかれたが、右足で何とか踏ん張り、姿勢は保てたままだった。

「…………はあ」

 息切れ、というもんじゃない。

 これはもう死んでもおかしくないぐらいキツい。

 頭が爆発しそうで、その分視界も安定していなかった。歩く人々がカラフルな影に見える。

 頭を手で抱える。頭痛によるものなのか、嘔吐しそうな気分になってきた。

 しかし収穫を手に入れた。

 ――『完全念力(サイコキネシス)』を扱うことには成功した。

 それが完全たる能力なのか、そんな確証はどこにもねーが。

 それでも、行くべき場所は見つかった。

「……銅像が下にあるビル」

 念のために声に出して確認する。

 あの現象が――千里眼のようなものに近いのならば、これを信念にすることは不可。

 されど。

 ――『落ちつかねーと前進しないぜ』

 大家さん。

 前進するには、足を動かすしかないでしょ。

「人探しじゃねーぜ。人助けだ」

 自分に言い聞かせる。

 幸いにも、俺は、銅像が下にあるビルを知っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ