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In The Fantasynovel  作者: kurora
第一章
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04話 長剣

「来てくれたのか、正直昨日で居なくなってしまうかと思ったよ」

「本当はそのつもりだったさ、だが事情が変わった。後10日間、俺に仕事をくれないか?」

「あぁ、まだこの街の治安は良くなって無いからね」

「じゃあよろしく頼む」

 

 俺は昨日依頼を受けた男にもう一度会う事にした。

 この仕事は俺の力を測る事が出来るし、そして俺を鍛えてくれる依頼だ。

 俺があの二人を守ってやらないといけないからな、一人分の強さだけじゃ足りねぇ。

 自分だけを守るなら今でも可能だが仲間の命を守るとなると話は別だ、2倍強くなるだけじゃ足りねぇ、3倍いや4倍以上強くならないといけねぇ。

 ランクFやEなんかのアルバイトじゃ強くなんかなれねぇから俺は本当に運が良いぜ。


「では、今日も盗賊まがいの奴らや暴力団などの悪さする奴らをこらしめてやろう」

「あぁ任せとけ、今日はどこに向かえばいいんだ?」

「今日は商店街からかなり離れた所だ、あそこは危険なんだが君なら大丈夫だろう」

「お! 俺を評価してくれるのか、お前良い奴だな、名前を教えてくれんから変なやつだと思ってたぜ」

「そこら辺は勘弁してくれ、その為の非公式の契約なんだ」

「まぁ何も聞きはしないさ、お前の事は気に入ったし俺にはこれ以上ない条件だぜ」

「それは良かった、じゃあこの地図のあたりを見回りしてくれ。危ないと思ったらこの位置まで逃げてくれ、そうすれば私も加勢出来る」

「分かった。まぁそれは無駄になるのは目に見えてるけどな」


 俺は笑いながら依頼者の男の肩をたたきながら目的地に向かった。

 まだこの街をあまり知らない俺は帰りに道に迷わないように飲食店の場所と名前で道を確認しながら男についていく。

 飲食店と精肉、魚、野菜売り場を見ているうちに朝ごはん食べたばかりの俺の腹は、目的地に着く前に小さく悲鳴を上げ始めていた。

 さっさと仕上げてさっき見つけた美味しそうな肉料理店に向かおう。


「地図の通りならここが目的地だな、始めるか……」


 俺はアルバイト当日の夜に武器屋で買った木刀を体になじませる。

 木刀と言えども武器には変わらない、打ち所が悪ければ相手が死んでしまう場合すらある、細心の注意を払って武器を扱わなければいけねぇ。

 武器を使いこなすのは相当の集中力がいる。少しでも気が抜ければ相手か自分が大怪我を負ってしまう、それが10年以上様々な武術で学んだことの一つだ。

 俺は武器を持たないで拳で戦う方が好きだ。

 だが拳で戦うと相手が武器を持った時こちらが圧倒的に不利になってしまうのは目に見えている。多分一対一なら相手が武器を持っていたとしても実力差で何とかできる自信があるが、複数になるとどうしても素手では太刀打ちできなくなる。

 俺は試合前と同じ様に準備を始める。

 準備といっても何か自分の中にジンクスがあるわけでも何か特別な動作をする訳じゃねぇ。


――――ただイメージする。


 自分が今まで勝ってきたときの感覚を思い出す。

 初めての出場した大会や、つい先日の日本での練習試合。

 今まで勝った時の事は全てこの体が記憶している。

 その時の体の緊張、姿勢、息遣い、足の運び、全て最高の状態を思い出す。

 体調は完璧だった、筋肉の疲労も精神の疲労もない体内時計もしっかり機能している。

 今回が特別良いわけじゃねぇ、これが俺にとってどんな状況下でもこの状態を維持し続ける事が出来るのが本当の強さだ。

 数分のイメージトレーニングを終え、意識を完全に切り替えた。


「よし、行くか」


 俺は、依頼の男が言っていた通りの道をゆっくり歩いていく。

 小さな商店街だった道は少しずつスラム街の様な場所になってきた。

 俺自身に向けられる視線が少しずつ痛くなってくる、だが俺に何かをしかけてくる様子は無い。

 今の俺はほぼ隙のない状態を保っている。ここで俺を襲う奴は俺の強さをわからない雑魚か俺以上に強い者だけだろう。


「にーちゃん、ちょっと堂々と歩き過ぎなんじゃねぇか?」


 前者がいきなり現れた。

 2人組の男はズボンのポケットに手を突っ込んでいる、小型ナイフでも隠してるんだろう。

 どんな世界にもこんなくだらない奴は存在するんだなと思いながら俺は相手の挑発に答える。


「なんだ? ここは歩道じゃないのか?」

「いやぁ、ここは歩道だぜ。だけどにーちゃんは通行料を払ってないだろう?」

「通行料か、それは知らなかったぜ。すまねぇがタダで通らせてくれ」

「そりゃねぇよ、にーちゃん通りたければしっかり払ってもらわないとなぁ」


 男に一人が俺の一切怯えない対応に痺れを切らしたのか、俺の思った通りにポケットに隠していた小型ナイフを構えて脅してくる。


「なぁ分かってるだろ? 持ってる金全部置いてきゃあ良いんだよ」

「まぁ、お前らは俺が持っている金が欲しいだけだよな」

「分かっているなら痛い目にあわないうちにさっさと金をわたしな」

「仕方ねぇな痛い目に会うのはお前達だ。やるならさっさとかかってきな」


 俺は2人組の男に木刀を構えて臨戦態勢に入る。

 2人組の男は木刀を見て馬鹿にした笑いを浮かべて俺に攻撃を仕掛けてくる。

 木刀なんてタダのおもちゃだと思っているのだろう、切れ味のいいナイフに勝てると思ってないのかもしれない。

 こいつらは本当に馬鹿じゃねぇか?リーチが高い木刀の方が有利に決まってるじゃねぇか。


「おら、さっさと観念して金を渡せ」


 2人の男は囲む事も無く俺の前に立ちナイフを振り回している。

 こいつらの相手は面倒になってきたな、さっさと片付けるか。

 俺は数年前に習った剣道を思い出す、この頃は素手での戦闘練習しかしていなかったが、こいつら二人くらいには効くだろう。


「ちょっと痛いがお前らが悪いんだ、反省しろよ」

「グヘッ」


 俺は、ただ思いっきり相手に向けて木刀を振る。そのスピードは自分が思う以上の早さだった。

 ……俺は此処まで強かったのか?

 小さな違和感を感じながら、相手は自分に木刀が降られていることすら気が付かず一瞬で気絶した。

 もう一人の男は何が起きたか分かっていない様子だ、すぐさま俺はもう一度剣を振る。


「グハッ」

「弱すぎるぞお前ら…………」


 俺は木刀を腰にしまい、泡を吹いて気絶している男2人を担いで依頼者の男の所へ向かう。

 俺は集合場所だった商店街の近くにある広場に到着して気絶した男を下す。


「なぁ終わったぞ……何やってんだ?」

「おかえり、意外と速かったな、今日はそいつらだけか?」

「あぁ、ちょっと気を張りすぎたせいで警戒されたのかもしれんな。で、これは何だ?」

「これとは何だ、未来を担う子供たちだぞ」


 男は広場で子供達と遊んでいた。


「楽しそうだな、子供達もお前も」

「あぁ子供は素敵だ、まだ無垢な気持ちで日々を楽しく生きる事の出来る天才だ。この近くにある孤児院の戦争で親が無くなった子供達なんだ」

「……みんな笑顔だな」

「あぁ本当に笑顔だ。自分の境遇に負けずに頑張って生きている、私はこの笑顔を守りたいんだ」

「その為の非公式治安維持か……本当にいいやつだなお前」

「ありがとう、直接そうやって言われるとくすぐったいな」


…………なんだこの感じ?俺はこの男の事を知っている?

 いや、この世界に俺の知り合いはいないし、子供好きの金持ちなんて俺は知り合いに居ない筈だ。だが何故か違和感を感じる……。

 だがその異和感の原因は分からず、俺は子供達と遊んでいる男を見ながら考えていた。


「ねぇでっかい兄ちゃんも遊ぼうぜ」

「おう? 俺か?」

「うん! これから鬼ごっこやるんだ、お兄ちゃんが鬼ね」

「お!? 待てよ、いきなり俺が鬼かよ! このやろう」

「わー、でっかい兄―ちゃんが鬼だぞ! 逃げろぉ!」


 こうして結局俺は違和感の原因が解決する事無く日が暮れるまで子供達と遊ぶことになった。


「なぁ、今日は襲いかかってきたチンピラ2人を縛って放置して、子供と遊んでただけだぞ? いいのかこんなので」

「あぁどうせ、今日はあそこを周るだけだったんだ、周ったら帰ってよかったんだよ」

「マジか……さっさと飯食いに行ってよかったのかよ」

「あぁそうだな、でも私がおごってやったんだ。悪くは無かっただろ?」

「タダで飯が食えたから良しとするか、じゃあ今日はさっさと宿借りて寝るぜ」

「そうか、また明日よろしくお願いするよ」

「おう、また明日な」


 次の日俺は少し早めに起きて今後旅に出る時に自分が合う武器を探す事にした。この国には武器屋が何件もある為、朝早く出ないと時間に間に合わなねぇ。

 リーディアという国は少し前まで戦争をやっていただけあり、武器屋は10件程度あり武器の種類が豊富だった。西洋の剣から日本刀、ヌンチャクや手裏剣に似た様なものまである。

 この東都市だけでこれだけの武器屋があるんだ。中央都市はどれくらいの規模の武器屋があるんだ?

 気になって仕方がないが、今俺にはそんな時間は無い、出来るだけ自分にあった武器を探すか。

 やっぱり武器は剣だな、勇者が使うのは剣に決まっている。そういえばレイピアはまだ習ってなかったな、まぁあれは俺には合わないだろう。

 俺はまず日本刀に似た鞘に収まった刀を見ていたが、俺は刀に関して全く知識が無いし、そもそも剣術はあまり得意じゃねぇ。

 見てわかるのはカッコ良いかカッコ悪いか、持ちやすいか持ちにくいかだけだ。

 特に気に入った物が見当たらず5件目の武器屋を回った時、店員に声をかけられた。


「お客さん、なんかお探しかい?」

「あぁ剣が欲しいんだ。でもイマイチしっくりくる物が見つからなくてな」

「剣ですかい、さっきからお客さんの見てる物は剣というより刀って代物だがそっちの武術を習ってたんかい?」

「ほとんど基礎しかやってないけどな、ただ刀しか触った事が無いんだ。こっちの方が良いかなと思ったんだがどれも合いそうにねぇんだ」

「そうだろうな、お客さんの体型にはここら辺の刀はあわねぇよ。刀を扱うやつが基本的にお客さんの様な大きな人が少ないんだ」

「ふむ、だからどれも違和感があったのか、まぁ身のこなしの軽い奴の方が刀は扱いやすそうだからな」


 店主の言う事を聞いてから良く見ると、自分に合っている刀はここにも前の店にも無い事が分かった。

 まぁ刀に固執する必要は無いから別の武器を探した方が良いのかもしれんな。


「なぁおっさん、俺にあった武器ってどんなもんかわかるか? 出来れば剣が良いんだが」

「お客さんは結構大きくて頑丈そうな体型してるからな、やはり長剣じゃないかね」

「長剣か、迫力あってよさそうじゃねぇか、この中で一番頑丈でデカイ長剣ってどれだ?」

「流石にこの店で一番デカく頑丈な長剣は扱えないと思うぞ? お客さんみたいな人は沢山いたが、武器として扱えるような奴は今まで見た事ないからな」

「そうか、まぁじゃあ一度見せてもらう事は出来ないか? 一度どんなもんなのかだけ確かめてぇ」

「まぁお客さんみたいなやつは嫌いじゃないさ、ちょっと待ってな持って来てやるよ」


 そう言って店主は店の奥に入って数分後、荷台に乗せた布に包まれた物を運んできた。


「これだよ、まぁこれを使うなら片手で持ち上げられる位じゃないと無理だな」

「おぉ、黒く輝いてカッコイイじゃねぇか、こりゃ思ったより重そうだな」

「こいつを見るだけで諦める奴もいるからな、多分この国で1,2を争う頑丈な武器だな」

「おう、すげぇな気に入った。ちょっと触らせてもらうぜ」


 俺は布を取って、大剣を両手で持ち上げた。


「お! お客さん片手で持ちあげられるんかい。こんなに早く片手で持ち上げる人はお客さんが初めてだ」

「そうか、ありがとう。だがこりゃまだ俺には扱える様な代物じゃねぇな、でも気に入った!」

「気に入ったって……お客さんいくらなんでも持つのがやっとな剣じゃ旅の邪魔にしかならないぜ」

「大丈夫だ、これくらいなら1週間で慣れるさ、これはいくらだ?」

「いや、これは値段はつけてねぇんだ。使いこなせる奴はいないし誰も買わんからな」


 そうして店主は少し考えて俺に提案する。


「お前さん時間はあるか? こいつを使いたかったら何時でもここに来てくれ、裏庭に練習できる広場がある、この一週間、お前さんにこの大剣を貸してやるよ、それでお客さんがこれを1週間で使いこなせたら安く売ってやる。だが無理なら売る事は出来ねぇからな、俺は上手く使えない武器は売らないって決めてるんでな」

「マジかおっさん! じゃあ仕事前と仕事後に此処に寄らせてもらっていいか?」

「俺は強くなる奴が好きだからな、まぁうまく扱えなくても扱える見込みさえあれば売ってやるさ」

「ありがとな、おっさん! じゃあ仕事が終わったらまた来るぜ!」


 こうして俺はこの世界の新しい武器を手に入れる為の修行が始まった。

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