17話 討伐
佐藤兄妹と別れた後、俺達は北都市の門近くの少し高めの宿を借りた。大会までは日にちで言えば1ヶ月以上ある。デリルに行くまでの間、ギルドで依頼を受けてこの世界で生きて行く力と知識を手に入れないといけない。
だから出来るだけ夜は安心して眠って疲れを取る為に、値段は高いがゆっくり出来る宿を取る事にした。
「あ~、眠れないぜ」
寝る前、部屋で忠則は一人興奮していた。明日は遂にはじめて、この国を出て行うギルドの依頼を受けるのだ。忠則が今までずっとこの日を待ちわびていたのは分かっているが、この状態の忠則はウザい。
俺は忠則を無視して先にベットに潜って寝る準備をしていた。忠則の様に浮かれる事は出来なかった。
一昨日のヘディガ―に乗る練習で起こった事を思い出すと不安で一杯だった。目的地に着くどころかあかりと忠則と一緒に行動できるかもわからない。
静かになる気がしなかった忠則に蹴りを入れてから俺は目を閉じて寝た。
「では、採集2つと討伐の計3つの依頼で宜しいですね?」
「はい、お願いします」
北都市のギルドで依頼を受ける。ランクが上がり信用度が上がれば一人で何個も依頼を受けることが可能だが、通常ギルドで受けられる依頼は一人一つだ。
だが、採集や討伐等の依頼はチームを組み一人一つの依頼を受けると、チーム分の依頼量をギルドに持っていくことでチーム分の成功報酬が手に入る事が出来るのだ。
俺達は3種類の実質9つの依頼を受けてギルドをでる。
北都市のギルドは国の門の近くにあった。宿も門に近くを取ってあるので、この約一カ月はギルドの依頼のみに集中できるようにしている。
門の前に行くと警備兵が左右と中と外計4人立っていた。昼の間は常に開門状態で、人の出入りは激しい。大きな荷物や怪しい恰好をしている者のみ私物の点検をしており、他国の侵入者等の警戒度はまだ弱い。
俺達は警備兵に挨拶をすると気持ちのいい挨拶を返してくれた。
「じゃあ遂に初の国外の依頼を始めようじゃねぇか!」
忠則は北都市の大きな門を出た瞬間大きな声をあげて気合を入れた。その顔は興奮を隠し切れていなくニヤニヤしている。目を放したら直ぐにでも何処か勝手に走り出して行きそうだった。
簡単に言うとただ気持ち悪いだけな忠則を、俺は落ち着けと制止させる。
このまま歩いて目的地に行くには遠すぎる。往復で3日は掛かってしまうだろう、その為にヘディガ―を購入したと言うのに既に忠則は頭から抜けている様だった。
「お前は歩いて目的地に行くつもりか?」
「お? おお! 初めてこの世界の大地を踏みこんだ興奮ですっかり忘れてたぜ」
俺は流石にそれは忘れるなよと思うが、忠則の言葉は大げさでは無かった。水平線が見える様な草原に、先には怪しげな雰囲気を醸し出している深い森。更に遠くには大きな火山が挑戦を待っている様に堂々とそびえ立っている。
この世界はやはり日本とは違うと再確認させられる。忠則には落ち着けと言った俺も流石に身体の震えを隠せないでいる。
俺は湧き上がる好奇心と忠則の様に叫びたくなる興奮を飲み込み、落ち着こうと深呼吸する。気持ちを落ち着かせるのは容易ではないが、目的をしっかり考えて行動に移す。
そういえばあかりが先ほどから何の反応もしていない。ふと思い周りを見渡すと、目を丸くして口を大きく開け静止していた。驚いているのは分かるが……お前は女だろ、口を閉じろ。
興奮の収まらない忠則と、周りの見えていないあかりをこちら側に引き戻してヘディガ―の居る場所に向かう。
ヘディガ―の受け渡しの場所は、人のが通るこの門とは少し離れた門にある。人専用の門とは違い大きくしっかりしていた。ヘディガ―の通る門の方が正門と言っても良いだろう。
ヘディガ―も馬車の様な乗り物を引く事が可能で、商人や地位の高い人間はそれに乗ってくることが多い。
この国は人間とヘディガ―の住み分けがしっかり出来ているので門が別に作られており、更に別に作られている事によって、荷物の確認を取りやすく、密輸を防ぐことにもなっているようだ。
ヘディガ―の受け渡し場所に近づくと俺に気が付いたヘディガ―が既に興奮状態になりつつあった。
……歩いて目的地まで行きたい。
忠則とあかりは既に躾が出来つつあり、手を挙げるとヘディガ―は自然に頭を下げて、手を下すと主人を乗りやすい様に腰を下げる。あかりと忠則は頭を撫でて餌を与えていた。
あかりは動物は好きだし、大きな犬を飼っていると聞いた事がある、その為に躾は得意なのかもしれないが、何故忠則まで此処までしっかりヘディガ―は従っているのだろうか。
ヘディガ―の店主も驚いている程だった。店主曰く10日程度毎日一緒に過ごしてやっと懐いてくれたり躾出来たりするそうだ。
……そして店主は俺を見て更に驚いていた。
「痛い……」
忠則とあかりがヘディガ―に乗った時、俺はヘディガ―の頭部に乗りかかっていた。
俺も二人の様に手を挙げた時、全速力で走ってきたヘディガ―に腹で受け止め朝食べた物がリバースしそうな痛みと共に宙を舞い、綺麗にヘディガ―の頭にもたれかかる様に落下した。
俺を見ながら店主が、此処までヘディガ―が懐かないのは珍しいと呟いていたのは聞き間違いであって欲しい……。
左右に忠則とあかりが俺を監視するように見ている。スピードは速くもなく遅くもなくをキープしているが、一瞬でも気を逸らすと飛び出しそうな興奮状態だった。2時間程度で到着する予定だったが、その倍の時間は掛かる気がしてきた……。
ヘディガ―の乗り心地は良いわけではない、揺れているので長時間乗っていると尻が痺れてくるし、ヘディガーに乗り慣れていない俺達は精神的な疲労も大きい。
「太陽が丁度真上にあるわ、お昼だしそろそろ休憩しましょう」
あかりは直ぐにヘディガ―から降りて餌を与え横にさせる。忠則もお腹が減ってたい様であかりに同意し、直ぐにヘディガ―から降りて飯の用意をし始める。
ちょっと待て、何故そんなに簡単に降りる事が出来るんだ。そもそもヘディガーが停止してくれない。何とかヘディガ―を走らせない様にゆっくり二人の周りをグルグル回っている。
あかりと忠則は既に地面に座りくつろいでいる、俺も休みたいが降ろさせてくれない。ってか、笑ってないで助けてくれ……。
「さぁ早く飯食おうぜ、黒野は何やってるんだ?」
呪ってやる、今日の夜お前は確実に悪夢だ。俺はヘディガ―から上手く降りられず尻から落ちて強打した尻を抑えながらそう思った。
目的地に着いた時は予定より数時間程度遅れていた。俺がその原因なのは言うまでも無い。
目的地の場所は怪しげな森の近く、手前にある草の生い茂る林だ。雑木林の様なこの地帯は深い森と違い、太陽の光がしっかりと通って、小動物や綺麗な花が咲いている場所が所々に見える。
森の中に進むと狼の様な魔物やヘディガ―ですら太刀打ちできない生き物が生息しているので入ってはいけない。
森の中にある薬草や、討伐対象の生態はランクが高く報酬も高い。だがその危険性により依頼を受ける人達は多くない。
俺達は迂闊に森に入らない様にある程度の距離を取る為に、雑木林手前にヘディガ―を待機させる。俺は待機に数十分の格闘をしていた。その為あかりと忠則を先に採集に向かわせていた。
「黒野~遅いぞ!」
俺が何箇所かの打撲と、腹部に何度も突進される事によって内臓が滅茶苦茶にされている間に採集は終わっていたようだ。ギルドで現物を見せて貰っていたので簡単に見つける事が出来たようだ。
今回の採集物は薬草と香辛料だ。薬草と言ってもゲームの様に食べた瞬間にライフやHPなどのステータスが回復する事は無い。地球の様に計算が可能ではないので憶測の値になるので明確な答えは無いが、この世界の植物は地球と同じか又はそれ以上の種類が存在している可能性がある。
その為、この世界の薬草と香辛料は区別されている。薬草とは傷口に直接当てたり、すり潰した物を体に塗ったり、そのまま食べたりする物を指している。
また香辛料はそのままの意味だ。様々な味の元になっている、漢方薬の様な物も香辛料の一部として扱っている。薬草と香辛料の定義は国によっても異なるが大抵この定義で間違えではない。
「なぁ黒野、これって本当に香辛料か? 少し食ってみたが全然美味しくないぞ……」
「香辛料を直接食べて美味しいはずが無いだろ、さっき昼飯食ったばかりなのに食い意地張りすぎだ」
「さぁ後は討伐ね、名前はタブリブとか言う兎の様な生き物らしいけど、さっきから一度も見ていないわね」
採集依頼を達成した俺達はあかりの言葉と共に討伐依頼を達成するために意識を切り替える。討伐依頼は採集依頼の倍程度の報酬が手に入る。その分依頼の達成難易度は高く難しいとギルドで聞かされた。
俺達は捜索を開始した。まず討伐対象を見つけない事には何も始まらない。どう探せばいいか分からない俺達はまず一人一人別々に行動し、探し回る事にした。
雑木林の中は予想以上に進みにくく、一歩一歩慎重に進まないといけない。靴は高価な物を買ってあるし、出来るだけ頑丈で歩きやすい物を選んだつもりだが日本の良質な靴に比べるとやはり見劣りする。
足元と周囲を何度も確認して出来るだけ音を立てない様に歩こうとしても、枯葉や枝を踏んでしまい予想以上に音を出してしまう。
音を出すと様々な動物が警戒し逃げてしまう。この依頼は予想以上に難しいかもしれない……。
30分位だろうか、1時間位経過したかもしれない。腕時計や携帯が無いので正確な時間わからない、忠則に聞けば忠則の体内時計がある程度正確な時間を示してくれるが今は忠則は何処に居るのかも分からない、一応1時間くらいたったら採集ポイントに集合だった筈なので来た道を戻る事にした。
「見つからねぇ……」
「ねぇ見てこの子可愛くないかしら? リスの仲間だと思うの。丸々して、ちっちゃくて良いでしょ? 何食べるのかしら」
忠則は意気込みが強かった分全く見つける事が出来なかった事に落胆している様だ、それに反するようにあかりは何故が野生の小動物を既に手懐けており肩に乗せていた。
どうやって懐かせたのか聞くと、共鳴歌を歌っていたらやってきたそうだ。
……あかりの共鳴歌は使えるんじゃないか?
俺は一度二人に話を聞いてもらう為になんか無駄に考えようとして唸っている忠則を殴りあかりの目の前で大きく手をたたいた。
「痛いぜ、黒野、俺が真剣に考えてるって言うのによぉ」
「そうよ、びっくりしてリスっぽいあの子が逃げちゃったじゃない」
「忠則、お前が一人で考えた方法なんて98%失敗する自信が俺にはある。それにあかりはもう少し依頼について頑張ってくれ、お願いだ」
俺は何とか二人の意識を俺に向けさせて考えた作戦を説明する。作戦は簡単だ、あかりが一人で共鳴歌を歌い、歌に釣られた依頼対象を隠れていた俺と忠則が捕獲して討伐するだけの単純明快な作戦だ。
俺と忠則はあかりから数十メートル離れて待機する、忠則の方を見ると何故か沢山の枯葉と枯れ枝を集めて雑木林と一体化しようとしていた。隠れるってそこまでしなくても良いだろうと突っ込みを入れたかったが距離が離れていたので諦める。
俺と忠則が隠れて、世界の音が風に揺れる草木の音と小鳥や何処からか聞こえる動物の鳴き声だけになった時あかりは共鳴歌を始めた。
「――――――、――――――」
あかりの共鳴歌は既に何度も聞いているが、とても心地が良い。歌詞の内容や、意味は分からないのに心が癒され眠くなってくる。あかりの近くには既に先程の小動物や小鳥があかりの近くに寄り添っている。
10分程度経っても目標の獲物はやってこない、忠則の方を見ると目を閉じかけている。寝るつもりか?目を覚まさせたいがこの距離では無理だ……。
少しの間、忠則の方に注意を払っていると忠則の目が大きく開き動き出した。俺は驚いて直ぐにあかりの方へ視線を移す。
その先には討伐対象のタブリブがあかりの足元で丸まっていた。
あかりは歌う事に真剣でまだ気が付いていないし、気がついても捕獲できるか分からないだろう、長時間の共鳴歌は心の負担が大きい。歌いきった後のあかりは放心状態が数分続くのだ、その状態のあかりは何を言っても反応が薄い人形のようになるのだ。
俺と忠則は慎重に近づく、忠則は図体がデカイくせに動きは俊敏で静かだった。俺より速く静かに移動する忠則は遅いはずなのに残像が見える様な錯覚を覚える。
あかりが忠則と俺に気が付いた。力が抜けた様に歌を終えた。限界だったのだろう、静かにその場で座り動かなくなった。
まだ動物達は俺達には気が付いていない、何匹かはあかりの共鳴歌で寝ている動物もいる。
忠則は既に後10歩程度の距離まで近づいていた。俺は既に忠則に捕獲を任せていた。俺が無理に動くと動物達に見つかってしまうだろう。
その時、忠則が小鳥の一匹に見つかり飛び立った。忠則はその瞬間、あかりに衝突する勢いで飛び込んだ。
あかりの近くに居た動物達が一斉に逃げだした、忠則はあと一歩のところでタブリブを逃がした。だが、その対象は俺に向かって飛び出してきた。
「黒野そっちに行った!」
忠則が叫ぶ。そんな事は分かっている。確実に捕獲してやる!
俺は直ぐに捕獲する為に準備しておいた大きな網を手にする、ってか忠則はなぜ素手で捕まえようとしたのだろうか……。
俺はタイミングを見計らい網を投げる、俺に気付き驚いたタブリブは急いで方向転換しようとしたが遅かった。俺は既に網を放っており、逃げ切る事は出来なかった。
「っしゃあ! 捕獲成功!」
俺は自分でも驚くほどの声をあげて両腕を天高く上げる。ヘディガ―以外に、もう突撃されたくはない俺は、興奮した忠則が俺に飛び込んで抱きつこうとするのを上手く避ける。
網から抜け出せないタブリブが必死に動き回っている。その時俺はふと楽観視していた問題が頭をよぎった。
あかりがフラフラとこちらに寄ってくる、まだ心は癒えていないようだ。この感じだと今日はもう共鳴歌を歌うのは止めた方が良いだろう。
忠則は網に引っ掛かったタブリブを掴んで逃げ出さない様に袋に突っ込む。
「なぁ今回の依頼って、討伐だよな……」
「そうだぜ! 依頼達成だぜ!」
いや、まだ達成できていない……、依頼内容は対象の捕獲ではなく討伐だ。
――――この捕獲したタブリブをこの手で殺さないといけない。
タブリブの大きさは猫と同じくらいの大きさだ。耳が少し長く脚は短い、色は少し黒ずんだ茶色。目が赤くそこには涙が溜まっている様に見える。
小さくキュウキュとウと泣くこの命を俺達が終わらせる。
そして皮を剥いで肉と分ける、討伐後依頼主に渡すのは皮だけだ、タブリブの肉は食用になる。その日に飲食店にもって行きお金を払えば美味しいソテーや煮込み料理などにして貰えるのだ。
忠則はタブリブを捕獲したことに満足しており、その事に気が付いていないようだ。まだ興奮が収まっていないし、あかりもまだ何も考えられないようだ。視点が定まっていない。
……討伐依頼を受けたのは俺だったな。
「忠則、そのタブリブ俺に貸してくれ」
「お? 黒野も捕獲した優越感に浸りたいのか、逃がすなよ!」
捕まえたのは俺だ、と突っ込む余裕は無かった。皮を剥ぐ方法は聞いてはいなかったが、ギルドで指南書を借りていた。指南書を読んでみると眩暈がした。そこには俺の想像をはるかに超えた世界だった。
吐き出しそうになるが唾を飲み込み必死に耐える。これから此処に記されている行為を俺自身が行わないといけない。
「川辺に行こう、この近くにあったよな?」
「……黒野どうした? 顔色が悪いぞ」
「あぁ、大丈夫だ」
3人で雑木林から出て流れの緩やかな川辺に向かう。忠則は俺の方を何度も見ては心配する様な不思議そうな顔をしていた。
あかりはまだ心が癒えていない、俺らが歌を聞いていた時間は予想以上に長かったのかも知れなかった。俺と忠則の言葉を理解してただ黙々と俺についてきているだけだった。
川辺に到着し、タブリブを掴む。忠則が何かを察したようだ。
「おい、黒野……」
「ごめん……静かにしてくれ」
俺は静かに皮と肉を剥ぐ作業を開始した。
――――何かが泣いている。
――――何かが叫んでいる。
――――何かが呼んでいる。
意識が曖昧だった。夢の中に居る様な、現実なのか分からない感覚で朦朧としている、手は動いているし何かの作業をしている事は分かった。視界が赤い、とても赤く染まっている。生暖かい感触が手から離れない。何かを触っている。液体が身体に掛かる。
意識があるのか、無意識なのか分からない丁度その間の様な感覚の中、俺は今行っていた作業が終わった事を理解した。
やりきった達成感と終わった解放感と、胸から込み上げてくる嫌悪感の中、俺は意識を失った。
「黒野! 起きろ!」
頬にありえない衝撃を受けて首が90度曲がる。目が覚めた瞬間、永遠の眠りに着くかもしれない恐怖で飛び起きた。
俺が忠則に文句を言おうとした時、あかりが俺に飛びついてきた。女性に飛びつかれた経験の少ない俺は、あの女性特有の二つの膨らみが当たる感覚に赤面しながら慌てる。
赤面している事を誤魔化そうと何かを言おうとした時、二人の顔がとても心配していた事に気が付いた。
俺は意識が無くなる前の事を思い出す、音や匂い感触がまだ脳裏に焼き付いていた。込み上がる気持ち悪さが俺を襲う。
それを見た既に心が回復したあかりが心配そうに声を掛ける。
「大丈夫? もう少し休んだ方が良い?」
「大丈夫、あまり休んでる時間は無いよ、日が沈む前に帰らないと」
俺はあかりの肩に手を置いて安心させる。いきなり国の外で夜を明かすのは危険すぎる。まだ日が沈んで無いので、今から帰れば間に合うだろう。
討伐は一匹しか出来なかったが時間と精神的に無理だった。忠則とあかりが心配しているが、出来るだけ気丈に振る舞い、帰る事だけを考える。
「初めての討伐依頼なのにしっかり出来ましたね」
受付の人に声を掛けられた。話を聞くといきなり討伐依頼を行う人の半数以上は、生きたままギルドに持ってきたり、皮を剥ぐ事が出来ずに逃がしてしまう人が多いそうだ。
特にここ数日は依頼失敗者が続出していたそうだ、俺たちみたいな召喚された人達が捕獲に失敗したり、皮を剥ぐ事が出来なかったりしたのだろう。
この世界はゲームの様に倒したら勝手に肉や皮だけにならないのだ。この世界をゲームの様に甘く考えてはいけない。
この世界を回って冒険を続けるには、この程度の依頼を何度も行い、狩った動物を自分で調理し、食べなければ生きていけない。この程度で気持ちを落としてはいけないんだ。
俺達はギルドを出て飲食店に向かう。3人ともお通夜の様な暗い雰囲気だったが、やらないといけない事がある。
「店主、この肉を調理してください」
俺が血抜きをし、手に入れた肉とお金を店主に渡す、店主は快く受け取ってくれた。
席に着き、誰も会話しない状態が続き数十分後、他のメニューと一緒に肉が運ばれてきた。俺はそれを3人分に分ける。
「……さぁ食べよう、頂きます」
俺は静かに美味しそうに焼かれた肉を口に含む。正直食欲は無かったが、無理やり食べる、俺はこの肉を食べなければいけないから……。
俺はタブリブの肉を食べながら泣いた、あかりも静かに泣きながら食事をしていた。忠則も静かに肉を食べている。
皆、食べきった後、御馳走様と静かに長い間頭を下げていた。俺は食事に対する意識が変わる事になった今日、様々な生き物に感謝した。
「明日も討伐依頼を受けよう」
此処で諦めたら冒険はできない、俺は何度目か分からない新たな決意をし、二人に告げる、あかりも忠則も静かに頷く。
こうして初めての国を出たギルドの依頼を受けた一日は終わった。