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In The Fantasynovel  作者: kurora
第一章
18/20

16話 牧場

 久しぶりにサークルメンバー5人で朝食を食べる。あかりと咲子は夜遅くまで喋っていたのか、起きるのが遅かったので昼飯も兼ねて食べる事になった。

 時間が時間の為、飯屋は空いていた。忠則は朝昼の2食分の量を食べようと肉中心のメニューをから大量注文していた。完全に2食分以上の料理が忠則の周りだけに並べられる。

 他のメンバーも通常の朝食より少しボリュームのある物を頼んだが、忠則の料理を目の前にすると皆、自分の量が間違っているのではないか錯覚しそうになって追加しそうになったが、食べ終わった後止めて良かったと安心する。昨日と同様に話は尽きない。日本に住んでいた時の話から、召喚された後の話。

 お互いの情報交換と笑い話や辛かった話、様々な事を包み隠さず話し合った。食事が終わったのは結局昼前くらいになり他の客が来る前に店から出る事になった。


「では先輩方、これから私と咲子はこの国を出る準備を始めますのでまた宿で会いましょう」

「ねぇ? 何であんたが決めてんのよ! 私は先輩達と一緒に行くからあんた一人で準備しといてよ」

「あんたとは私の事を指しているのか? 妹よ、私の事はお兄ちゃんと呼べと何度言えば分かるのだ?」

「気持ち悪い。黙ってさっさと一人で私の荷物も揃えて来なさいよ」

「そうか、そこまで言うか。ならばこちらも強硬手段に出るぞ、今日の晩、お前の荷物の中の服装が全てこの世界のメイド服に変わっているからな、覚悟するが良い」

「ちょっと! 何考えてるの? 馬鹿じゃない? あんた本当に変態ね」


 直人は咲子と口喧嘩を始めながらも、また宿で落ち合おうと約束して別れた。最後まで咲子の怒鳴り声が遠くから聞こえた為、俺と忠則とあかり、三人で笑いあった。

 佐藤兄妹がこの国を出る為の準備をしている中、俺達は牧場を訪れていた。この世界の牧場は地球のものと似ている。何種類かの鳥や牛、豚のような生き物を家畜として扱っており、更に馬の代わりであるヘディガーも何十匹も取り扱っていた。

 ヘディガ―の値段は様々だ、年齢、性別、性格、体調など様々な条件で値段は変動する。平均は銀貨15枚。日本円で表すと15万円程度だ。

 家畜として飼われているがヘディガ―は肉食だ、基本的に人間を食べる事は無いが、狂犬病に似た病気に掛かる事もあったり、いたずらで攻撃を加えると襲われる事もある。

 その為ヘディガ―は国の中で放置する事は出来ない。この牧場の様な場所で預かってもらわないといけない為、色々とお金が掛かる物なのだ。

 牧場にもギルドが存在する。ギルドを通じて提携した牧場同士の中でレンタルが可能なのだ。

 レンタルの場合は盗難防止の為前払いでヘディガ―一頭分の値段を払い証明書を作成してもらい、提携した牧場に証明書を提出した際、レンタル代を差し引いた値段が帰ってくると言う形式になっている。

 俺は最初、レンタルの方が良いと思った時もあったが、旅は何時まで続くか分からない、短くても1年、もしかしたらこの世界で一生を終えるかもしれないのだ……。

 あまりそういう考えを持ちたくなかったが、この世界に召喚された理由が分からない以上、その可能性も十分にある。それなら毎回国から国へ向かう時レンタルするより購入した方が安いし、ヘディガ―は主人に忠実な動物で信頼関係も築きやすい。

 俺達は牧場を経営している主人にヘディガ―の購入したい事を説明し牧場の中に入る。


「あんた達良かったねぇ、この国はもうすぐ戦争が始まるからヘディガーの注文が多いんだよ、でもまだ予約が数件入ってるだけでね、ヘディガ―の数は沢山いる。予約の人はまだヘディガ―を決めていないし何選んでも大丈夫だよ」


 牧場の主人の言う通り、成人したヘディガ―だけでも100匹位いる様だ。俺達は初めて本物のヘディガ―と対面した。やはり文字を見てイメージ出来る物以上の迫力だった。聞いていた犬と虎の中間と言うのは少し違う様な気もするし、あっている様な気もする。

 この世界にしかいない動物を地球の動物で例えるのは難しい様だ、乗る事が出来る様な生き物なので、背中の骨と筋肉が発達しており犬や虎よりしっかりしているし、前歯は牙だが奥歯が草食動物の様に平らに出来ており、うまく噛み合う様にしっかりしている。

 人が乗っても体重をコントロール出来る様になっているのは歯と顎がしっかりしているからだろう。脚の骨も太く、ライオンの様な脚をしている。

 赤茶色の毛並みは狼の様にもふもふしており、何時までも触っていたい位だ。人を襲わないので餌を毎日同じ時間に与えていれば大人しく可愛い動物なのだ。

 ヘディガ―の食事は精肉店で余った肉を加工したものだ。食用にならない部分をミンチにして固めたドッグフードの様な物だ。他にも保存のきく干し肉の様な物もある。肉なら大抵の物を食べられるので、旅の途中も信頼関係を気付く事の出来たヘディガ―なら一緒に野生の動物を狩って食料にする事も出来る。

 俺達は何匹ものヘディガ―を見て触れて自分が懐くかどうか、一緒に旅を出来るかを確認する。忠則は強いと言う事が分かるのか、大抵のヘディガ―は大人しくなる。あかりも気に入られるヘディガ―何匹が見つかって楽しそうにじゃれ合っていた。


「何故だ、こんな筈じゃなかったのに!」


 あかりと忠則が順調にヘディガ―を選んでいる時、俺はヘディガ―達に追いかけまわされていた。取って食おうとしている訳じゃないので良いのだが、確実におもちゃだと思われている様だった……。

 ただの犬や猫なら問題ないが、ヘディガ―は自分の体重の何倍もある。突撃されたら軽く数メートルはぶっ飛ぶのだ。既に何度かぶっ飛ばされて息をするのも苦しい。忠則とあかりは俺を見て笑っているが冗談じゃない、運が悪ければ骨が何本か折れてるはずだ。

 それにしてもヘディガ―の無邪気な顔が憎い、何だ?どんだけ嬉しそうなんだよ、尻尾振るな、こっちくんな!止めてくれマジでおい!

 俺はそれから永遠にも感じる地獄を味わい、俺が動かなくなったのを見つけ出した忠則がヘディガ―達を押しのけて俺を引きずり、あかりが共鳴歌を歌い何とか意識を取り戻した。心に大きな傷を負いながらも俺は今までと違うヘディガ―の方へ向かう。

 今度は自分自身でも分かる程、警戒心丸出しで近づいていく、周りから見たら確実に怪しい男にしか見えない近付き方だ。俺はヘディガ―と目を合わせる。俺は先ほどの悪夢がよみがえり体を硬直させる。

 何とか逃げないでヘディガ―と対面する。だが今回のヘディガ―は俺に無関心だった。更に恐る恐る近付いたが今までの様に襲われる事は一切無かったが全く相手にされない。


「何故だ? 何故俺は最初にあんなに襲われたんだ?」

「さっき聞いたけど、あの襲ってきたのは雄だったらしいぞ」

「雄?」

「黒野からヘディガ―の雌みたいな匂いがしたんじゃない? なんか黒野ってひ弱だし」


 あかりの言葉が胸に突き刺さる。俺はそこまで貧弱じゃない……。そう、俺は日本の体力測定で平均より少し上なんだ。隣に忠則がいなければ俺は普通なんだよ。

 三人ともヘディガ―を選び終わった時には忠則とあかりは俺を見て腹を抱えながら笑いつかれていた。結局俺は無関心の方のヘディガ―には相手にされず、必死に抵抗しながら一番攻撃の少なく俺の言う事を聞いてくれるヘディガ―を探しだしたのだった。


「あ~腹痛いわ。どれだけ雄に好かれているんだ。黒野最後唾液まみれだったな」

「そうね、モテモテだったわね」

「うるさい……」

「あかり先輩と忠則先輩、そろそろ黒野先輩可哀そうですよ」


 牧場から戻って宿の近くの酒場で咲子と直人と合流していた。あかりと忠則は今日の俺の出来事を笑い話にして腹を抱えて笑っている。何処まで人を馬鹿にする気だこいつ等。

 咲子と直人も俺のフォローをしてくれるが確実に笑いをこらえている、何て屈辱的な火だ今日は……。

 俺は二人を無視して兄妹に話を振る。


「今日の買い物はどうだった? 良い買い物出来たか?」

「実はまだ半分位なんです。あの馬鹿が私に変な服押し付けようとするから余計な時間が掛かっちゃって」

「咲子、何故私の名前を呼ばない、せめて私が兄であることが分かる呼び方をしたらどうだ。直人お兄ちゃんでも直人お兄様でも、直人兄ぃ、妥協して兄貴でもかまわないぞ」

「横から口出すな馬鹿、あんたは黙ってれば良いの。私の邪魔しかする事が無いの?」

「邪魔とは何だ、兄が兄である限りお前は私の妹だ。兄は常に妹のそばにいなければいけないのだ」

「変な思想を私に押し付けるって頭どうにかしてるんじゃないの!」


 佐藤兄妹は結局喧嘩を始めた。あかりと忠則を見るとまだ俺をネタにして笑っている。俺は結局皆とまともに会話が出来ず一日を終える事になったのだった。




 朝起きると枕が濡れていた。これは涙なんかじゃない、決して涙なんかじゃない。汗だ、そう汗なんだ。そうに決まっている、何も悲しかった事なんて俺には無い。

 今日は一日ヘディガ―を乗りこなす練習を行う予定だ。俺は俺の中で昨日の記憶を無理やり改変した。あれは昨日の夜見た夢だ、そう夢に違いないんだ。


「ぁぁぁぁああああああ!!!!!」


 そして再び夢が現実になる。ヘディガ―の時速は馬を超える。時速70キロで、時速最高速度は80キロを超える物もいる。そしてバイクや馬などに乗った事の無い人間がいきなり直接そのスピードを味わうとどうなるのか?


――――結論。 死を垣間見る事が出来る。


 俺はジェットコースターなどの絶叫マシンは人類が作った最もいらない物だと思っている。あんな物この世に存在する必要など無いのだ。

 だが今はそんな事を考えているべきじゃない、この現状をどうにかしないと。今俺は草原をただひたすら走り続けるこの興奮したヘディガ―を如何にかしなければいけない。俺は必至で縄を放さない様に全力で掴むだけで精一杯の状態だ。


 まず声を掛けてみる。  ――反応なし。

 蹴ってみる。      ――更に早くなった。

 手を放してみる。    ――吹き飛んだ。


 もう帰りたい、お家に帰りたい。なんだよこれ。

 吹き飛ばされた後、Uターンして突撃してくるヘディガ―。わざわざ頭を下げてみぞおちを狙って来る。尻尾を振りながら興奮して突撃する顔はとても笑顔だ。こいつの笑顔は悪意の表れなのか?

 何とか腹部を守り腕がミシミシと言いながら吹き飛ぶ。もう全身が痛すぎて何もできない。突撃するのに満足したヘディガ―は俺をただひたすら舐めてくる。顔が涎だらけになる俺。それを見て呼吸困難になる忠則とあかり……。

 笑いすぎて共鳴歌が歌えないあかりの前で横たわる俺はこの世界に来て一番の屈辱だった。息を整えて俺の顔を見て再度笑いだすあかりはたとえ仲間であろうと許さないと誓った。

 一日は意外と速く過ぎてしまう。俺は一向にヘディガ―を乗りこなせていなかったが、既に忠則とあかりは草原を颯爽と駆け抜けていた。

 ヘディガ―は俺の言う事を聞いてくれるが何もかも行動が激しすぎる。それと俺が何も指示しないと直ぐに興奮してしまうのだ。牧場の主人に効いても俺の様なケースは初めてで対処不可能らしい。

 結局俺は一日であかりに共鳴歌を4度行ってもらい、二人の声が枯れるまで笑われ続ける事になった。


「ヘディガ―いらない、やっぱり旅は自らの足で歩くのが一番じゃないか?」

「……っ……っもう、止めて……」

「っはぁ……っはぁ俺を殺すつもりかっ……っはあはぁ」


 牧場からの帰る途中、二人は過呼吸を起こしていた。身も心もボロボロと言うのはこの事だろう。静かに夕日を見上げると空が滲んで見えた。




「準備が出来ました」


 共鳴歌で何度か回復したものの心がボロボロの俺は夕食の集まりで直人の言葉を聞く。俺達と同じくらいのリュックにまとめた物が二つ用意されていた。直人の真剣な声にガラガラ声で笑い疲れたあかりと直人も気持ちを入れ替えて聞く。


「戦争がもうすぐ始まるこの国は今、様々な所から商人が行き来しています、戦争が始まる前に早く別の国に行かないと職を手に入れるのが困難になると思います」

「そうか、じゃあ行く国はもう決めてあるんだ。向かう国はデリルにして欲しい、まだ先だがデリルで大会が開催されるのは知っているだろう? 俺達は大会が始まるまでにギルドの依頼を受け訓練を積んで大会に参加したいと思うんだ」

「デリルの大会って……あの剣士ライオルの初舞台じゃないですか!」


 そう、デリルはライオルが初めて向かう国。俺達も読者として良く知っている国だ。このリーディアより国の規模は小さいが、明るく活気のある街で様々な旅人達が訪れる国。

 そこにある大会、デリル闘技大会は武器の使用は一切認められない拳だけの勝負。所謂総合格闘技だ。この大会でライオルは優勝し一気に知名度を得るのだ。


「この大会で忠則にライオルを倒してもらい優勝を目指す」

「やべぇなそれ、最高じゃねぇか……」


 忠則は俺の言葉に武者震いをする、一瞬目の中に炎が見えた。この世界の歴史は変える事が可能だ。それは忠則が孤児院の子供達を助けたことで証明された。俺達の力がこの世界でどれ位通用するのか試すには丁度良かった。

 この大会でたとえ優勝できなくても自分達がどれだけの力があるのかを目に見えて実感できる。優勝できれば俺達は旅を続ける事が出来る証明になるし、自信に繋がる。

 確実にこのイベントは参加しないといけない。そしてこのイベントまでに実力をつけなくてはならない。


「多分デリルに到着するのは大会ギリギリになると思うんだ。だから咲子と直人は先にデリルに行って、大会と参加者の情報を集めておいて欲しい」

「分かりました。必ず集めておきます」


 こうして直人と咲子は次の日の早朝。俺達と別れを告げる事になった。

 俺だけかもしれないが大量の問題がある。だがこの世界を生き抜き冒険者になる為の道がやっと見えてきたのだった。


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