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In The Fantasynovel  作者: kurora
第一章
17/20

15話 兄妹

「もう死ね。何でこっち来る訳?」

「兄が妹に近づいて何が悪い、兄としての当然の権利だ」

「あんたは兄でもなければ人間でもないわよ」

「いつも思うが何で咲子は兄に対してそこまでツンを貫くのだ。たまにデレを見せないと妹としての価値が下がる一方だぞ」


 遠くから声が聞こえる。久しぶりの様な懐かしい様な気分だ。この数日間で様々な事がありすぎて日にち以上の時が経過している様に思えて仕方が無い。この騒がしい口喧嘩の罵倒の繰り返しも全く苦にならない。むしろ心地よく聞こえてしまうのは日本で毎週聞き続けていたからだろうか。

 当たり前だが声は近付けば近付くほど大きくなる。喧嘩が始まると周りが見えなくなるのは何時もの事だ。俺達は結局気が付かれる事無く至近距離まで近づいた。


「なぁそろそろ喧嘩を止めて俺達に気が付いてくれないかな?」

「何よ、今忙しいの、邪魔しないで……ぇ? 先輩!!」

「先輩だと!!……これは夢なのか?」


 佐藤兄はまだこの状況が理解できないようだ。佐藤妹、咲子は泣きながらあかりの方に飛びつき抱き合っていた。あかりは咲子の前だと言葉は悪いが優しいお姉さんを演じるのだ。頭を撫でて優しい言葉をかけている。


「咲子ちゃん良く頑張ったわね、もう私達が来たから安心して良いわよ」

「良かった、教会に先輩たちがいなかったから、此処には来ていないのかとずっと思ってました」


 咲子はあかりに任せれば大丈夫だろう、咲子はあかりに絶対の信頼を置いているのだ。それが何故かは分からないがとても仲が良いのは見ていればわかる。

 俺と忠則は佐藤兄、直人の場所に向かう、直人はまだ俺達の事をしっかり認識していないようだ、目をこすって幻覚かどうかを確かめている。


「すみません黒野先輩、俺の頬を抓ってくれないですか?」

「何で黒野なんだ? 俺がやってやるぞ?」

「止めてください、頬が千切れます」


 俺は直人の頬を抓ってやる。小さな声で痛いと呟いて、俺達がいるのをやっと実感したようだった。直人は咲子と違い感情的ではないが何処かずれていると言うか可笑しい。さらにオタクだ。直人の驚いた表情は笑みに変わり目が少し潤んでいた、やはり自分達と違い、一人で妹を守りながらこの世界を生き抜くのは辛かったのだろう。

 忠則は直人の頭に手を起き良く頑張ったぜと先輩風を吹かしていた。

 俺達と佐藤兄妹はこうして俺達は遂に再会を果たしたのだった。




 少し日にちを遡り俺達は宿屋に居た。師匠の魔法を見た次の日で俺は忠則とあかりにものすごく心配されていた。心配のされ方が重症患者の様で自分自身身体のどこかが悪いのではないかと錯覚する位だった。

 俺は昨日起きた事が気になってはいたが、既に上の空から戻っていた。朝起きて昨日のオムライスに対する冒涜を恥じて思いっきり自分の頬を殴ってスッキリしていたのだ。


「なぁもう大丈夫だから心配するな、もう大丈夫だからさ」

「だけどさっきの頬の腫れは? 何かあったんじゃないの?」


 朝食を食べているとあかりに以上に心配された、顔を合わせた瞬間に声をあげて俺を引き止めて人目も気にせずその場で共鳴歌を歌い出すと言う大胆な行動をやってのけたのだ。

 忠則も忠則で朝食を俺に分けようとするなんて、季節の変わる事の無い国に雪を降らすつもりなのかと思った。俺は朝食時から昼食にかけて部屋で自分が正常なのを必死で訴えて何とか二人の理解を得る事に成功した。まだあかりは心配するそぶりを見せるが気にしない事にした。


「時間が少し押したが、そろそろ出発しよう」


 今日は佐藤兄妹に再開する為に今いる東都市から北都市に向かう。俺達は荷物を全て持ち徒歩で行く、今回は身体を鍛える訓練でもあるのだ。徒歩で北都市に向かうと3日は掛かるだろう。

 歩き続けるのは簡単に見えて結構難しい事だ。俺とあかりは忠則の様に毎日身体を鍛えていない、翌日には直ぐに筋肉痛となってあるくのが困難になるのは目に見えて分かる。

 だが、これからは旅を続けるとなると沢山歩いて沢山走る場面が多くなるはず、山道や洞窟などヘディガ―が通る事の出来ない所は全て自分の足で進まないといけない。

 俺達は皆自分の持ち物を持って歩いていく、忠則が全て持とうかと聞いてきたが、忠則は既にでかい長剣を肩に下げているし、自分で持たなければ体力作りにならないので断る。

 荷物には水筒に飲み水を入れているので道具を揃えた時より重くなっている。だがやはりあかりの方が重いだろう、俺より大きめなリュックを背負い中身の俺より沢山は行っているようだ、女性だから俺達より道具が多いのは分かるがこのままのペースで歩いて大丈夫なのか心配になってくる。


「あかり、荷物重そうだが大丈夫か? 良かったら荷物の中の物少し持ってやろうか?」

「大丈夫よ、リュックの中身はほとんど黒野と変わらないわ、ただ面白そうな本があったからつい買ってしまったの」


 あかりはリュックの中から大きな本を取りだして楽しそうに自慢してくる。


「良いでしょ?」

「なぁ、もしかしてその本旅にずっと持ち歩いていくつもりなのか?」

「当り前じゃない、私は本が無いと生きていけないの、それにこの国の文字を覚える訓練にもなるのよ、知ってた? この世界の文字って自分の意識を変えるだけで読めたはずの言葉が意味のわからないこの世界の文字に切り替わるのよ」

「どういう事だ?」


 あかりは共鳴歌を学んだ時の事を含めて文字と言葉に対する事を話してくれた。共鳴歌はこの国の言葉で音楽に合わせて歌う為、言語翻訳魔法が機能しないそうだ。

 その為言葉を一から学ばないといけないと言う事だった。あかりは歌いたくても歌えないのが辛く、その気持ちを全て勉強にぶつけている様だった。

 あかりの言葉の学習力はすごかった、あかりは速読術を学んでいるので小説の読むスピードは速い。今回の小説も既に何度も読んでいる様だった。あかりが言うこの世界の言葉の勉強方法は一度日本語として本を読み、意味を理解してこの世界の言葉で読む。それを何度も繰り返して読めない言葉を少しずつ減らしていくという方法だった。

 本当は危険で止めたかったが、あかりの熱意に負けて歩いている間も本を読んでいても何も言わなかった。自分と忠則であかりが危険にならない様に守りながら歩いた。

 夜遅くまで歩く事はしなかった。日が沈むころには地図から宿屋を探し早めに寝る。夜行動するより朝行動した方が安全だからだ、忠則曰くこの国はあまり治安は良くないそうだ、やはり何度も戦争を行っている国は孤児の数が多いのだろう。

 こうして俺達は筋肉痛などの痛みに耐えて予定より1日多く掛かったが4日歩き続けてリーディアの北都市に到着したのだった。




 直人との再会を果たしてお互いの安否を確認し合ってから直人は口を開いた。


「先輩達は何処で何時召喚されたんですか?」


 直人の質問は最もだろう、今までこの世界に居ないと思っていた俺達が数日後いきなり現れたのだ。それも俺達は此処に直人と咲子がいる事を知っているとすれば尚更だ。

 俺は直人に今までの経緯を出来るだけ詳しく説明する。直人は忠則と違い話をちゃんと聞いてくれる良い後輩だ。まぁ俺の一番の友達が忠則だってことが原因なのかも知れない、忠則と一緒に居るとただまともに会話が成立するだけで嬉しい時があるのだ。

 説明が終わると直人は驚いていた、多分自分が知らない事をこの場で色々知ったからだろう、確かに直人一人だと情報収集など出来ないだろう。

 直人は妹と何時も口喧嘩をしているがとても妹思いの兄だ。本当にお互いが嫌っていれば毎日何時も一緒に何時はずが無い。妹の咲子も鬱も暴言を吐いているが心のどこかで信頼をしているだろう、直人いわく一向にデレる様子の無いツンデレ妹だそうだ。

 俺は今までの事を話し終えて直人が状況の整理を終えるのを待ってから質問をする。


「直人と咲子は今までどうやってこの世界で生きてきたんだ?」


 直人は俺の質問にゆっくりと口を開いた。直人と咲子の召喚はほとんど同時だったらしい、直人の家にはパソコンが一台しか無いので取り合いになっていたらしい、いつもの様に咲子が強引にパソコンを奪い取って先に小説を読もうしていたのだが、目を放すと咲子が居なくなっていたらしい。

 だがその事に少し違和感を感じただけで可笑しいとは思わなかったそうだ、そして直人は咲子がいなくなったのでパソコンで小説を読もうとしたらこの世界に召喚されたそうだ。

 召喚された場所は俺達と同じ様に教会で、直人以外にも沢山の召喚された者達が痛そうだ。直人はすぐに咲子を見つけて、教会をでて所構わず店に入り兄妹二人が出来る仕事が無いか回ったそうだ。

 言葉は通じたし文字も読めるので、すぐ行動した事が良かったらしく十何件かの店を周って給料なしの食事つきの住み込みで仕事を得る事が出来た。

 それからは仕事が忙しく、二人は喧嘩もする事無くただひたすらこの世界で生きていく為に頑張っていたそうだ。


「ですが、数日暮らせるお金を貰って先日店を追い出されてしまいまして……」

「なんだ兄妹喧嘩が原因か?」

「いえ、仕事が忙しかったし私にも色々やる事があったので妹とはあまり話せなかったんです、理由は戦争が原因です……」


 直人の働いていた飲食店はもうこの国から出ていくそうだ、戦争によって息子を亡くした夫婦が経営していたそうで、もうこの国に住む事は出来ないと言う事だった。


「この国って最初の主人公がいた国ですよね? ですので私と咲子でギルドに行ってお金を貯めて商人に金を払い別の国まで同行させてもらおうと思っていた所だったんです」

「そうだったのか、俺達は此処でヘディガーを買って、この国で少しの間訓練を積んでから別の国に行こうと思っていたのだが、直人はどうしたい?」


 俺は直人にあえて聞いた、直人の様子が少し違ったからだ。何時もならすぐにでも一緒に行くと向こうから言って来る筈なのだ。


「今までの先輩達の話を聞いていると先輩達はこの世界を旅しようとしているんですよね?」

「あぁ俺達はこの世界を旅して冒険するつもりだ。俺達が何故この世界に召喚されたか理由を探しだしたい。俺は魔法使いに、忠則は剣士に、あかりは共鳴歌手になるつもりだ」

「それなら私と咲子は一緒に行動できません。咲子はまだ私と先輩達と違って大学生では無い女子高生です、この世界に来てから毎日が大変でした。私は男だから大丈夫なのですが、あかりは本当に必死でした。これ以上私は咲子を辛くさせたくないのです」


 直人の意志は強い、俺の言葉で曲げる事はないだろう。直人の妹に対する思いは強固なものだ、日本であれだけ毎日喧嘩していても妹の目を放した事が無かった。妹もあれだけ口では罵倒を繰り返しているが、高校も同じだったし大学も兄と同じ所を目指している。

 メンバーが集まる時、咲子も咲子自身は否定するが兄がいないとテンションが低い。あかりが咲子を誘っても兄の方に付いていくだろう。


「そうか、一緒に旅をしたかったがそれなら仕方ないな。じゃあ向かうは国は決まっているか? 決まっていなければこちらで指定したいんだが良いかな?」

「大丈夫です、まだ資金が溜まっていないので行先は決まって無いですよ」

「じゃあ、明日にも出発の準備をしろ」


 忠則は銀貨を二十枚程度直人に渡した。お金の管理は俺が行いたかったが、大金を手に入れる事が出来たのは忠則のおかげなので、金の管理は任せている。今回、直人の使い方は納得だ、たまに目を放すと何かを食べている時は殴りたくなったが。


「なんですか、この金額は!」

「俺が稼いだ金だぜ! すげぇだろう!」


 俺は忠則が大金を手に入れた経緯を直人に話してからしっかりと銀貨を握らせる。


「準備は出来るだけしっかりしておいた方が良いからな」

「先輩、ありがとうございます!」

「お礼なんていらないさ、ところで日が落ちてくる頃だからそろそろ宿を探したいんだ、良い場所は無いか?」

「それならまだ私と咲子が泊まっている宿に空きがあるはずです」


 俺と忠則と直人はあかりと咲子を読んで宿に移動した。宿は安い割に悪く無かった。いつも同じ部屋で寝ていた佐藤兄妹も女部屋と男部屋に分かれる事にした。


「そういえば、黒野先輩は魔法使えるようになったんですか? 見せてください」

「あぁそういえばやっと出来る様になったんだよな、まだ俺も見てないぞ? 見せろよ」


 俺は直人と忠則に魔法を使ってみろと催促させられる。そう、魔法が使えるようになったのだ、使えるようになったのだが……。


「見せても良いが、期待するなよ」


 俺は紙の上に魔法陣を描く、既に何百何千と描いているので魔法陣を書くだけなら早い。魔法陣に手を起き魔力を込める。ゆっくりと一定の魔力を注ぐ、そうゆっくりと慎重に。とても慎重に……。


「なぁ、遅くないか?」

「うるさい静かにしろ。集中力が切れる」

「だがもう10分は経過してるぞ……」


 そう俺は魔法陣に魔力を注ぐのにスゴイ時間がかかる。まだ魔法を発動するのに15分以上掛るのだ。忠則は時々俺に話しかけて集中を乱してくるが直人は静かに見ていてくれている。

 俺は20分かけて遂に魔法陣全体に魔力を注いだ。集中力を持続するのはとても辛いが何とか成功させる。


「行けぇええ!」


 俺は魔力に命令をする。魔力は一瞬光り輝き魔法が発動される。


「…………なぁ、黒野って魔法使いの才能無いのか?」

「忠則先輩! 何言ってるんですか、まだこの世界に召喚されて日にちはあまり経ってません。これから伸びるんですよ」


 忠則の直球も直人がフォローを入れてくれるがそれも悲しい。そう、俺は20分もの時間をかけて使用できる魔法はマッチ程度の火を発動させる程度なのだ……。


「すまん、魔法発動させると頭痛くなるんだ、俺は先に寝るよ」

「あ、あぁそうかしっかり寝ろよ」

「黒野先輩おやすみなさい」


 俺は二人の哀れんだ目を背中に感じながら俺はベッドで先に寝るのだった……。


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