プロローグ
――――勇者とは何か?
それは最も勇気のある誰にも負けない心と力のある者。
何事にも恐れないその勇敢で勇猛な戦士は全ての子供達の憧れだった。
ある時は一人の為に幾多の魔物と戦い、ある時は様々な国の為に人間の支配を企む魔王を倒す。
様々な世界で勇者は人々を守っていた。
――――The earth without the end
そしてその世界でも一人の勇者の資格のある男が現れた。
だが男には守るべき人々、倒すべき敵がいなかった。世界は平和だったのだ。
それでも勇者になる為に魔物の被害を防ごうと世界をめぐった。だがそれは無残な結果に終わる。
村人は男を歓迎しなかった。村人達にとって魔物以上に強大で恐怖の対象にしかならなかったのだ。
……勇者という存在が恐れられてしまうのだ。
子供や村を守るために様々な魔物を倒し悪巧みを企む者を粛清した。
だが村人達が与えたのは男に対する薄っぺらな感謝と恐怖の感情だった。
男の力は強大すぎたのだ。村人の大人達が何人も集まってやっとの思いで倒す事の出来る魔物を剣の一振りで倒してしまうほどの力を持っていたのだ。
村人達にはそれが魔物以上の障害が現れたようにしか見えなかったのだ。
村人の感情を読み取った男は悲しみ苦しんだがそれでも諦めなかった。
様々な国を訪れ沢山の人達を助けようとした。だがどの場所にも勇者の存在は求められていなかった。男の戦う姿は見る者を恐怖に陥れるほどの強さだったのだ。
ついに男は救済する村や国が無くなってしまった。
その時男には感謝される者や共に戦う仲間は一人もいなかった。
男は孤独だった。まだ誰かに感謝されれば救いはあったのかもしれない、だが勇者は誰一人心から感謝の言葉を贈られる事はなかった。
少しずつ勇者の強靭な心は壊れていった。自分は何のためにこの世界に来たのだろう、何故この世界に私を迎え入れたのだろう、勇者は悩み苦しみそして絶望していった。
勇者は世界を守る事を止め、世界を見て回ることを決めた。力を発揮する事はなく、傍観者として世界をただ見続けた。
だが仲間や分かり合える友のいない男は孤独により心を少しずつ削り続ける。
遂に心は勇者としての資格を失い大きな穴が開いた。
その時男は思いついたのだ、この平和すぎる世界が間違っているのだと。
世界に新しい風を吹き込もう、世界を作りかえるのも私の使命だと。
心の壊れた男は準備を始める。新しい世界を作り上げるために。
――――そして世界は色を少しだけ変えながらゆっくりと物語は動き出していくのだった。