史上最強勇者御一行様(パートのおばちゃん)
17時。終業のチャイムが鳴り、席を立つ。
同時に背後からカカカカッとパンプスの音が近づいてきた。
「お疲れ様!ねえ聖さん。今日ね、彼氏のお誕生日で早く帰ってお祝いしたいの。だからコレお願〜い!」
同期の堺桃子。
体をくねらせながらのおねだりポーズ。背後にスタンドが見える角度で、全く手をつけていない書類を渡してきた。
「この前今回だけって言いましたよね?無理です」
キッパリとお断りする。
「え〜お願〜い!今回だけだから、今回で終わりにするから〜」
スタンドの首も変な角度に曲がっている幻影。
毎回この調子で色んな人に自分の仕事を回して断られていると聞く。
「いい加減にしてくれます?とにかく私は無理ですから」
私に断れると思っていなかったようで、顔を真っ赤にしふるふると震える堺桃子。
「お疲れ様でした」
終了の挨拶をし、フロアの出口に向かう。
廊下に出ると、いつも良くしてくれるパートさんたちも帰るようだった。
「お疲れ様でした〜」「おつかれさま!」「おつかれさまです」
お互いに声を掛け、階段を降りようとしたその時。
「やってくれてもいいじゃないっ!何よ!偉そうに!」
叫ぶ桃子の声に振り向くと、肩に衝撃を受けた。桃子に突き飛ばされ、バランスを失った私の体が宙を舞う。
その瞬間。眩いばかりの光の塊が現れて…
パートのおばちゃんたちが消えた。
「そっちっ?!」
尻もちをついた私は思わず呆然とした。
。。。
「うーん…」「あいたたた…」「大丈夫ですか?」「着地成功した!」
キョロキョロと周りを見回し、状況を理解しようとするおばちゃんたち。
「ここどこかしら?」「何処かの神殿みたいですね」「なんで神殿?」「え?うちら死んだの?」「パートの帰りに?社内で?みんなで?」「もしかして異世界転移とか?」
「みんな待って!まず携帯繋がるか確認!」
ゴソゴソとカバンの中を漁り、それぞれが携帯を確認する。
「あーだめ、圏外だわー」「あ!ママゾンのお届け日、今日だったわ!」「あらー…でも置き配でしょ?大丈夫よ」「それがさー最近うちの周り泥棒がいるらしくてー」「じゃあ心配だねー」「何買ったの?」「レンジで焼き魚が出来るフライパン」「あっ!それ私も気になってた!」
わいわいとフライパンについて盛り上がっていると…
「あ、みなさん、誰か来ましたよ」
柱の影から白い服を着た人たちがわらわらと現れた。
その中の一人が一歩前にでてにこりと薄ら笑った。
「ようこそリンデロン王国においでくださいました!」
神官たちは恭しく頭を下げておばちゃんを迎える。
「リンデロン王国…?」「知ってる人いる?」「お薬ですかね?」「あーそれそれ」
「この前うちの下の子がぶつぶつ出来て皮膚科に行った時もらったわ。あ、違ったリンデロンじゃないわ、なんだっけな…」「オロナ?」「違う」「オナラ?…」「ん?」「ん?」「あははー!」
すぐに話が脱線し、そこから盛り上がってなかなか本題が進まない。
「あの…その、突然このような事になりまして混乱されていると思います。此度の件、リンデロン王国の神官長の私トライデントが説明させて致します…」
神官長は頭を下げ、少し遠くを見つめるように目を細めた。
「まず、この国、リンデロン王国の成り立ちから。この国は…」
「あのすみませんが手短にお願いします」
自分たちのことを棚に上げ、おばちゃん一人が言えば皆大きく頷いた。
「はっ?は、はいっ…えっと、この国は今、魔族との戦いの最中でございます。その戦いは苦戦しております。そのため魔王を倒し、我が国を救っていただきたく異世界から勇者御一行様を召喚させていただきました。どうかお力添えください」
ずらりと並んだ神官たちが一斉に深く頭を下げた。
「…ん?なんで?」
「え?」
「なんでうちらが魔王倒さなきゃいけないの?」「ほんとほんと」
「魔王に何かされたっけ?」「…。ないわ」「ないね」
「…ねぇそれより誰が勇者だと思う?」
[高田]と書かれた身分証を首から下げたおばちゃんが、振り返って他のおばちゃんに聞く。
すぐにおばちゃんたちの人差し指は、高田さんに向けられた。
「え?私が勇者なの?」
「うん」「はい」「うん」
「なんでよ!賢者かもしれないじゃないっ!」「賢者は三木さん」「うん、三木さんが賢者」「私ですか?じゃあ頑張ります」
「じゃあ私は何も出来ないけど心だけは聖女って事で。えへへ」[白木]さんが手を上げた。
「じゃあ私はポジションだけ魔法使い」と[吉田]さんが言う。
「ええっ!勇者しか残ってないじゃないっ」
それしかないじゃんと皆が揃って言う。
「だって、あのなんだっけ?バイトの大学生」「香奈ちゃんですか?」
「そうそう!香奈ちゃんが室長にセクハラされてた時。高田さんたら休み時間に香奈ちゃんの服借りて、それ着て倉庫に行ったもの」
「ああ!あれね!」「みんなで隠れて見てたやつ!」
「室長が間違えて高田さんに抱きついて高田さん「うぉおお!セクハラだ!」って叫んでから一発引っ叩いたじゃない」
「そうそう。ぶっ飛んだ室長が高田さんの顔見て「きゃーーー」って叫んで。それで「それもセクハラ!」って言って。結果、室長は左遷されたじゃない!」
パチパチと手を叩く3人。
「あれは素晴らしかった」「はい。さすが高田さんです」「てか香奈ちゃんのミニスカート履いてる高田さんがセクハラっちゃーセクハラよね」
「似合ってたからいいじゃん!」頬をプクーと膨らませる高田さんに「可愛かったですよ」と、にっこり優しく三木さんが言う。
「ほんとう?」
「はい」にこっ。
「なら私が勇者です!!」
「「おお!勇者が決まったらしい!」」とざわつく神官たち。
「それでは魔王を倒した暁には、報奨金とし…」
「え?」
「は?」
「報奨金?」
「はい」
「え?」
「…その何か…?」
「いやだってさ、お金もらうのは当然じゃん?それを報奨金とか言ってまとめないでほしい。給料と報奨は別ですよね?ねぇみんな?」
コクコクと頷く3人。
「そ、それでは、他に何が…」
「イケメン!イケメン!たくさんイケメンほしい」聖女がしゃしゃり出てイケメンを要求した。
「要らねーよ!」勇者が切り捨てる。
「えー…イケメンが〜」「ぶつよ?」「チェッ」
「ステイタスオープンっ!!」突然魔法使いが叫ぶ。
「わっ!びっくりした!急に何?」「異世界来たら言うんじゃないの?」「何それ。開けゴマ?みたいな?」「え?違うと思う」「それでどうでした?」「オープンしなかった」
「あはは!」
「それより報奨金はどうしますか?」
「そうだ。何がいいかなぁ〜。食後のメロン?ぶどうもいいな」「あ、いいね」
「じゃあまとめてフルーツって言うのはどうですか?いちごとかも食べられますよ」賢者のアドバイス。
「うんうん。ナイスアイデア。報奨は食後のフルーツ」
ほっとした顔の神官が「食後のフルーツ」を認めてくれた。
「んでさ、終わったら元の世界に帰れるんですよね?」
魔法使いの問いかけに、静まり返る神官たち。
「帰れ…ない…の?」
「申し訳ございません…その…とてつもなく言いにくいのですが…元の世界に戻る事は…出来ません。その…こちらの世界への呼び出し方はわかるのですが、戻し方を知らないのです」
「何それ!」聖女がぶーぶー騒ぎだす。
「魔法でこの国をぶっ潰す!!」魔法使いの頭が光りだした。
こんな時に一番騒ぎそうな勇者の高田さんは黙って何か考えているようだった。そして…
「ふーん。わかった。…じゃあすぐに魔王のところ行ってくる」「え?行くの?」「うん行くよ。フルーツ食べたいからね」「じゃあ私もお供します」「じゃあ私も」「わかった」
「決まったらさっさと行くよ」
そう言うとおばちゃんたちは最低限の情報を聞いてから、魔王城を目指した。
おばちゃんたちが去ったあと、神官たちは好き好きに文句を言う。
「みんなババアでびびったわ」
「ほんとほんと、ここは若い女性が来るところだろ」
「イケメンとか要求しやがって、ふざけんなよ」
なんでお前が怒ってるんだとは皆言わなかった。
。。。
魔王城。
「すみませーん!魔王さんいますかーー?!交渉に参りましたー!!」
勇者がドアを叩く。
「交渉だと?戦いに来たのではないのか?」
門番のゴブリンが慌てて魔王に取り次ぐ。
「お前たちが勇者一行だと?」
「はい!私たちはリンデロン王国に勝手に呼ばれてここに来ましたが、魔王さんと戦うつもりは全くありません。なぜなら、リンデロン王国とは全く何の関係もないからです!拉致されてムカついてるくらいです!魔王さんは私たちを元の世界に戻す事が出来ますか?」
「…我であれば簡単な話だ」
「じゃあ私たち戦いたくないので、元の世界に返してもらって良いですか?その後リンデロン王国は煮るなり焼くなりしちゃって構わないので」「おねが〜い」「つかうちら関係ないのに巻き込まれて迷惑だったし」「本当ですよね」「フルーツ美味しくないし」「そそ、イケメンいないしね」「イケメンいてもクソの役にも立たないじゃん」「あーあ、イケメンに会いたかったなぁ」「ここに来るまでイケメンいたっけ?」「いませんでしたね」「あ、宿屋の馬がめっちゃイケメン、イケ馬?だったじゃん」「馬なんてどうでもいいんだよ!」「えー…馬可哀想」「じゃあ魔王はどうですか?」「ええ?」「魔王はイケ…」
おばちゃんの視線が一斉に魔王に向いた瞬間、おばちゃんたちが消えた。
煩わしいと思った魔王が一瞬でおばちゃんたちを元の世界に帰したのだ。
途端。水を打ったように静まり返る魔王城。残ったのは湿布の匂いだけ。
と同時に、皆がどこか安堵した様子を見せた。
「あの…魔王様…あれらが勇者一行とはいったい…」
「…………今回こそは負けを覚悟した…」
「…わたくしも今回は勝てないと思いました」
「我は生まれて初めて死を覚悟した…」
その後、あんな怖い奴らを送ってきやがったリンデロン王国を滅ぼしてやろうと、一致団結する魔族たち。
「「「おーーー!!!」」」
。。。
17時。終業のチャイムが鳴り、席を立つ。
同時に背後からカカカカッとパンプスの音が近づいてきた。
「お疲れ様!ねえ聖さん。今日ね、彼氏のお誕生日で早く帰ってお祝いしたいの。だからコレお願〜い!」
同期の堺桃子。
体をくねらせながらのおねだりポーズ。背後にスタンドが見える角度で、全く手をつけていない書類を渡してきた。
「この前今回だけって言いましたよね?無理です」
キッパリとお断りする。
「え〜お願〜い!今回だけだから、今回で終わりにするから〜」
スタンドの首も変な角度に曲がっている幻影。
毎回この調子で色んな人に自分の仕事を回して断られていると聞く。
「いい加減にしてくれます?とにかく私は無理ですから」
私に断れると思っていなかったようで、顔を真っ赤にしふるふると震える堺桃子。
「お疲れ様でした」
終了の挨拶をし、フロアの出口に向かう。
廊下に出ると、いつも良くしてくれるパートさんたちも帰るようだった。
「お疲れ様でした〜」「おつかれさま!」「おつかれさまです」
お互いに声を掛け、階段を降りようとしたその時。
「やってくれてもいいじゃないっ!何よ!偉そうに!」
叫ぶ桃子の声に振り向くと、私はパートのおばちゃんに囲まれていた。
ドン!
私を突き飛ばそうとした堺桃子は、高田さんに跳ね返され床に転がっている。
「え?」
キョトンとする堺桃子。
「いったーい!!堺さん!何するんですか?もし私が階段から落ちたらどうしてくれるつもりー?」「高田さん危なかったわねー」「大丈夫でしたか?」「あー…骨折れたかもしれないわー」
「えっそんなわけないじゃないっ!私は聖さんを…」
「なあに?あんたまさか自分のわがままが通用しないからって聖ちゃんを突き飛ばそうと思ったの?」
「あ…違います。そんな事しません…」
「これ、明日までにやらなきゃいけないやつ」床に散らばる書類を吉田が拾う。
「本当ですね。でも今からなら徹夜すれば間に合いますよ!」三木がにっこりとガッツポーズをして堺を励ます。
「三木さんの一言で堺さんの徹夜決定〜」白木が徹夜を覆せないように追い討ちをかけた。
「ええ?私のせいですか?」「そうだよ」「ええ〜」
「じゃあ決定だね。ちょっと部長さんに声かけてきてあげる」高田が書類を受け取ってピラピラと堺に見せた。
「えっ!いいです!ダメ!やめて!」真っ青な顔で止めに入る堺。
「いいっていいって!部長さーん!ちょっといいかしらーー!?」話を聞かない高田は部長を呼びに行ってしまった。
「あ、早く帰らないとママゾン来ちゃう」
「高田さん行っちゃったし」
「じゃあ私待っててあげますよ。お二人はどうぞお先に」
「私も待つ」
「…勇者怒らすと後が面倒だから私も待ってるわ」
なんだかんだ言ってみんな仲良くやっている。
誤字脱字修正くださりありがとうございました。
心より感謝致します。




