腐った路地裏の人々
掲載日:2026/05/26
卵が腐った臭いというより、人間がすえた臭いに近い。
その路地裏は、夢破れた者がいた。
その路地裏は家族に見限られた者がいた。
またその路地裏は、悪の限りを尽くした者もいた。
すえた臭いのする路地裏で、今日も誰かが倒れている。
保険証もないから病院にかかることもできない。
そこで死んだら身ぐるみ剥がされるだけ。
救いはなにもない。
暗くよどんだ瞳はなにも映さない。
そう、彼もまた、裏切られた者だった。
会社で経理を担当していた彼は、横領を疑われて無職になった。
落ちぶれた人間を救う者はいない。
利用価値のない人間に手を差し出す者はいないよだから。
そして彼はついにこの路地裏にたどり着いた。
たくさん歯ぎしりして歯はボロボロとくずれ、しばらくなにも食べてなかった。
それでも彼は、灰色の空を眺めた。
いつか飛べる日が来るかもしれないという、淡く愚かな夢を抱いて。
彼の死因は餓死だった。
そうして成仏できなかった魂は、簡単に現世にとどまった。
そして同じような境遇の者の生を奪うように仕向けた。
青い空なんてない場所。
飛び立つことなんてできない場所。
助けてくれる者のない場所。
人は一人で死んでゆく。
はたして彼の魂は、今も漂いつづけている。
おわり




