プロローグ
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嵐の夜だった。
山奥の森。滝の音が、雷鳴にかき消されている。
激しい雷雨に打たれながら、一人の僧侶が熱心に念仏を唱えていた。
「南無阿弥陀!」
「南無阿弥陀!」
「鬼を沈めたもう。鬼を封じ込めたもう!」
「南無阿弥陀……」
僧侶の見ている先に、人の形をしているのに、人ではない大きな生き物が叫び声を上げていた。
『オオオオーーーーッ!』
その化け物は、僧侶を大きな手で薙ぎ払おうとするが、見えない壁に跳ね返される。
パンッ!
「南無阿弥陀!」
「南無阿弥陀ッ!」
僧侶の魂の炎は燃え盛り、化け物の黒い邪念と弾き合う。
雨粒が痛いくらい激しく降り注ぎ、雷は近くに落ちて、バリバリと雷鳴を轟かせた。木に火がつき燃えている。
『……俺が何をしたって言うんだあああ!』
四間を超える体がジリジリと下がっていく。僧侶の気迫が鬼気迫る。
「これ以上、人を殺めるでない!」
近くに雷が落ちようが、化け物の低い咆哮が轟こうが、僧侶は歩みを止めない。
「南無阿弥陀!」
「南無阿弥陀!」
「南無阿弥陀!」
『オオオーッ!』
滝までやってきた。ここには大きな岩があった。
(ここに封印してやろう)
流石の僧侶も夜通し化け物と対峙していて、体力がつきかけていた。もう直ぐ朝が来る。
「南無阿弥陀……南無阿弥陀……」
精神全てこめ、念仏を唱える。次第に僧侶の体の輪郭に光がともっていく。
『……やめろ……!』
「南無阿弥陀……南無阿弥陀……。鎮まれ……この岩へと」
『やめろーー!』
「ハッ!!!」
僧侶が気合を込めると、化け物はだんだん小さくなり、岩に消えていった。
「南無阿弥陀……南無阿弥陀……」
僧侶は念仏を唱えながら、自分の袈裟を岩に掛けた。
「後できちんと封印してやるからな……」
僧侶は、気が緩んだのか、その場に倒れた。
――雨はしとしとと、降り続いていた。




