第九章 開幕――最強は、誰だ
黄金の塔は、空でも地上でもない場所に立っていた。
八人がそれぞれの手段で辿り着いたとき、塔は世界のどこにも属していないことを理解する。重力も、時間も、空間も、ほんのわずかに歪んでいる。雲は塔を避け、風は周囲を巡る。
巨大な円形の広間に、八つの扉が開いた。
レオンは静かに歩み入る。
セレナは水の足場を消し、床を踏む。
アイリスは銃を肩に担ぎ、無表情で周囲を見る。
ガイは腕を組み、獣のように笑う。
ルシアンは影から滲み出るように現れる。
エリシアは空間の歪みを一歩で越える。
ヴァルディウスは重力を従え、優雅に降り立つ。
アレクシスは最後に、静かに頁を閉じた。
沈黙。
互いの視線が交差する。
誰もが理解する。
目の前にいるのは、噂や伝説ではない。本物の“最強”だと。
やがて、空間中央に黄金の光が集まり、形を成す。
人型の存在。顔はない。声は空間全体から響く。
「八柱の最強よ。汝らを招いたのは我」
神か、あるいはそれに近い存在。
「最後の一人に、願いを与える。代償はない。ただし勝者は一人のみ」
ガイが笑う。「分かりやすくていい」
ルシアンは目を細める。「信用はしないがな」
エリシアは冷静に問う。「形式は?」
黄金の存在が手を掲げると、空間が変わる。
広間は消え、巨大な闘技場へと変貌する。観客はいない。空はなく、地平もない。無限の空間に浮かぶ円形の舞台。
「一対一、勝ち抜き式。敗者は死なぬ。ただし、戦闘不能となった時点で失格」
アイリスが小さく呟く。「……死なないのは助かる」
ヴァルディウスは黄金の存在を睨む。「竜の全力を許容できるのか?」
「制限は設けぬ。ただし、この空間は汝らの力を受け止める」
レオンは剣を抜かない。ただ鞘に手を添える。
セレナの足元に、わずかに水が滲む。
アレクシスは何も書かない。ただ観測する。
黄金の存在が告げる。
「第一試合」
空間が二つに割れ、他の六人が透明な壁の外へと移される。
舞台中央に残ったのは――
レオンと、ガイ。
理と拳。
静寂。
ガイが肩を鳴らす。「悪くねぇ。最初はお前か」
レオンは淡々と答える。「拳王。あなたの踏み込みは、既に見た」
ガイは笑う。「見ただけで分かるか?」
「ええ」
次の瞬間、地面が爆ぜた。
ガイの踏み込み。距離が消える。拳が空気を裂き、衝撃波が舞台を揺らす。
だが。
レオンは半歩だけ動く。
最小限。
拳が掠める。風圧が髪を揺らす。
ガイの目が見開かれる。
「今のを……」
返す刀。
レオンの剣が閃く。
だがガイは防ぐ。腕で受け、金属音が鳴る。拳圧で剣筋を逸らす。
「面白ぇ!」
連撃。
拳が嵐のように放たれる。だがレオンは一歩も無駄にしない。最短距離で斬り返す。拳と剣が交差し、火花が散る。
観戦する六人。
セレナは静かに言う。「……互角」
エリシアは目を細める。「いいえ。わずかに、剣士が有利」
ガイは次第に理解する。自分の踏み込み、肩の揺れ、呼吸の変化。すべて読まれている。
ならば――読めない一撃。
ガイは拳を引く。
深く。
山を砕いた、あの一撃。
踏み込みと同時に、舞台全体が割れる。衝撃が空間を震わせる。
レオンの瞳が揺れる。
一瞬。
それだけで十分だった。
拳が届く。
だが、届く寸前。
レオンの剣が、拳の軌道を断つ。
真正面からではない。わずかに逸らし、衝撃を流す。
拳は舞台を砕き、虚空へと消える。
ガイの体勢が崩れる。
その隙に、剣が喉元へ。
止まる。
静寂。
ガイは笑った。
「……参った」
拳を下ろす。
レオンも剣を収める。
黄金の存在が告げる。
「勝者――レオン・アストラ」
ガイの身体が光に包まれ、観戦席へ移される。
ガイは悔しそうに笑いながら言う。「次は負けねぇ」
レオンは静かに息を吐く。
だが余裕はない。拳の一撃は、確実に彼の限界を削っていた。
黄金の存在が再び告げる。
「第二試合」
空間が再び変わる。
舞台中央に立つのは――
セレナと、ルシアン。
蒼海と、影。
全員最強。
全員優勝狙い。
本当の戦いは、これからだ。




