第七章 星を墜とす竜王
世界の遥か上空、雲海のさらに上に、空島群〈アル=ゼリオン〉が浮かんでいる。
重力に縛られないその島々は、巨大な魔石と古代竜の力によって支えられていると伝えられてきた。だが真実は違う。空島を支えているのは、“契約”だ。
竜と、人との契約。
その中心に立つ存在がいる。
名を、ヴァルディウス。
だが人の姿でその名を呼ばれることは稀だ。彼は本来、人ではない。
竜である。
それも、最後の“真竜”。
千年前、竜は世界を支配していた。炎で山を溶かし、翼で嵐を起こし、星すら噛み砕く力を持っていた。だが人は進化した。魔術を編み出し、武を磨き、竜に抗う術を得た。
戦争が起きた。
大陸は裂け、海は蒸発し、空は焼けた。
最終的に、竜は敗れた。
いや、正確には“和解”した。滅びるか、契約するか。選択を迫られ、竜王は契約を選んだ。力を封じ、人の姿を取り、空島を守護する存在となることを。
それが、ヴァルディウスの始まりだった。
彼は人の姿で生きる。黒髪に金の瞳。長身で、どこか冷たい気配を纏う青年。だがその内側には、星を墜とすほどの炎が眠っている。
空島は平和だった。
だが地上では、竜の力を狙う者が現れ始める。古代竜の心臓を動力にする兵器、竜血を使った禁呪。人は、まだ竜を利用しようとしていた。
ある日、空島の一つが落ちた。
地上の魔導砲が、契約の結界を貫いたのだ。島が崩れ、民が落下する。悲鳴が空を裂く。
ヴァルディウスは空を見上げた。
契約は、守るためのものだ。
だが、守れないなら――意味がない。
彼は、契約の枷を一部解いた。
背から光が噴き出す。人の姿が崩れ、巨大な翼が広がる。黒金の鱗、燃えるような瞳、天空を覆う影。
真竜。
その咆哮だけで、雲海が裂ける。
魔導砲が再び放たれる。だが彼は笑った。
「人は、まだ学ばぬか」
口腔に炎が集まる。だがそれは炎ではない。圧縮された“星核”。かつて天から落ちた隕石を噛み砕き、力に変えた竜王の最終兵装。
放たれた瞬間、空が消えた。
魔導砲も、砲台も、地上の山脈ごと消滅する。焼き払うのではない。存在そのものを削り取る。
だが、その代償は大きい。
契約が軋む。竜王の力を使えば使うほど、封印は緩む。完全に解放すれば、世界は持たない。
彼は再び人の姿に戻る。
落ちた空島の瓦礫を抱え、静かに呟く。
「……守るために、滅ぼすのは本末転倒だ」
彼は強すぎる。
だからこそ、力を抑えて生きてきた。
そんな彼の前に、黄金の塔が現れる。
「八つの最強を集めよ。最後の一人に、願いを与えよう」
願い。
もし、竜と人が完全に共存できる未来があるなら。
もし、契約ではなく、対等な関係が築けるなら。
彼は目を閉じる。
「試してみる価値はある」
空島の民は止めた。だが彼は首を振る。
「これは、王の務めだ」
彼は空へ飛び立つ。翼は広げない。人の姿のまま、ただ重力を無視して上昇する。
星を墜とす竜王。
その異名はやがて定まる。
《天墜竜王》ヴァルディウス
これで七人。
あと一人。
最後の席が埋まるとき、英雄最強決定戦は始まる。
剣。
海。
銃。
拳。
影。
時間。
竜。
全員最強。
全員優勝狙い。
黄金の塔は、最後の一柱を待っている。




