最終章 全員最強、そして――
舞台は、何もなかった。
空も、地も、風も、音もない。
ただ白。
その中央に、レオンとアイリスが向かい合う。
観戦席では、六人が静かに見守っている。
黄金の存在が告げる。
「決勝戦――開始」
刹那。
銃声。
紅い閃光が一直線に走る。
レオンは、半歩。
それだけで弾丸を外す。
だがアイリスは止まらない。
二発、三発、十発。
紅い弾丸が空間を埋め尽くす。
レオンは最小限で避け、最短距離で踏み込む。
だが一発が肩を掠める。
肉が裂け、血が飛ぶ。
彼は歯を食いしばる。
「……重い」
弾丸一発が、世界を削る重みを持っている。
アイリスは感情を見せない。
ただ撃つ。
撃ち続ける。
壊れても、再生し、撃つ。
レオンは理解する。
持久戦は不利。
ならば、一撃。
彼は剣を納める。
居合いの構え。
アイリスの紋章が脈打つ。
「……来る」
彼女は銃を胸元へ向ける。
全力解放。
紅い光が凝縮される。
「終わらせる」
レオンは息を整える。
無駄を削る。
恐怖を削る。
迷いを削る。
守れなかった過去も、背負ってきた後悔も、すべて削ぎ落とす。
ただ一太刀。
アイリスが撃つ。
同時に、レオンが抜く。
白が裂ける。
音が消える。
時間が止まったかのような静寂。
そして――
レオンの剣が、アイリスの銃身を断つ。
だが紅い弾丸は、止まらない。
剣を貫き、彼の胸へ。
血が舞う。
レオンは一歩踏み込む。
刃は、アイリスの喉元へ。
止まる。
弾丸は、彼の心臓寸前で止まる。
沈黙。
二人の呼吸だけがある。
レオンは、微笑む。
「……終わらせなくていい」
アイリスの瞳が揺れる。
「……?」
「あなたは、終わりを望んでいるわけじゃない」
剣を下ろす。
アイリスの指が、引き金から離れる。
紅い光が消える。
静寂。
黄金の存在が、初めて言葉を失う。
やがて告げる。
「……勝者は」
沈黙。
レオンは振り返らない。
アイリスも、動かない。
観戦席から、ガイが笑う。
「決められねぇな、こりゃ」
セレナが静かに言う。
「どちらも、勝ってる」
エリシアが微笑む。
「ええ。全員最強だもの」
黄金の存在が、ゆっくりと姿を変える。
その輪郭が崩れ、ただの光になる。
「理解した」
声が響く。
「汝らは、優劣を決める存在ではない」
空間が揺らぐ。
「よって、願いは一人ではなく――全員に与えよう」
驚きが走る。
光が八人を包む。
レオンの胸の傷が消える。
セレナの封印が安定する。
アイリスの紋章が穏やかに脈打つ。
ガイの拳がさらに研ぎ澄まされる。
ルシアンの影が静かに揺れる。
エリシアの時間が、わずかに流れ始める。
ヴァルディウスの契約が緩和される。
アレクシスの失われた記憶が、少し戻る。
光が消える。
黄金の塔は、崩れ始める。
「英雄最強決定戦は、ここに終わる」
空間が裂け、世界へと戻される。
最後に残ったのは、八人だけ。
レオンがアイリスを見る。
「また、どこかで」
アイリスは小さく頷く。
「……今度は、撃ち合いじゃなく」
ガイが笑い、ルシアンが影に溶け、セレナは水を纏い、エリシアは空間を越え、ヴァルディウスは空へ飛び、アレクシスは頁を閉じる。
それぞれの世界へ。
それぞれの場所へ。
全員最強。
全員優勝狙い。
だが最後に残ったのは、順位ではない。
繋がりだった。
世界は、少しだけ優しくなった。
そして物語は続く。
英雄最強決定戦。全員最強、全員優勝狙い。
――完――




