第十一章 終われぬ者と、終わらぬ者
舞台は白銀の荒野だった。
風もなく、音もない。雪のように見える粒子が空中を漂い、地面は硬質な氷で覆われている。どこまでも続く白。
中央に立つのは、アイリス。
黒鉄の銃を肩に担ぎ、紅い瞳で正面を見据える。
対するは、エリシア。
白銀の髪を揺らし、静かに佇む。その瞳は氷よりも冷たいが、奥には確かな知性が宿っている。
黄金の存在が告げる。
「開始」
音はなかった。
だが次の瞬間、アイリスの銃口が火を吹く。
紅い光弾が一直線に走る。空間を焼き裂き、エリシアの胸を貫く――はずだった。
弾丸は、止まった。
空中で。
凍りついたように静止する。
エリシアが小さく呟く。
「時間停止」
次の瞬間、彼女は歩く。止まった世界の中を、静かに。
紅い弾丸を指で弾き、軌道を逸らす。アイリスの背後へ回り、そっと肩に触れる。
「……あなたは、壊れている」
時間が動き出す。
弾丸は明後日の方向へ飛び、アイリスの肩に氷の刃が突き立つ。
血が舞う。
だが少女は倒れない。
「……効かない」
肉が裂け、骨が露出する。だが傷はゆっくりと再生する。
エリシアの眉がわずかに動く。
「不死……いいえ、違う。停止しているのね」
アイリスは銃を構え直す。
今度は連射。
無数の紅弾が空間を埋める。
エリシアは片手を掲げる。
「巻き戻し」
世界が、数秒前へ戻る。
弾丸は発射前に戻り、氷の地面は無傷に戻る。
アイリスの目が揺れる。
「……今、何を」
「あなたは撃った。私はなかったことにした」
静かな説明。
だがその力は、あまりにも理不尽。
アイリスは理解する。
撃ち続けても、時間を戻されれば意味がない。
ならば。
彼女は銃を胸元へ向ける。
引き金を引く。
自分を撃ち抜く。
紅い光が身体を貫き、内部から爆ぜる。全身が崩壊し、肉片が散る。
エリシアの瞳がわずかに見開かれる。
「自壊……?」
次の瞬間、肉片が再生する。
再構築。
そしてアイリスの胸の紋章が、激しく脈打つ。
「……一度、見せた」
彼女の銃が、変わる。
紅い光が濃縮され、黒に近い深紅へ。
「時間ごと、撃ち抜く」
放たれた一発は、これまでと違った。
音もなく、軌跡もなく。
ただ、空間に“穴”が開く。
エリシアは即座に時間を止める。
だが――止まらない。
弾丸は時間停止を貫通する。
永劫を裂く一撃。
エリシアの肩が抉れる。
白銀の血が舞う。
「……なるほど」
彼女は微笑む。
「面白いわ」
時間を止める。巻き戻す。未来を先読みする。
だがアイリスは、何度壊れても撃ち続ける。
エリシアが十手先を読んでも、アイリスは百回撃てる。
永劫と不滅。
どちらも終わらない。
戦いは、次第に消耗戦へ。
エリシアの時間が軋む。
アイリスの身体が崩れ、再生し、崩れる。
やがて、エリシアが静かに息を吐く。
「……これ以上は、世界が持たない」
彼女は時間を止める。
今度は、完全に。
だがその中で、彼女は動かない。
ただ、アイリスの前に立ち、そっと額に触れる。
「あなたは……終わりたいのね」
時間が動き出す。
アイリスは銃を構えたまま、止まっている。
撃てる。
だが――撃たない。
「……分からない」
小さな声。
エリシアは微笑む。
「なら、ここまで」
彼女は自ら膝をつく。
「降参よ」
静寂。
アイリスの銃が下がる。
黄金の存在が告げる。
「勝者――アイリス」
エリシアは光に包まれ、観戦席へ移る。
アイリスは無言のまま立ち尽くす。
これで準決勝進出は三人。
レオン。
ルシアン。
アイリス。
残る一試合。
黄金の存在が告げる。
「第四試合」
舞台が変わる。
天空。
立つのは――
ヴァルディウスと、アレクシス。
竜王と、物語。
力と、概念。
全員最強。
全員優勝狙い。




