第4話 最強を殺して生き残る
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無情にも朝が来る。
だが、何一つ終わっていない。
朝日が掲示板に差し込み、反射した光が神殿エリアの床を照らしている。
一位:Runner 8,900
二位:Crusher 7,800
三位:Scavenger 6,700
ランナーの経過日数は、残り二日まで減っている。
そしてスカベンジャーとヒーラーは、ついに今まで戻ることはなかった。
スカベンジャーだけではない。他の手下たちも、多くが戻っていない。
ランナーを見つけて殺して…だから戻らないというわけではない。何故なら奴の名はまだ掲示板にあるからだ。
「……妙だ。」
誰に言うでもなく、呟いた瞬間だった。
ゴォォォォォン ゴォォォォォン
——連鎖する轟音。
そして音が徐々に近づいてきてーーー神殿の壁が、激しく叩き割られた。
崩れゆく瓦礫と粉塵の奥に、巨大な影。
一歩ずつ、近づいてくる。
「……デストロイヤーか……?」
2mはゆうに超える巨体。赤い挑発を雑に後ろへ流し、太い腕はまさに丸太のような屈強な肉体。
この手で殺したはずの男が、そこに立っていた。
「な…なぜ…ッ!」
反射的に声を上げた、その直後。
俺の近くで待機させていた男——チャレンジャーが、一歩踏み出す。
「だ、誰だお前は!!ランナーかっ…」
言葉は、最後まで出なかった。
問いかけの刹那、
チャレンジャーの身体は“消えるように後ろへ弾き飛ばされた”。
デストロイヤーの一撃。
チャレンジャーは叫ぶ暇すらなく、遥か後方で壁に叩きつけられうずくまる。
「ァ゙…ァ゙…。」
「……チッ!」
拳を握り立ちあがる。
実際にやり合ったからこそ分かる。こいつは危険だ。まさに、"元最強"の男。
数日に及ぶ俺との激しい戦いの果てに、崩れた絶壁の下敷きになり死んだはずだ。
掲示板からも名前が消えた。俺にスコアも追加された。間違いなく殺したはずだ。
だが、目の前にいる男は紛うことなき、デストロイヤー。"駆逐者"だった。
◆
「う、うわぁ、うわ…」
もう一人、俺の近くで待機させていた男。アーチャーがデストロイヤーを見て震えている。
自慢の弓も構えず、ただ金魚のように口を開閉して…
「さっさと奴を射ろ!!火の矢で燃やせ!!!」
「う、うわぁぁ!!」
叫び、背を向け逃げるアーチャー
だがその背中に、デストロイヤーは強烈な衝撃を与え吹き飛ばす。
「ギャァァァ!!」
そうだ。
デストロイヤーは俺に近い破壊能力を持っているが…何より厄介なのはその射程。
大砲でも撃ち込んでいるかのような破壊力を持つ衝撃波を出す。
だが、おかしい。
ぶっ飛ばされ倒れた2人は——まだうめき声をあげ満身創痍ながらも死んでいない。
全身が痙攣し、致命傷ではあるが、あのデストロイヤーであれば、攻撃を受けてもなお原型を保てている時点で違和感がある。
俺はニヤリと笑い問いかける
「…貴様、全力が出せないんだな?」
「…。」
デストロイヤーは無言のまま。
「どんなからくりか知らねえが、お前は一度俺に"壊されてる"んだ。もう一度破壊してやる」
言い終わる前に、デストロイヤーは掌をこちらに向ける。
そして空気の震えが伝わってくる。衝撃波だ。
考える暇はない。
「しゃらくせえぇッ!!」
クラッシャーは衝撃波に突っ込んだ。
クラッシャーの身体に衝撃がぶつかり、余波で神殿の柱が砕け、床が割れる。
相当な威力の一撃。しかし、クラッシャーは無傷。
「フハハ!俺の能力"破壊"は、お前の衝撃波さえ破壊する!!!
お前は俺に勝てないんだよ!!」
言いながら、勢いそのまま握り拳を振り上げ、破壊の力をデストロイヤーの顔面へ惜しみなく叩き込む。
「終わりだ……ッ!」
痛恨の一撃。
デストロイヤーの顔面が、粉々に砕け散った。
——勝った。やはり、俺は無敵だ。
…だが。
破壊し首のないまま立つデストロイヤーに、明らかな違和感が残る。
血が出ない。
臓器の反応がない。
生き物を壊した“感触”が、どこにもない。
「……なんだ、お前は…!」
首が無い。生き物であれば間違いなく絶命しているはずだ。
なのに、デストロイヤーはゆっくりと、しかししっかりと"右手をこちらに向ける"。
「!!!」
衝撃波。デストロイヤーの能力と、俺の能力の違いは範囲と対象。
デストロイヤーは広範囲を薙ぎ倒し破壊する。対して俺は自らの手(細かく言えば腕)を中心として触れるあらゆるものを破壊する。
そしてデストロイヤーの破壊衝撃の恐ろしさは範囲だけではない。"その早さ"にある。
まさか首のない男が攻撃をしてくるとは思いもよらない一瞬の油断。
ーーーーーーー奴の衝撃に、俺の両膝が崩れ落ちる。
「グッ…!?」
「どういうことだ。どういうことだ!?お前は誰だ!?なんなんだ!!!?」
「…。」
もはや答える口も無いデストロイヤーは、もう一度右手をこちらに向け衝撃波を放つ。
かろうじて腕で上半身を護り、衝撃を破壊するが…
それでも耳や肩、脇腹…
少しずつ、削られ崩され壊されていく。
「何故死なない!?いや何故生きている!?
いや!!お前は誰だ!!?」
疑問が溢れる。理解が追いつかない。頭に"死"のイメージが反芻する。
その時。
背後から、拍手の音がした。
「お見事です。やはり“力”では、あなたが最強でしたね。」
女の声。
咄嗟に振り返る。
「お、お前は!!?」
そこに立っていたのは——
◆
振り返り、そこに立っていたのはそばかすが特徴的なメガネのおかっぱ少女。
「だ⋯誰だ!??」
見たことの無い少女。
「……お前が
ランナーだな!?」
見知らぬ顔。他の奴は全員顔を知っている。間違いなく、ランナーだ。
「違いますよ。」
するとまた背後から声がする。
振り返ると、そこにはニタニタと笑うスカベンジャーがいる。
そしておかっぱの少女が話し始める。
「私が本物のスカベンジャーです。」
「⋯は、は?」
理解が追いつかない。意味が分からない。
「私の本当の能力は、"死体操作"」
おかっぱの少女が、ニタニタと笑いながら語る。そして話し終わると、糸が切れたように俯く。
次にスカベンジャーだと思っていた男が話し始める。
「私は生きていません。ただそこらへんに転がっていた死体です。」
黒髪、七三。元々スカベンジャーだと思っていた男は、自分を指さしながら話した。
「元々死体ですから、壊しても死なない。本当の能力は"サンダー"。触れた相手に電流を流す能力。」
「ふざけんな…ふざけるな!!
なんだそれは…!
そんな、そんな能力ありか!?」
「"どんなものでも破壊する"。あなたの能力の方が、よほど反則みたいなものですよ」
静かな声。
「仲間たちも、まだ生きています。サンダーの能力で、感電させて意識はトんでいますがね。」
「スコアが加算されて…お前が殺したとバレないように…か!」
「それも答えの一つですね。
でももっと大切なことがある。」
「なんだ…」
「殺す順番です。私がスコアをあと、2,300増やすためのね。」
クラッシャーは、その言葉だけで全てを理解し、絶望した。
「……最初から……ランナーを探す気なんて……」
「ええ!ありませんでしたよ。」
即答。
「一位を殺せば、補充者が現れ、また敵が増える。
特に、残りが神殿エリアの状態でまた100人になれば、否が応でも大規模な戦闘になる。」
淡々と、スカベンジャーに操られている七三の死体は語る。
「それより、生存者が少ない状態で自分が一位になる方が圧倒的に合理的だ。」
「全員で手を組んだのも——
あなたたちのスコアが、これ以上増えないように。」
完璧な計算。
そして——
「ヒーラー…は」
「死の海で拾った、彼の身体を“治してもらいました”。」
砕けたデストロイヤーを指す。
「あなたとの戦いでボロボロだった身体を、完全な状態に。
…もちろん力で脅してね。」
「まぁ役目は終わりましたので……彼女も感電させて眠ってもらっています」
全て奴の掌の上。俺はただ、踊らされていただけだった。
「スカベンジャー…!
"腐肉漁り"…!!」
◆
クラッシャーは、このゲームに補充されて初めて、力が抜け拳を緩めた。
もう、身体が動かない。
デストロイヤーの破壊衝撃により半身はほとんど機能しない。肩は肉がめくれ、骨が露出している。まさに満身創痍。
「……クソ……」
「力では、誰よりもあなたの勝ちでした。」
スカベンジャーは、一歩も近づかない。
「⋯クソ⋯!!」
「ですが、この世界は——
生き残った者が勝つゲームです」
「ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ!!!!!!!!!!」
頭を地面に何度も叩きつける。怒りで、悲しみで、恐怖で、絶望で打ちひしがれる。
雄弁に話していた七三の男の腕がダラリと下がる。目に光が無くなる。
その瞬間、デストロイヤーが動き出す。ゆっくりと近づいてくる。
スカベンジャーに操られているデストロイヤー(の死体)は、両手で俺の頭を握る。
「やめてくれ…殺さ…ころさないで」
グシャァッ
鈍い音と共に意識が、闇に沈む。
◆
静かになった神殿で、私は掲示板を見上げる。
周囲には、アーチャーと、チャレンジャーと、クラッシャーの死体。
そして、糸が切れた人形のように倒れるサンダーとデストロイヤーの死体。
一位:Runner 8,900
二位:Scavenger 7,800
明日が、ランナーの1位保持30日目。
だが、逃げるだけの一位なんて怖くない。
あとは繰り上がり三位になったヒーラーを殺して100+追加300スコア。
その後感電させている他の奴らを殺して回れば、余裕でランナーのスコアを超える。
たった1日あれば十分だ。
「勝者は、私です。なんたってーーー」
そう呟いた私の横で、クラッシャーの身体が歩き出す。
「最強の死体が、手に入りましたから。」
もちろんクラッシャーに意思などない。
彼は次の人形になったのだ。首の無い、新しい死体として。
(第四話・了)




