表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

第3話 思惑が交差して生き残る


◆ランナー

 日毎に、世界が、狭くなってきている。

 それは安易な比喩表現等ではなく実際に、物理的に。


 逃げ続けて隠れ続けて27日。

 あと3日で死ぬという焦燥感から、なりふり構わずなっているのだろう。


 「逃げ場そのもの」が削られていく感覚。


ドゴォォオォオンン


 遠くで、また地鳴りがした。


 ——恐らく、クラッシャーだろう。

 もはや彼の破壊行為は、探すためじゃない。僕の逃げる場所を消すためだ。


「ここも…もう行けないか。」


 火山エリアが、完全に崩壊し溶岩が溢れ出している。常闇エリアも、樹海エリアの大部分も。崩れて潰れて壊れていた。


 デストロイヤーとクラッシャーの戦いにより、海エリアが崩壊したことからも分かるように。このゲームで壊れたエリアの復旧は行われない。


(残ってるのは…)


 ーー神殿エリア


 隠れられる壁。

 身を伏せられる窪み。

 抜け道だったはずの通路。

 それらが、一つずつ消えていく。


 残り3日。

 今まで27日も耐えてきたのに、今が一番長く感じる。



 神殿エリアには、近づかないと決めていた。


 クラッシャーが完全な拠点にしているからだ。見つからなくても、巻き添えを食らう可能性もある。


 それでも——

 いつ噴き出すか分からない溶岩。襲いかかる荒波。崩れかかった巨大な樹木。そしてどこが崩壊してるかすら分からない暗闇より…まだ神殿エリアの方が安全だろう。


 柱の影から、恐る恐る広間を覗く。距離はあり、声は聞こえない。


 中央に映し出される巨大な掲示板の光だけが、やけに眩しい。


 一位:Runner 8,900

 二位:Crusher 7,800

 三位:Scavenger 6,700


 僕の経過日数は27日。


 そして、最下位は十二位。

 つまり……生存者は僕を含めて12人。


 そして掲示板前の広場には、11人分の人影が争うでもなく話しているのが見える。

 胸の奥で、冷たいものが形を持つ。


(僕以外の全員が手を組んでいるのか。ーーー僕を殺すためだけに。)


 そうなる予感はしていた。


 だが、ラッキーでもある。もう気をつけるべきは、あそこにいる、11人だけ。


 注意すべき対象が、はっきりした。


◆スカベンジャー


「オイ!!!いねえじゃねえか!?」

クラッシャーが、私の胸ぐらを乱暴に掴み上げる。


「お前の言うとおり、他のエリアを破壊した!!奴は走りまわる能力だろうから、逃げ場を無くせってな!!!」


「ま…だ最後の火山エリアを破壊したばかりです…っ!

もう少し待ってみましょう。もしかしたら既に瀕死で…もうすぐ絶命するかも…!」


「…今すぐてめぇの体を粉々にしてもいいんだぜ?すぐに終わる。」


「私は…不死ですよ…っ!ゴホッ」


「関係ねえ。スコアが加算されるまで、永遠に壊し続けてもいい!!!」


「く、クラッシャーさん!」

「それはまずいですって!」


 他の奴らが必死にクラッシャーを抑えなだめる。

 私は乱れた襟を直しながら、改めてクラッシャーを見据える。


「スコアの上がり方から見ても…ランナーに戦闘能力があるとは思えません。これだけ気配を消せて、姿を見せなくて…

なのにスコアは生存ポイントのみ。」


「恐らくランナーは隠密特化の能力のはず」


「あぁ!?んなことわかってんだよ!!」

 クラッシャーはよほど焦っているようだ。


「だからこそ⋯です。見つけさえすれば勝ち。そのために他のエリアを潰し、ここに全員集まってもらいました。」


「いかにランナーといえど、神殿エリアだけの稼働域で、この人数の捜索を3日もかわせるわけがない!」


「…チッ!」

クラッシャーはゆっくりと振り返り、神殿エリアの中央。玉座に座る。


「明日までだ。明日までに見つからなければ、もういい。お前ら全員を殺すッッッ!!!」


 クラッシャーの瞳孔は開ききっており、顔中の血管は今にも弾けそうに叫ぶ。


ーーーだが

(強がり。ただの脅しだ。)

 私は確信している。クラッシャーは単純ではあるが、バカではない。

 いかに破壊者といえど、10人の能力者全員を相手に勝てると本気では思ってないだろう。


「…分かりました。ではひとつだけお願いがあります。」


「…ぁあん?」


「"ヒーラー"を、今日だけ私に同行させてください。」


 ヒーラー。ランキング10位の貧弱そうな女。

 だが病院も医者もいないこの世界で、唯一クラッシャーの寵愛を受ける者。


「なんだと!?ソイツはダメだ!ヒーラーは万が一の為に、俺の近くにいなければならねえ!」


「…ランナーに勝ち逃げされて、全員死んでも良いのですか?」


 言いながら、ヒーラーにも目線を向ける。肩をびくりと震わせて、下を見るヒーラー。


 クラッシャーも、この言葉には敏感だ。

「…どうする気だ?」


「私は不死ではありますが、死なないだけでこのように怪我や腐敗は治せません。」


「神殿エリアは引き続き残りのメンバーで探すとして…

唯一、樹海エリアの一部がまだ崩壊しきっていないのです。」


 クラッシャーが、微かに眉間にシワを寄せる。


「ですが、そこに行くまでの道は崩壊している。そこで、ヒーラーさんの治癒能力を使いつつ、私が捜索してきます。」


「不死の私と、治癒のヒーラーさんがいれば、行けないところ等ない。万が一、そこに隠れられていると、我々は詰みです。」


「…。」


 クラッシャーは珍しく頭を抱え、黙り込む。色々と考えを巡らせているようだが…


「…良いだろう。」


 当然だ。

 崩壊したエリアは、クラッシャーでも行くことは容易じゃない。いかにヒーラーが大事とは言え、所詮自分が解放されれば死ぬ者。

 自分の命が一番大事なのだ。


「では、急ぎ向かいましょう。時間が惜しい。」


「は…はい。」


 私はしどろもどろと震えるヒーラーを急かす。


 振り向き、私はクラッシャーに告げる。

「…夜までには戻ります。」

 その言葉だけを残し、私は神殿を離れた。


◆クラッシャー


 日の沈みが、やけに遅い。

 神殿エリアの天井は高く、吹き抜けの果てには青い空が広がっている。

 だが今は、その高さが鬱陶しい。音が反響し、静寂が増幅される。


 玉座に座り、腕を組む。

 何度目かも分からないが、改めて掲示板を睨みつけた。


 一位:Runner

 二位:Crusher

 三位:Scavenger


 ……何も変わらない。


 ランナーの名が消えるでもなく、時間だけが過ぎる。


 鼓動が早くなる。


 「……チッ」


 舌打ちが、広間に響いた。

 それだけで、周囲の空気が一段、硬くなる。


 ほとんどの手下どもは散って捜索している。神殿の裏。崩れた壁の下。割れた床の隙間。


 誰も近づいてこない。

 ——それが、気に入らなかった。

 

「おい…!」


 低く呼ぶ。

 わりかし近くにいた男が、びくりと肩を震わせ、慌てて駆け寄ってきた。

「は、はいっ!」

 現在4位の男。元々スカベンジャー側についていた"チャレンジャー"という奴だ。


「ランナーは見つかったか」

「い、いえ……まだ……」


俯き気味に話す。その姿が余計にこの俺を苛つかせる。


「……本当に、ここにいるんだろうな」


 チャレンジャーは答えない。唇が動きかけて、止まる。

 クラッシャーの眉間に、自然と力が入る。

「いるんだろうな!!!?」

 「……い、います! いるはずです!」


 震えた声。

 周囲の手下たちも、こちらを盗み見る。

 誰もが、同じ疑問を抱いている。


 ——本当に、ランナーは神殿にいるのか。と。


ーーーーーーー


 壊すものは、もうほとんど残っていなかった。


 壁を殴れば、天井が軋む。

 柱を壊せば、瓦礫が自分たちの足場を奪う。

 俺の破壊は、もはや万能じゃない。


 それが分かっているから、余計に苛立つ。

「……逃げるだけのクソ野郎が」


 吐き捨てるように呟く。

 今まで、どんなに強い奴も、速い奴も、頭のいい奴も。

 最後は、壊せば終わった。


 なのに。


 戦ってすらいない相手に、

 ここまで苛立たせられるとは思っていなかった。


「ふぅー…。」

 何とか自分を落ち着かせていると、手下たちがこそこそと話しているのが耳に入った。

「……本当に、あと三日で……」  「……でも、もし……」 「……ランナー、ここにいなかったら……」


 次の瞬間、クラッシャーは立ち上がっていた。

 拳を振るう。

 壁が砕け、破片が飛ぶ。

 悲鳴が上がる。

 「余計なこと考えてんじゃねえ!!!」


 広間に、怒号が響いた。

 「ここにいる! いるに決まってんだ!!

 逃げ場はねえ! 俺が全部潰した!!!」

 手下たちは、黙り込む。

 俯き、息を殺す。

 ——だが、恐怖だけでは縛れない瞬間がある。

 それを、クラッシャー自身が一番分かっていた。


ーーーーーーー


 ヒーラーがいない。

 それが、じわじわと効いてくる。

 普段なら、すぐ後ろにいるはずの女。


 かすり傷でも、骨折でも、すぐに治した存在。

 今は、いない。

 スカベンジャーと一緒に、神殿を出ていったままだ。


 「……遅ぇ」


 誰に向けた言葉でもない。

 だが、その一言で、空気がさらに重くなる。

 スカベンジャーは不死だ。

 死なない。壊れない。

 理屈では、心配する必要はない。

 ……それでも。

 「……あいつら、どこまで行きやがった」


 自分でも気づかないうちに、指先に力が入り、玉座の肘掛けが砕けていた。


ーーーーーーー


 美しい星空が夜空を埋め尽くす。

 掲示板の光が、神殿の壁に長い影を落とす。


 一位:Runner

 二位:Crusher

 三位:Scavenger


 変わらない。

 誰も死んでいない。

 なのに、全員が追い詰められている。

 「……クソが」

 壊すものが、もう残っていなかった。


 神殿は広い。

 だが、この世界で残された、最後の箱だ。

 そのどこかに、

 姿も気配も掴めない“逃げるだけの一位”がいる。


 そしてもう一人。


 不死。狡猾。

 こちらの手札を一枚、持ち去った男。掲示板に名があるということは死んではいない。

 だが、夜になっても戻らないということは…


 クラッシャーは、ゆっくりと拳を握った。

 壊すしか、できない。

 壊す以外、やり方を知らない。


 それでも。

 「……明日だ」

 誰に言うでもなく、そう呟く。


 明日。

 もはや怒髪天を衝く形相のクラッシャー。

 神殿に、静寂が落ちた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ