第2話 知略巡らして生き残る
もうすぐ朝がくる。クラッシャーと一時的に協力関係を結べたことで、今日は少しくらい眠れるかもしれない。
今生き残っている者たちは、既に私の不死性を理解している。
そのため私を襲ってくるものはいないだろうが…念には念を入れなくては。
この世界では、静寂は安全を意味しない。むしろその逆だ。
"生き残れる者は絶対に1人だけ…"
そのルールによって、どれだけ徒党を組もうが根本で信頼は生まれない。
いま私の陣営には5人。クラッシャー側に7人。ランナー以外は全員味方ではあるが⋯。
どこで寝首をかかれるか。誰に背後をとられるか分からない。
「す、スカベンジャーさん!」
「⋯チャレンジャーか。ランナーの手がかりでも見つけたか?」
「いや…クラッシャーの野郎がまた暴れまして…。樹海のエリアでうちのスナイパーが腕を負傷しました…!
どうやら倒れた樹に腕が潰されたみたいで…。」
「…チッ!ふざけたヤツだ。」
「急ぎ、スナイパーの様子を見に、樹海エリアに行く。お前はこの火山エリアを任せた。」
「は、はい!」
◆
樹海エリアには、破壊の痕跡があちこちに残っている。
樹木が抉られ、地面が割れ、大きな広場ができている。クラッシャーがなりふり構わずランナーを探し回っているのだろう。
あの男は分かりやすい。
力を使い、恐怖を撒き、仮初の秩序を作る。
この世界では、それが一番長く生き残る方法でもあった。
「……少なくとも、これまではな。」
私は崩れた樹を踏み越え、ゆっくりと歩いた。
急ぐ必要はない。
「……スカベンジャーさん。すみません…。」
そこには、右肩から肘までが包帯で巻かれ、肘から先が無くなったスナイパーが倒木に背を預けて座っていた。
「仕方ない。とりあえず、ランナーらしき奴は見なかったか?」
「はい。ずっとスコープ越しに見ていたんですが、俺達以外の奴は通らず…。
そしたら突然爆音が鳴って、樹が倒れてきたんです!」
「クラッシャーの奴が樹を破壊し倒れたのだろうな。」
スナイパーは現在5位の男で、長距離からの精密射撃が得意な奴だ。
潜伏能力も高く、ランナー探しにも使える奴だったが…。
「その腕では、もうスナイパーは使えないか。」
「…とてもじゃないですが。
で、でもスコープは見れるのでこのまま潜伏して…!」
「いや、いい。」
俺はそっとスナイパーの手を握りしめ微笑む。
「いままでご苦労だった。お前はよく頑張った。後は私達に任せろ。」
「す、スカベンジャーさん…!」
そう労うと、スナイパーの体が痙攣し始める。
「え…!」
更に強くスナイパーの手を握る。
「す、すすふかんべんじゃーささん!?ななななナ゙ナニを!?」
そのままスナイパーは激しく震え口や耳から煙が巻き上がり、スナイパーは絶命した。
「本当によくやってくれた。後は、私達に…任せてくれ。」
私のスコアが6,700に上がった。
一人殺せば100スコア。更に1位〜5位を殺せば500〜100の追加スコア。
説明は無かったが、これまでの傾向から見るにこのスコア加算は間違いない。
「クラッシャーのスコアにならずに生き残ったことは、激しく褒めてやるよ。」
もう聞こえてはいないだろうスナイパーへの労いが、やけに大きく響く。
もちろん返事はない。
「さて…」
少なくとも今ランナーは、樹海エリアにはいない。
更に海エリアは死んだデストロイヤーとクラッシャーの激しい戦いによって、人が立ち入れるような状態ではない。
「神殿エリアはクラッシャーの拠点で…火山エリアは先程探していなかった。」
ランナーというからには走りに特化した能力だろう。そんなヤツが火山地帯などといった走りにくい場所にいる可能性も低い。
「残るは…常闇エリアか。」
私はまたゆっくりと歩き出す。既に太陽は真上から私を照らしていた。
◆
ー常闇エリアー
常に真っ暗で、何も見えない場所。広いのか、狭いのか…
穴や壁があっても分からないほど、漆黒の闇。時間の感覚もわからず、食料や水も無い。
こんな場所で25日…いやそれ以上何日も何か月も生活し続けているとは考えにくいが…。
私はスナイパーの右足を木に巻き付けた簡易な松明を取り出し周囲を照らし、ゆっくりと歩き出す。
全くの暗黒の中に、松明に照らされた私が一人。奥に奥にと進むが、何も無くひたすら真っ暗なだけ。
「こんなところにいるわけもないか。」
そう言って引き返そうと振り向くと…
「いたぞ!!」
「やれ!!」
遠くから一直線に炎が飛んできて、私の胸を貫く。
炎の矢
「アーチャーか。」
もう一本、矢が飛んできて私の脳天に刺さる。
「私だ!スカベンジャーだ!」
遠くにいる影にそう叫ぶ。
すると派手な金髪を後ろにながし、柄の悪いジャケットを羽織った大柄な男が歩いてくる。
「なんだよ、こんなところで歩いてるからランナーかと思ったぜ」
「クラッシャー…。お前が樹海エリアで暴れてくれたおかげでうちの者が一人やられたぞ。」
「あん?知らねえよ。
そんなところにいんのが悪いんだろ?」
「勘違いすんなよ。俺達は仲良しこよしの仲間じゃねえ。協力してるだけだ。
邪魔すんなら普通に殺すぜ。」
クラッシャーが右手を挙げると、後ろにいたアーチャーが構えていた弓を降ろす。
「まぁ、お前が本当に死なねえってのも分かったしな。
とりあえずは協力してやるぜ」
もう一度クラッシャーが右手を降ろすと、アーチャーが颯爽と常闇エリアが出ていく。
その瞬間、クラッシャーが地面に手をついた。
「ま、まてクラッシャー!」
ドゴォォオォオンン
激しい爆音と共に、常闇エリア全体が揺れる。
私は恐らく今開いたであろう床の亀裂に落ちた。
「ちまちま探すより、こーしたほうが速えだろ。
とりあえず、もしここに居るんならランナーの字も消えてるはずだ。」
そう言ってクラッシャーは破壊せずに残しておいた道を引き返していく。
◆
なんとか常闇エリアから出てきたときには、既に夜だった。
「クソクラッシャーめ…。」
奴は強すぎる。
だが、単純すぎる。
強さに頼る者は、強さでしか物を見ない。
それは弱点でもある。
掲示板を見上げる。
一位:Runner 8,900
二位:Crusher 7,800
三位:Scavenger 6,700
日数は27。
あと3日。
この数字を見て、焦る者は多い。だが、焦りは判断を鈍らせる。
私は、まだ動かない。
ランナーの能力の正体は分からない。
だが、ここまで生き残ってきた奴だからこそ言える。
——あれは、捕まらない。
だからといって、諦める気はない。
誰が一位になるべきかを。
誰が、最後に残るべきかを。
私は、掲示板をもう一度だけ見た。
(第二話・了)




