第1話 破壊し尽くして生き残る
第1話 破壊し尽くして生き残る
神殿エリアの中央。
掲示板の正面の床は、一段低くなっていた。
正確には、床が砕けて広い塹壕のようなスペースが出来ている。
俺は塹壕の中の壁に触れ破壊し、塹壕の中に小さな部屋が完成した。
「これからここが俺達の仮拠点だ。」
俺が話すと、周囲の連中が息を呑む。
俺を畏れる視線が集まる。
ここに残っている人間は、もう分かっている。
俺に逆らえば即座に殺されるということを。
「俺達は別に仲間じゃねえ。
だが…。」
言いながら俺は掲示板を見上げる。
順位 スコア
一位:Runner 8,900
二位:Crusher 7,800
三位:Scavenger 6,500
「"奴"が1位になってから二十五日。このままいけば、奴が解放され俺達は全員死ぬ。」
ランナーのスコアの横には経過日数が25日と表示されている。
表示された日数が、やけに目について苛立ちが募る。
舌打ちしたくなるのを、歯を食いしばって堪えた。
「…死ぬんだぞッ!!!」
俺の突然の怒号で、周りの奴らは震えて顔を伏せる。
「一時的とは言え、俺達は運命共同体だ。とにかくランナーを見つけ出して殺す。それまでは協力関係だ。それまではーーー」
一人のみすぼらしい男が突然口を開く。
「で、ですが⋯見つけ出すと言ってもランナーは全く素性も分かってなくて⋯!
今まで誰も見たことも⋯え?」
俺はその男の肩を叩き、微笑む。
そしてその男は割れた風船のように破裂した。
「俺が話している途中だろうが!!」
「ヒィッ!」
「う、うわ!」
「良いか?俺の邪魔をする奴は容赦なく破壊する。
それが俺の力だ。」
クラッシャーの名の通り、圧倒的で絶対的な"破壊"の力。残り少ない生存者を殺す必要は無かったが、見せしめも大切だ。
「だが、確かにコイツの言うとおりでもある。厄介なのはランナーの頭脳でも能力でもない。
"何一つ不明なこと"だ。」
ランナーは俺がこの世界に来る前から掲示板に表記されていた。そのときはまだまだ下位の方だったが、長い長い戦いの果てに、気づけば1位になっていた。
一位になるような奴は、だいたい調子に乗る。1位になれるだけの能力を誇示し、上位のランカーを殺し、見せつけていた。
そうやって目立って手の内を晒した挙句、殺される。
1位の維持日数が二十日を越えた奴すら、ほとんどいない。
ましてや二十五日なんて、あり得ない。
ランナーは恐らく、誰とも戦っていない。殺した痕跡がなく、派手な能力の噂もない。
なのに、一位にいる。
生存ボーナスだけで、ここまで来たということだ。
——もちろん特殊な能力を持っている可能性もあるが⋯
それにしても情報が何も無さすぎる。
俺は振り返り、後ろに控えていた連中を見渡した。
ここにいるのは7人。
そして掲示板に表示されている最下位の順位は13位。
つまり、既に生き残っている生存者は13人だけ。
「もう一度言うが⋯」
俺が一歩踏み出すと、空気が張りつめる。
「このまま五日経てば、俺たちは全員死ぬ」
誰も反論しない。
それは事実だからだ。
「だから一位を探し出して殺す。それだけだ」
単純な話だ。
それ以上でも以下でもない。
誰かが喉を鳴らした。
別の誰かは目を伏せた。
恐怖の眼差しもある。
だが、逃げ場はない。
俺は壁に手をついた。
触れた瞬間、石が崩れ落ちる。
粉塵が舞う。
「草の根分けて⋯土壁ぶっ壊してでも探し出せ。」
脅しではない。
確認だ。
全員、勢いよく返事をして飛び出していった。
逆らえば、今殺すだけ。
選択肢は一つしかない。
◆
残り5日
夜
ランナーの手がかり一つ見つからず、今日が終わる。
奴のことが頭から離れない。
逃げて隠れているだけの一位。だがそれがこうも脅威だとはーーー
そのとき、空気が揺れた。
気配が変わる。
「……誰だ!?」
俺は、急ぎドアのほうを見た。ドアにはトラップを仕掛けており、開ければ壁が崩れ圧死させる。
とはいえ、安心は出来ない。
「もしかして…ランナーか!?」
姿は見えない。
だが、ドアの向こうから声がする。
「落ち着いてください。戦う気はありません。
…私はスカベンジャー。」
スカベンジャー。
三位。
能力は確か…"不死"。
「…なんの用だ。お前は刺そうが潰そうが死なないと聞いたことがある。ふざけた力だが、俺とやり合いに来たのか?」
「そんなそんな!あなたと戦う気はありませんって。
死なないとは言っても、戦う能力はありません。
私は死なないし、"殺せない"ようなものです。」
「なら、なんの用だ?」
「もちろん、ランナーについてのお話が。」
奴の名を聞き、一瞬呼吸が止まった。
「……続けろ」
スカベンジャーの話は、おおよそ今朝俺が話したことと同じだった。
ーーー協力して、ランナーを探し出し、殺す。
人前に出ない。
決まった拠点を持たない。
「正面から捕まえるのは無理でしょう。」
それは、俺も感じていた。
「とにもかくにも、見つけ出さないことには話になりません。」
逃げることに特化した一位。
確かに、一人でも人手は多いほうがいい。
「既に、私には5人の仲間がいます。今朝、あなたのお仲間から話を聞きましたが、そちらは7人いるとのこと。」
「つまり…」
「ランナー以外、全員集まったってわけか。」
俺は、ゆっくりと掲示板を見上げた。
一位:Runner(経過日数26日)
0時を超え、26日が経過していた。あと4日。
このままでは、俺は死ぬ。
——それだけは、受け入れられない。
「いいだろう」
俺は答えた。
「逃げるだけの一位を、終わらせる」
ドアの向こうで、スカベンジャーが笑った気配がした。
狩りが、始まる。
(第一話・了)




