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プロローグ 説明を聞いて生き残る


 目を覚ました瞬間、視界の中央に文字が浮かんだ。


『あなたは選ばれました』


 声はなく、音もない。

 意味だけが直接、視界に映し出されている。

 僕は反射的に身体を起こした。


 神殿のようなつくりの広間にいた。石造りで、天井は高く、何人かの人間が僕と同じように床に散らばっている。

 年齢も服装もばらばらだ。誰もが混乱し、同じように周囲を見回していた。


『ここは異世界です』


『あなた方は転移者です』


 ざわめきが起きる。怒号、悲鳴、質問。


 だが文字は、それらを無視して続いた。


『これはゲームです』


『参加者は最大百名』


『目的は一つ』


 目の前の壁一面が淡く光り、巨大な掲示板が現れる。


 その掲示板には三列の表示があった。


 順位

 コードネーム

 スコア


『ランキング一位を維持しながら、三十日間生存してください』


『目的達成者はこの世界から解放されます』


 解放されるーーー小さな安堵が広がりかけた、その直後。


『達成者が現れた場合、残った参加者は全員死亡します』


「全員、死亡…?」

 空気が一瞬で冷え切った。


『スコアは以下の条件で増減します』

 淡々と続く説明に、人々は叫び、怒り、暴れる者もいた。

 だけど僕は、冷静にとにかく落ち着いて説明に集中する。


『他参加者の殺害』

『及び殺害した相手の順位に応じた追加加点』

『そして、生存ボーナス』


 誰かを殺せば、スコアが増える。

 そして殺されなければ、生き残っているだけでも点は入る。


『参加者にはそれぞれ、コードネームと一つの特別な力を与えます』


 視界に、自分のコードネームらしき文字が浮かぶ


『Runner』


『以後、あなたはその名で管理されます』


 ——ランナー。


 走る者…。意味は分からない。ただ、否定する気にもならなかった。


『最後に』

『一位が死亡した場合のみ、新たな転生者が追加されます』

『参加者の合計が百名になるまで補充されます。』


 誰かが声を荒げた。

「戦わないといけないのか!?」

その声に呼応するように、さまざまな声があがる

「こんなのやってられるか!」

「家に帰してよ!」


 返事はなかった。

 

 僕の中で、一つだけはっきりしていることがある。

 ——ここに留まれば、死ぬ。


 僕は騒ぐ人たちをかき分け、すぐにその場から逃げた。


 能力を試す者。徒党を組む者。膝を抱える者。

 僕は、それらを横目に、とにかく人のいないところへ走り出した。


 視線を避け、人混みを抜け、そのまま走る。


 足がよく動いた。


 ◆


 この世界には、恐らく5つのエリアがある。火のエリアや樹海のエリア、海のエリア…

 そして各エリアの中央部分に大きな広間があり、そこにランキングを表示した掲示板もある。

 

 僕が神殿エリア(と勝手に呼んでいる)から逃げ出したあと、すぐにランキングのトータル人数は80人まで減った。

 恐らく、あそこに居た人達のほとんどが殺されたのだろう。

 

 ルールを聞いて、掲示板を見たとに、既にスコア7,000程で1位の者がいた。僕らは『補充者』だったのだろう。

 既にゲームは始まっており、1位が死に、僕らが補充された。そして補充されるタイミングが明確なのであれば、そのタイミングを見計らってまだ何も分からない者を狙う奴らもいるだろう。


 とにかく逃げること。生き延びること。

 僕のデスゲーム生活が始まった。



 それからの日々は、数える意味を失っていった。


 一位は何度も変わった。

 説明のときにあった『特別な力』は多様なものがあるようだ。

 ある者は毒ガスを撒き、またある者は周囲の温度を操った。

 強力な能力を持つ者が現れ、掲示板の最上段に名を刻む。


 だが、そんな者も二十日も経たずに殺される。


 僕の見た最長生存日数は22日。

 遠目で見たが、その人は凄かった。

『デストロイヤー』のコードネームで、手を振るうだけで人々が紙切れのように刻まれ爆散する。周囲の地形を変えるほどの爆発を起こし、海のエリアは今も続く死の土地となった。


 そんなデストロイヤーの名も、ある日突然掲示板から消えた。誰か更に強い者が現れたのか、不運な事故か。


 そして一位が死んで、世界は静かに揺れ、新たな転生者が現れた。


 補充された数も、すぐに減った。

 九十。七十。五十。

 1位以外が死んでも補充はない。


 空席が増えるだけ。

 

 僕は誰とも戦わなかった。

 恐らくコードネーム通り、僕の能力は早く走ること。他の人たちと比べて、明らかに弱い。


 逃げた。

 隠れた。

 生き延びた。


 気づけば、掲示板の下の方にあったRunnerの名が、少しずつ上がっていた。


 長い永い間逃げ延びて、生存ボーナスだけでゆっくりとランキングが上がっていく。


 とにかく足が速かった。

 見つかることもあったが、走り、谷を飛び越え、瓦礫に身を隠し、崖をよじ登った。


 生き残るだけで、僕は1位になることが出来た。

 気づけば、Runnerというコードネームは、周囲の者たちから『未確認ランカー』として追われるようになった。


 ◆

 

 僕が1位になって、25日が経過した。

「あと…5日。5日生き残れば、この世界から解放される。」


 崩れた建物の陰。


 僕は壁に背を押し付け、息を殺していた。

 伸び切った髪と髭。長いこと自分の姿を見ていないが、きっと周りから見れば浮浪者か、はたまた仙人か。

(この世界から解放されたら、何をしようかな…)


 そんな呑気な事を考えていると、すぐそばで声がした。すぐに神経を巡らせ、集中する。

(危なかった…。)

 少しでも気を抜けば、弱い僕はすぐに見つかり瞬殺されるだろう。


「……ランナー、まだ一位だ」 「二十五日だぞ。今まで、ここまで保った奴はいない」

「まずいぞ、このままじゃ、俺達全員死ぬぞ…!」


 低い声が続く。


「2位のクラッシャーが動く」

「3位のスカベンジャーと組むらしい。」

「とにかくランナーを殺さなければ、俺達は全員終わりだ。」


 もうずっと掲示板を見ていない。掲示板周辺には人が多い。

 その分、狙われることも増えるからだ。


 視線が怖い。空気が恐い。


 ——自分がまだ一位であることを周囲の声で確認する。


 掲示板は見ていないが、自分が1位になって随分経つ。きっと生存者も少なくなっているはずだ。

 最初はあちこちで激しい戦闘音や能力を試す音が飛び交っていた。怒声や絶叫が響いていた。

 しかし最近はやたらと静かだ。もしかしたら既に2〜30人くらいまで減ってるのかもしれない。

 

 話し声が遠くなり、主人公は、そっと後退する。

 音を立てないように、影から影へ。


 考えることは一つだけ。

 逃げる。

 隠れる。

 生き残る。

 足に力を込めると、身体は軽く前へ出た。


(第一話・了)


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