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第3話 復讐への案内状

 8月下旬。夏休みも終わりが近づき、事故から数週間が経った。


 美咲は奇跡的に目を覚ましたが、両親と兄の大輔、姉の彩奈、が亡くなったことを知らされた。次男の健太は未だ目を覚ましていないが、予断を許さない状態だ。美咲は涙が止まらなかった。しかし体のダメージは大きく、涙すら拭けない。悔しくて悲しくて、絶望に飲み込まれた。


 警察の捜査は難航。美咲の脳裏には、あの加害者の男の嘲笑うように発した「見たかよ今の!映画かっつーの!」という言葉を思い出し、

 絶対に許さない。必ず死刑台に送ってやる!

 そう誓った。


 9月中旬。美咲は退院した。弟の健太は、未だに昏睡状態だ。


 ある日の夕方。買い物帰りの美咲の横に、一台の黒塗りの高級車が音もなく停車した。


「美咲さんで、間違いないですね?」


 助手席の黒いスーツを着用した男が、スマートフォンに流れている動画を美咲に見せる。そこには縄で拘束され、正座させられた男と女の姿があった。


「ここはどこだ! さっさと解放しろ!!」

「私は関係ないじゃない! こいつが勝手に煽って、あの家族も運転が下手で勝手に死んだんだろ! 私には関係ない!」

「は? 嘘つくな! お前がそもそもあいつらを驚かしてみてよ! って言ったんだろうが!!」


 そのやりとりを聴いて、美咲は目を見開いた。同時に、血が沸騰するような感覚を覚え、反射的にスマートフォンを持っている男の腕を掴んだ。


「あ、あのっ、これは……」


 戸惑う彼女を無視し、男が動画をスワイプすると、そこには自分の国の首相、伊達宗一の姿が映っていた。

「首相からのメッセージです」


「美咲さん、私たちはあなたの味方です。そしてこのことは、誰にも内緒でお願いいたします」

 後部座席のドアが開く。 

 動画内の首相は優しく丁寧な口調で、車に乗るよう美咲を案内する。

 不安はあったが、体が震えるほどの抑えきれない怒りに突き動かされ、美咲は車に乗り込んだ。


 車内に入ると、運転席のヘッド部分に設置されたタブレットに、録画された首相の動画が流れ始めた。

「私はこの国の責任者、伊達宗一です。美咲さん、あなたは今、とても不安だと思いますが、安心してください。その黒服は、私が最も信頼している者達です。お腹が空いたりトイレに行きたい時は、遠慮なく言ってください」


 首相が自分の名前を呼んでいる。何とも不思議な感覚に、美咲はまだ理解が追い付かなかった。


「今回の事件、本当に酷い。あなた方には全く非がない。加害者の自己中心的な考えが起こした、()()()()だ」


 美咲は首相の言葉を聞いて、涙が溢れ出した。なぜならネット上には、被害者だとしても、高速道路を突き破るような運転をする奴が悪い。高速利用者とは関係のない一般道を走る人間を巻き込むな!など、父親を攻める心無い言葉が散見されたからだ。


「私はあまりに理不尽で許せない事件に対して、被害者の心が少しでも救われるような活動をしています。司法の裁きでは、被害者が救われない事を知っているから……」


 穏やかだが、強い意志を感じさせる声だった。


「あなたに、復讐の場をもうけました」

 その言葉に、ドクンと胸が高鳴るのを感じた。

 復讐って……?


 動画が終わり、美咲は涙を袖で拭った。助手席の男が口を開く。


「美咲さん、あなたは何もしなくてもいいし、我々に何かしてほしいのなら、その通りにしましょう。問題がなければ、運転手に”連れて行って”と伝えてください」


 美咲は静かに、しかし決意を込めて告げた。


「連れて行ってください」


 すると車はどこかへ向けて、ゆっくりと動き出した。



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