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神代記  作者: 両亭
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十五節~十九節

十五、倭地莫海。然併刈部初在海。下照彦尊游海辺、観娘泣。下照彦尊尋曰「何汝泣」娘応曰「妾国祇『国主魂尊』娘也。而為所嫁於海神。故妾泣」聞之、下照彦尊「行海宮而諫之」潜洋而赴海宮。


十五、倭地は海なし。然るに刈部を(あは)せて初めて海あり。下照彦尊、海辺に(あそ)べば、娘の泣くを()る。下照彦尊尋ねて曰はく「何ぞ汝泣かん」と。娘応へて曰はく「妾は国祇(くにつかみ)国主魂尊(クニヌシタマノミコト)』の娘なり。而れども海神に嫁ぐところとなる。故に妾泣く」と。これを聞きて、下照彦尊「海宮行きてこれを諫めん」と。洋に潜りて海宮(ワタツミヤ)へ赴く。


十五、倭地には海がなかった。そうしたところ、刈部を併合して初めて海ができた。下照彦尊が海辺を歩き回っていると、娘が泣いているのを見かけた。下照彦尊は「どうして泣いているのか」と尋ねた。娘は「わたしは国の神『国主魂尊』の娘です。そうであるのに海の神に嫁がされることになりました。それで私は泣いているのです」と答えた。下照日尊は「わたしが海の都に行ってきて、それを諫めてきましょう」と言った。そうして海に潜って都に向かった。



十六、下照彦尊至海宮而謁瀬海神。下照彦尊曰「天為治所母神、海為知所君。而地為領我。大神不与地海、我亦不関天海。当君斯。今、君将娶地祇女、是係地事。何為越也」海神応曰「甥言之然矣。然有契。不能反契。而今新契、爾剝鮫皮于海底而、献之。以為新契。」下照彦尊承之而潜底。


十六、下照彦尊、海宮に至りて瀬海神に謁す。下照彦尊曰はく「天は母神の治むるところとなる。海は君が知るとこととなる。而して地は我が()るなり。大神は地海に与らず、我また天海に関はらず。当に君、斯なるべし。今、君将に地祇の女を娶らんとすれば、是は地事に係る。何ぞ越を為さんや」と。海神応へて曰はく「甥の言これ然り。然れども契あり。契に反る能はず。而るに今、新たに契せん、爾、海底にて鮫を剥ぎて、これを献ぜよ。以って新たに契となさん。」と。下照彦尊、これを承りて底に潜る。


十六、下照彦尊は、海の都にいって、瀬海神に謁見した。下照彦尊は「天は(私の母である)天日主大神に治められています。海はあなたに支配されています。そして地は私に支配されております。大神は地や海のことに関与しません。わたしも天や海のことに関わりをもちません。ですので、当然あなたもそうべきです(天地のことに関わるべきではない)。今、あなたは国の神の娘を娶ろうとしていますが、このことは地のことにかかわることです。どうして領分を越えたことをするのでしょうか」と言った。海神は「甥のいうことは、もっともだ。しかし約束をしてしまった。約束を違えることはできない。そこで今、新しく約束しようと思う。お前は海底に行って鮫の皮を剥ぎ、それを私に献上してほしい。これを新しい契約としよう」と答えた。下照彦尊はこれを承諾して海底に潜っていった。


十七、下照彦尊至底。大鮫在。其丈百尺。下照彦尊以短刀此自腹突而裂之、為逆剝。瀬海神鎖海門則下照彦尊不能出海而薨。


十七、下照彦尊底に至る。大鮫あり。其丈百尺。下照彦尊短刀をもて此れ腹より突きてこれを裂きて、逆剝となす。瀬海神海門を(とざ)せば、則ち下照彦尊不能海を出る能わずして(みまか)る。


十七、下照彦尊は海底に到達した。そこには大鮫がいた。その丈は百尺。下照彦尊は短答で腹からこれを突き刺し、引き裂いて逆剥(通常とは逆方向で剥ぐこと)にした。瀬海の神は海の出入り口を封鎖したので、下照彦尊は海から出ることができず死んでしまった。



十八、下照彦尊至黄泉。別世王神問名、下照彦尊不答。別世王神復尋、下照彦尊猶不応。而下照尊彦尊七日不語七晩不言。又七日不喰七晩不眠。別世王神曰「汝不語冥言、不食冥菜、不臥冥土。非冥人。安非冥人者、在于黄泉」下照彦尊猶不語一言、則別世王神追之於黄泉。


十八、下照彦尊黄泉に至る。別世君神、名を問ふ、下照彦尊答へず。別世君神復た尋ぬ、下照彦尊、猶ほ応へず。而して下照尊彦尊、七日語らず、七晩言はず。又、七日喰さず、七晩眠らず。別世君神曰はく「汝冥言を語らず、冥菜を食さず、冥土に臥さず。冥人にあらず。安んぞ冥人にあらざる者、黄泉にあらんや」と。下照彦尊、猶ほ一言も語らざれば、則ち別世君神これを黄泉より追ふ。


十八、下照彦尊は黄泉にきた。別世君神は名前を問うたが、下照彦尊は答えなかった。別世君神は再び尋ねてみたが、やはり下照彦尊は答えなかった。こうして、下照彦尊は七日何もしゃべらず、七晩何も言わなかった。また七日何も食べず、七晩眠らなかった。別世君神は「お前は、あの世の言葉を話さず、あの世の食べ物を食べず、あの世の土に寝ない。あの世の者ではない。どうしてあの世の者でもない者を、あの世に置いておくことができようか」と言った。下照彦尊は、それでも一言も話さなかったので、別世君神は下照彦尊を黄泉から追放した。



十九、瀬海神見下照彦尊薨而開海門。然後下照彦尊返海。下照彦尊出海、復謁瀬海神。瀬海神驚而曰「地君、天之子而戻於黄泉。改契、已娶地祇女。又讃爾勇而在若爾子、則使我娘嫁爾子」而饗下照彦尊。下照彦尊戻地、娶地祇娘。地祇娘曰「国祖姫」。


十九、瀬海神、下照彦尊が薨るを見て、海門を開く。然る後、下照彦尊、海に返る。下照彦尊、海より、出で、復び瀬海神に謁す。瀬海神驚きて曰はく「地の君、天の子にして黄泉より戻る。改めて契り、娶地祇女を娶るを已めん。又、爾の勇を讃えて、若し爾に子あれば、則ち我娘を爾の子に嫁がしめん」と。而して下照彦尊を饗す。下照彦尊、地に戻り、地祇娘を娶る。地祇娘は「国祖姫(クニオヤヒメ)」といふ。


十九、瀬海神は、下照彦尊が死んだのを見て海の門を開いた。その後、下照彦尊は海に戻った。下照彦尊は海から出ると、ふたたび瀬海神に謁見した。瀬海神は驚いて「地の君よ。天の子供なのに、黄泉より戻る。改めて約束しよう。わたしは国の神の娘を娶るのをやめよう。また、お前の勇気をたたえ、もしお前に子供ができたら、私の娘をお前の子に嫁がせよう」と言った。下照彦尊は地に戻ると、国の神の娘を娶る。娘は国祖姫という。


十五節から十九節は、もともと天神であった下照彦尊が地の支配者としての性質を獲得する物語。すなわち海の試練に立ち向かいこれと融和し、さらに地の神の娘をえることで、「国の支配者としての天孫」が確立するという内容。


十五、

「倭地莫海」:もともとの「倭地」は、大倭嶋の内陸にあった。刈部の郷を滅ぼし、刈部族の支配地を併合してはじめて海に面したということ。

国主魂神:国土の神。


十六、

「天為治所母神~」:天は天、地は地、海は海と領分を分ける発言。これから、神代がおわり人代となることを示唆。



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