第十一~十三節
十一、天日主大神欲自治地。智神諫曰「君最貴神於天也。又莫君孰照天地乎。請已下於地」大神答曰「汝言、然。而不能委。故命天幼日治地」故天幼日尊下地。
十一、天日主大神自づから地を治めんと欲す。智神、諫めて曰く「君は天において最も貴き神なり。又た君なくして孰か天地を照らさんや。請ふ地に下るを已めよ」と。大神答へて曰はく「汝の言、然り。而れども委ぬるを能わず。故に天幼日に命じて地を治めしむ」と。故に天幼日尊、地に下る。
十一、天日主大神はみずから地を治めようとした。智神がこれを諫めて「あなたは天でも最も尊い神です。また、あなたが天からいなくなったら、誰が天地を照らすのでしょうか。地に下るのはやめてください」と言った。大神は「お前の言うことはもっともだ。しかし、他にゆだねることもできない。そこで(息子の)天幼日に命じて地を治めさせようと思う」と答えた。そういうわけで天幼日尊は地に下った。
十二、天幼日尊降於九馬辺、崑州山麓。曰「之我都哉。号曰倭都」倭都者我都也。倭都四方十里民尽従。故此地曰「倭地」、国号「大倭」
十二、天幼日尊、九馬辺に、崑州山麓に降る。曰く「これ、我が都かな。号して曰く倭都」と。倭都は我が都なり。倭都四方十里の民、尽く従ふ。故に此の地を「倭地」と曰ひ、国「大倭」と号す。
十二、天幼日尊は九馬の周辺、崑州山のふもとに降臨した。そして「これこそわが都だ。倭都と名付けよう」と言った。倭都とは「わが都」という意味である。倭都四方四十里の民衆はことごとく従った。そのためこの地を倭地といい、国号を大倭という。
十三、倭地西民至倭都曰「戎数侵我郷。」天幼日尊嘆西戎不従大倭而尋於母神曰「何以令戎従大倭」大神、賜天鏡、応曰「以崑湖水、可磨天鏡」天幼日尊赴崑湖而磨天鏡。然戎囲之。戎或携槍、或番矢。天幼日尊、惟将死而見天鏡。天鏡自発光。故戎悟天幼日尊天神子、拝心服。戎導天幼日尊於瑠坂、大饗。戎謂「飼奴」其長「民祖尊」也。民祖尊曰「君、地之日也。故此後、宜称『天下照彦』又孤在衆。孤献一子於君」子謂力達尊。下照彦尊与力達尊倶還於倭都。尚力達尊者民祖尊之次子也。長子謂牛利尊。以牛利為嗣子。他在千子。牛利者稗田氏祖。力達尊者朝氏祖。
千子為万民祖。
十三、倭地の西民、倭都に至りて曰く、「戎、数、我郷を侵す」と。天幼日尊、西戎大倭に従はざるを嘆きて母神に尋ねて曰く「何を以って戎を大倭に従はしむ」と。大神、天鏡を賜りて、応へて曰はく「崑湖の水を以て、天鏡を磨くべし」と。天幼日尊、崑湖に赴きて天鏡を磨く。然るに戎これを囲む。戎、或は槍を携え、或は矢を番ふ。天幼日尊、将に死なんと惟ひて天鏡を見る。天鏡自づから光を発つ。故に戎、天幼日尊の天神の子たるを悟り、心服して拝す。戎天幼日尊を瑠坂に導きて、大いに饗す。戎は「飼部」と謂ふ。其の長「民祖尊」なり。民祖尊曰はく「君、地の日なり。故に此の後、宜しく『天下照彦』と称すべし。又、孤に衆く子あり。孤、一子を君に献ぜん」と。子は力達尊と謂ふ。下照彦尊と力達尊は倶に倭都に還る。尚、力達尊は民祖尊の次子なり。長子は牛利尊と謂ふ。牛利をもって、嗣子となす。他に千子あり。牛利は稗田氏祖なり。力達尊は朝氏の祖なり。千子は万民の祖と為る。
十三、倭地の西の辺境の民が、倭都にきて「蛮族がしばしば侵入してきます」と訴えた。天幼日尊は異民族が大倭に従っていないのを嘆いて、母である天日主大神に尋ねて「どうやって蛮族を従えさせようか」と言った。大神は天鏡を与えて、「崑湖の水でこの鏡を磨きなさい」と言った。天幼日尊は崑湖に赴いて、その水で鏡を磨いていると、蛮族に囲まれていた。蛮族はある者は槍を構え、ある者は矢をつがえていた。天幼日尊は、もう死ぬのだろうと思って鏡を見ると、天鏡は自然と発光した。そのため蛮族は彼が天神の子であると悟って、心から服従してひれ伏した。蛮族は天幼日尊を瑠坂に案内して、そこでおおいにもてなした。蛮族の長は民祖尊という。民祖尊は「君は地上の太陽である。なので天下照彦と名乗るのがよい。また私にはたくさんの子供がいる。あなたの家来に一人を差し出そう」と言った。その子は力達尊という。下照彦尊と力達尊は一緒に倭都に帰った。なお力達尊は民祖尊の次男である。長男は牛利尊という。牛利が後継者であた。他に千人の子供がいた。牛利は稗田氏の先祖である。力達尊は朝氏の祖先である。ほかの千人の子供はおおくの民(平民)の祖となった。
十二、
九馬:倭地の東方にある地域。
崑州山:天に続くとされる聖山。倭都はこの麓にある。また、大倭や倭地をもって崑州ともいう。
倭:わ(=一人称)に通じる。すなわち大倭国とは「おおいなるわたしのくに」の意
十三、
戎:西方に住む蛮族のこと
「天鏡自発光~」:鏡はその者の真の姿を映す象徴。天幼日尊は旭の神なので、真の姿を反映して自然に発行した。
「拝心服」:孟子の王道思想の影響がみられる。
民祖尊:民(の魂)の神格。
天下照彦尊:天幼日尊の別名。下照彦は暁に太陽が下から現れる(天の下から照らす)ことを表す。
力達尊:力の神
牛利尊:家畜の神
稗田氏:大倭の有力氏族。多くの文官を輩出した。
朝氏:大倭の有力氏族。多くの武官を輩出したが文官を出すことはまれであった。同じく武官を多く出した真海氏は文官も多く輩出しまた近衛の性質があったのに対し、朝氏は外征軍の長官などに任命されることが多かった。




