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神代記  作者: 両亭
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第一節~第五節

一、始莫上下於天地。只存無而已。無気満而生無神「暮明神」。然無非無。暮明神忽隠而生「神祖神」、「神巣神」。両神之気遍満於世。於是在天地。軽昇為天。重淀沈為地。而生「至物神」。然物有本末事有終始。於是生「乙神」、「御陰神」然在男女。於是男女神、欲産神而成国。


一、始め天地に上下なく。ただ無のみ存り。無気満ちて無神「暮明神(クラカリノカミ)」生まれる。然るに無は無にあらず。暮明神は忽ち隠れて「神祖神(カモヤツカミ)」、「神巣神(カムスノカミ)」を生ず。両神の気、(あまね)く世に満ちて、ここにおいて天地あり。軽きは昇りて天をなし。重きは淀み沈みて地となる。(しこう)して「至物神(モニタリノカミ)」を生ず。然れば物に本末あり事に終始あり。ここにおいて「乙神(ヲトノカミ)」、「御陰神(ホトノカミ)」を生ず。然れば男女あり。ここにおいて男女神、神を産みて国を成さんと欲す。


一、はじめ天地には上下がなく、無だけが存在した。無の気が満ちると無の神、暮明神が生まれた。そうすると(無の神という存在が存在しているので)無は無ではなくなった。そうすると暮明神はたちまち隠れて、そこから神巣神、神祖神が生まれた。両神の気があまねく満ちると、そうして天地ができた。軽い気は昇って天となり、重いものは下によどみ沈んで地となった。こうして(上下天地の別ができると)至物神が生まれた。そうして、物に先っぽと末端、はじめと終わりの区別ができた。そうすると、そこから乙神と御陰神が生まれた。こうして男女が存在した。男女の神は、神を産んで国を作ろうと思った。




二、男女神契而交。然後産六神。曰天火神、天木神、天土神、天金神、天水神、背徒神。此内、五神産同時而背徒耳遅生。男女神見之、惟凶事。而男女神自天放季子而使背徒没於淀海。


二、男女神、契りて交はる。然る後六神を産む。曰はく天火神(アマツヒノカミ)天木神(アマツキノカミ)天土神(アメノツチノカミ)天金神(アマツカネノカミ)天水神(アマツミズノカミ)背徒神(サダノカミ)。このうち、五神は同時に産まれ、しかれども背徒のみ遅れて生ず。男女神これを見て、凶事と(おも)ひ。而して男女神天より季子(すゑご)を放ちて背徒をして淀海に没せしむ。


二、男女の神は契って交わった。そうして六神を産んだ。これは、天火神、天木神、天土神、天金神、天水神、そして背徒神である。このうち(天火神から天水の神までの)五柱の神は同時に産まれた。しかし背徒神だけは遅れて生まれた。男女の神はこれをみて、不吉なことだと思い、背徒を天から海に放り込んだ。




三、男女神委天治五行神而隠。因背徒神没海、増水将達天。天土神凝淀而成大地。曰大倭嶋。水固嵩減。然波強被梳地端。天木神植木於大倭嶋、留土。於茲、土与淀空隙在。是謂黄泉。自淀生「別世君神」(曰冥界之神格)、「誘別世神」(曰死之神格)。


三、男女神、委ねて五行神をして天、治めしめて隠る。背徒神海に没したるによりて、増水将に天に達さんとす。天土神、淀を凝りて大地を成し。大倭嶋と曰ふ。水は固まりて嵩減ず。然れども波強くして地端(けず)らる。天木神、木を大倭嶋に植えて、土を留む。ここにおいて、土と淀とに空隙あり。是れ黄泉と謂ふ。淀より「別世君神(コトヨノキミノカミ)」を、「誘別世神(コトヨイザナフノカミ)」を生ず。


三、男女神は、五行神に天をゆだねて治めさせ、自分たちは隠れた。背徒が海に没したせいで、淀海は嵩が増し、水が天に達する勢いであった。天土神は淀海の一部を固めて大地を作った。これを大倭嶋という。しかし今度は波が強く、大倭嶋が削られてしまった。天木神は大倭嶋に樹を植えて波によって大地が削られぬようにした。このとき、淀海と大地との間に隙間ができた。この隙間を黄泉という。隙間の底にたまった淀から「別世君神」と「誘別世神」が生まれた。




四、久之、背徒神至於大倭嶋。背徒神曰「当治之」以従獣、欲弑天神。五行神相諮如何処弟神。於是、生「智神」(曰知之神格)。五行神尋曰「如何地之事」智神応曰「集五行之気、以納之於壷、投地」


久之(きゅうし)、背徒神大倭嶋に至る。背徒神曰く「当にこれを治むべし」と。以て獣を従へ、欲天神を(しい)さんと欲す。五行神相(はか)如何(いか)に弟神を処す。ここにおいて、「智神(とものかみ)」生ず。五行神尋ねて曰はく「地の事や如何(いかん)」と。智神(こた)へて曰く「五行の気集め、以ってこれを壷に納め、地に投ぜよ」と。


四、しばらくして、背徒神は大倭嶋にたどり着いた。背徒神は「これこそ私が治めるべき土地」といって獣を従えて、天の神を殺そうとした。五行神は互いに弟にどう対処するか相談した。このとき「智神」がうまれた。五行神は智神に「地のことをどうすべきか」と尋ねた。智神は答えて「五行の気を集めて壷に納め、これを地に投げろ」と答えた。




五、背徒神欲至天。天火神蒸淀海。以使生天地間。曰空気。是於生「浮不見神」。是以背徒神難至天。天金神鍛金。是於生「割久霊神」(曰武神)。五行神命割久霊神攻背徒。割久霊神以祓剣阻背徒神至天。

然後割久霊神忽反天。五行神投壷。神壷輝如万光、焼地、水悉蒸、淀凝而為金、生如大樹雲、大雨降。雨為洋。背徒神砕四方没洋中。

於茲、自輝「天日主大神」生、光鎮時、「闇統神」生、自大雨「瀬海神」生。


五、背徒神天に至らんと欲す。天火神淀海を蒸す。以って天地の間生ぜしむ。空気といふ。ここにおいて「浮不見神(ウキミヘズノカミ)」生ず。これを以て背徒神天に至り難し。天金神、金を鍛う。ここにおいて「割久霊神(ワリヒサタマノカミ)」生ず。五行神割久霊神に命じて背徒を攻めさしむ。割久霊神、祓剣(ハラヘツツルギ)を以て背徒神の天に至らんを阻む。

然る後、割久霊神忽ち天に反る。五行神壷を投ず。神壷、万光のごとく輝き、地を焼き、水悉く蒸し、淀凝りて金と為し、大樹のごとき雲生じ、大雨降る。雨は洋と為り。背徒神は四方に砕け、洋中に没す。

ここにおいて、輝より「天日主(アメノヒヌシ)大神(ノオホカミ)」生じ、光鎮まりたる時、「闇統神(ヤミスブノカミ)」生じ、大雨より「瀬海神(セミノカミ)」生ず。


五、背徒神は天に昇ろうとした。天火神は淀海を蒸して、天と地との間に空間を作った。空気という。このとき「浮不見神」が生まれた。このため、背徒神は天に昇りにくくなった。天金神は金属を鍛えて武器を作った。このとき割久霊神が生まれた。五行神は。割久魂神に命じ背徒を攻撃させた。割久霊神は祓剣で背徒神を攻撃して天に昇ろうとするのを阻んだ。割久霊は、妨害が終わるとすばやく天に戻る。そののち神壷が投げ入れられる。神壷は万の光ほど輝き、地を焼き、水はことごとく蒸発し、淀を固まらせて金属を作り、大樹のような雲を発生させ、そして大雨が降った。大雨は海となった。背徒神の身体は四方に爆散し、海に没した。

このとき、輝きから「天日主大神」、光が鎮まったときに「闇統神」が、雨から「瀬海神」が生まれた。

一、

暮明神:無の神。

神祖神:神の神格の神格。この神気から神が生まれる。

神巣神:天の神。

至物神:物の道理の神。

乙神:男の神。「ヲト」は生殖能力の意

御陰神:女の神。「ホト」は、女性器の意。「礼記」に「男女有別」とあるように、男女の区別は物の道理と考えられたから、天地の区別より道理がうまれ、その道理の神から男女の別が異なった神格として生まれた。と解釈する。

「物有本末事有終始」は「大学」からの引用。儒教的な価値観が取り入れられている。


二、

天火神、天木神、天土神、天金神、天水神はいずれも世界の根源元素(と考えられた)。まとめて五行神ともいう。

背徒神:混乱と混とんの神。

淀海:海とは異なり混とんの気が泥上に淀んで沈んだもの。


大倭嶋:大倭史記の部隊となる島。


智神:知恵の神。


浮不見神:空気の神

割久霊神:武神

天日主大神:太陽神。皇室の祖。

闇統神:月の神。

瀬海神:海の神。

「神壷輝如万光~」:当時はやっていた古代核戦争説を意識して核兵器の使用を思わせる記述となっている。またそれぞれの描写は五行に対応している。

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