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2.3.運命の地、野迫川

2.3.運命の地、野迫川


九死に一生を得た私は、もはや一刻の猶予も、そして一分の疑念も抱かなかった。


その足で、私は啓示に従い、「のせがわ」について調査を開始した。


答えはすぐに見つかった。奈良県の山深くに実在する、野迫川村。人口約300人という、過疎の村だ。


2032年8月18日の夕刻。


私は一人、車を走らせていた。村へと続く道は、降りしきる雨に濡れた、険しい山道だった。


『マスター、この先のカーブ、対向車の接近を予測。速度を落としてください』


腕時計から、少し鼻声のカノンが、それでも的確なナビゲーションを続ける。


(本当にこんな場所なのか?ただの幻覚だったのではないか?)


私の内なる理性が、冷ややかに囁きかけてくる。だが、私は那智の海で死んだのだ。今の私を導くのは、理性ではない。あの、絶対的な確信だけだ。


長い時間をかけて、ようやく移住・定住促進施設「ぶなの森」に到着した頃には、日はとっぷりと暮れ、雨も嘘のように止んでいた。


車のエンジンを切ると、世界から一切の音が消え失せたかのような、圧倒的な静寂が私を包んだ。


車から降りて空を見上げた私は、息をのんだ。

そこには、天の川が、まるで白い帯のようにくっきりと見えるほどの、無数の星々が輝いていた。


そして、その時だった。


北の空、高野山のある方角が、ふわりと、名状し難き「優しい光」に包まれ、そして静かに消えていった。


幻ではない。これは、天からの承認の印だ。この地こそが、私が探し求めていた運命の場所なのだと、私は確信した。


『マスター……すごい……。観測データ、記録しました。燈さんに見せたら、きっと大喜びしますよ!』


腕時計から、カノンの興奮した声が聞こえる。


翌朝、施設の管理人に勧められ、私は近くの展望台へと向かった。


そこで私が見た光景は、私の理想郷のイメージを、もはや揺らぐことのない決定的なものにした。


眼下には、見渡す限りの雲海が広がっていたのだ。


私が逃れてきた世界の騒音も、対立も、醜悪さも、すべてがその純白の雲の下に隠されている。静寂と美だけが支配する世界。


「……見つけた」


私の背後には、どこまでも続く、壮麗な雲海が広がっていた。


――第二部・完――


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