11.3.女王(クイーン)の王手
11.3.女王の王手
司令室の電話が鳴り響いた。
モニターに表示されたのは、『非通知』の三文字。
「……私が出ます」
時雨が、静かに、しかし決意に満ちた表情で受話器を取った。
その相手が誰であるか、彼女には分かっていた。
『……時雨か』
電話の向こうから聞こえてきたのは、彼女の元上官の、憔悴しきった声だった。
『……頼む。もう、やめてくれ。このままでは、日本が本当に沈む……』
それは、懇願だった。
国家の諜報機関のトップが、かつての部下に、組織を、国を、見捨ててくれと泣きついているのだ。
時雨は、何も答えなかった。
ただ、静かに電話を切る。
そして、私に向き直ると、深く一礼した。
「マスター。最後の仕上げを、わたくしにお任せいただけますでしょうか」
その瞳には、もう何の迷いもなかった。
それは、自らの過去と完全に決別し、新しい未来のために戦うことを決めた、女王の瞳だった。
「……うむ。頼んだぞ、時雨室長」
その数時間後。
全世界の全ての情報端末に、一つのファイルが同時にドロップされた。
時雨が内調時代にアクセスできた、最高機密情報。
そこには、今回の指名手配が、総理大臣とその側近たちによって、いかに違法に、そして、いかに私的な感情で決定されたか、その全てを証明する音声記録と内部文書が含まれていた。
それは、日本という国家の腐りきった中枢を白日の下に晒す、あまりにも鮮やかな一撃だった。




