10.3.静寂からの『おすそ分け』
10.3.静寂からの『おすそ分け』
だが、我々の反撃はそれだけでは終わらなかった。
数日後。政府はさらなる嫌がらせとして、野迫川村への電力供給を断続的に停止させ始めた。これも、「送電網のトラブル」という、見え透いた嘘が理由だった。
「停電だあ?ふん、やることがいちいちセコいんだから!」
音楽室で響がぷんぷん怒っている。
「問題ありません。燈さんの開発した次世代エネルギー供給システム『アーク』を、フル稼働させます。村全体の電力を我々だけで賄っても、まだお釣りが来ますわ」
静香は冷静に指示を出す。
その時、燈が何かに気づいたように顔を上げた。
「……待って。この停電、野迫川村だけじゃない。送電網のトラブルというのは、あながち嘘でもないみたい。周辺のいくつかの村も巻き込まれてるわ」
「えっ、本当!?」
響が、モニターを覗き込む。そこには、停電で不便な生活を強いられている、近隣の村々の様子が映し出されていた。
「……チャンスじゃない、これ」
響の目が、いたずらっぽくキラリと光った。
「ねえ、ハジメぴょん!この有り余ってる電気、困ってるお隣さんたちに『おすそ分け』しちゃおうよ!」
さすがは我がチームのトリックスター。
その発想は、常に私の想像の斜め上をいく。
「……うむ。最高のアイデアだ。すぐに準備を」
その日の夕方。
停電で真っ暗になった隣村に、数台の見慣れないトラックが到着した。
我々のロゴマークが入った、移動式の超大容量バッテリー供給車だ。
「えー、お騒がせしております!我々は、お隣の野迫川村から、電気の『おすそ分け』にやってまいりましたー!」
トラックの荷台に立った響が、マイクを持って高らかに宣言する。
「停電でお困りの皆様!どうぞご自由にお使いください!もちろん、料金はタダです!」
真っ暗だった村に、次々と明かりが灯っていく。
家の電気、街灯、商店の看板……。
人々が家から飛び出してきて、その光景に歓声を上げた。
子供たちが、久しぶりに見るテレビアニメに目を輝かせている。
その様子はもちろん、響のドローンによって全世界にリアルタイムで配信されていた。
『日本政府に見捨てられた村々を救ったのは、春凪共和国だった』
そのニュースは、燎原の火のように世界中を駆け巡った。
日本政府の度重なる悪手。
それは、自らの無能さと非情さを、国民の前に晒すだけの結果に終わった。
オセロの盤面はもはや、ほとんどが、黒。
残された白い石は、霞が関の中央に数えるほどしか残っていなかった。
――チェックメイトは、もう目前だった。
――第十部・完――




