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日本社会のノイズに絶望した最強AIエンジニア(62)、俺を「マスター」と慕う天才美少女たちと静かな理想国家を建国する  作者: 春凪一


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8.4.羽化

8.4.羽化


シン、と執務室が、本当の静寂に包まれた。


上官は、モニターに映し出されたテキストを、ただ、食い入るように見つめている。その額には、一筋の、冷たい汗が浮かんでいた。


これは、報告書ではない。


春凪一からの、最後通牒だ。


我々の内情を、完全に把握した上で、こちらの信義を問う、あまりにも傲慢で、しかし、あまりにも正当な、挑戦状だった。


「……馬鹿な……」


上官の口から、呻くような声が漏れた。


「奴は、一体、どこまで知っている……?私が、『梟』を、どのように育ててきたかまで、全て……」


そうだ。


この報告書は、私にだけではない。


時雨の心を、誰よりも深く、抉っていた。


彼女が、今まで、弱点として隠し、そして、矯正すべき欠陥として憎んできた、自らの『優しさ』や『共感能力』。それら全てを、春凪は、肯定したのだ。


それは、弱さではない。お前が、お前であることの、証なのだ、と。


「……長官」


時雨が、静かに口を開いた。


その声には、もう、一切の震えはなかった。


「私は……いえ、わたくしは、本日をもって、内閣情報調査室を、辞職させていただきます」


「……なん、だと……?」


上官が、初めて、狼狽した顔を時雨に向けた。


「わたくしは、『梟』ではありません。わたくしの名は、時雨。ただの、一人の人間です。そして、わたくしは、春凪一が創ろうとしている未来を、この目で見届けたい。……いいえ、共犯者として、その未来を、創る側になりたい。心から、そう、願っています」


時雨は、そう言うと、制服の襟につけられていた、梟を模した小さなバッジを、静かに取り外した。


そして、それを、上官のデスクの上に、そっと置いた。


それは、彼女が、兵器であることをやめ、一人の人間として、自らの意思で、羽ばたいた瞬間だった。


「待て、時雨!君は、自分が何を言っているのか、分かっているのか!我々を裏切るということが、どういうことか……!」


上官の、焦った声が、背中に突き刺さる。


だが、時雨は、もう、振り返らなかった。


「……さようなら、長官。わたくしは、わたくしの『心臓』が指し示す場所へ、帰ります」


その背中は、もう、か弱い少女のものではなかった。


自らの意思で、未来を選択した、一人の、強く、美しい女性の背中だった。


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