8.3.キングの『所見』
8.3.キングの『所見』
「……チップ、だと?通信記録には、なかったものだが」
上官が、訝しげに眉をひそめる。
「春凪一、本人から、直接手渡されました。『所見』は、代わりに自分が書いておいた、と」
上官の目が、鋭く光った。
「……面白い。奴め、こちらの存在に気づいた上で、わざと君を泳がせていた、というわけか。いいだろう、再生してみろ」
時雨は、チップをデスクのコンソールに差し込んだ。
すると、目の前のホログラムに、テキストデータが映し出された。
それは、私が書いた、『所見』だった。
【春凪共和国に関する所見報告】
報告者:春凪一(代理)
1.組織の脆弱性について
指導者の論理的欠陥:当組織の指導者である春凪一は、約八百年前の人物(平維盛)の非合理的な願いを、組織の根幹プロトコルに組み込んでいる。
これにより、純粋な論理よりも、定義不能な『慈悲』や『共感』を優先する危険性を常時内包している。
構成員の情緒的脆弱性:霧雨静香、星影燈、天宮響をはじめとする主要メンバーは、いずれも高い能力を持つが、その行動原理は、マスターである春凪一への、極めて個人的で、非論理的な『信頼』と『思慕』の情に強く依存している。
マスターを失った場合、組織は、連鎖的に崩壊する可能性が高い。
外部からの影響に対する脆弱性:当組織は、『純粋な善意』や『見返りを求めない親切』といった、非合理的なアプローチに対して、極めて脆弱である。
現に、潜入したエージェント『梟』は、これらの『攻撃』に対し、有効な防御手段を持たず、心理的な混乱をきたしている。
2.総合評価
以上の脆弱性から、春凪共和国は、軍事的には全く脅威とならない。
彼らは、武器を持たず、他者を傷つけることを知らず、ただ、静けさと、優しさと、小さな信頼だけを信じている、武装していない子供の集団に等しい。
――故に、問う。
貴官は、この『弱さ』を、排除すべき『脅威』と見なすか。
それとも、守るべき『未来』と判断するか。
貴官の答えを、私は待っている。
そして、貴官のエージェントである『時雨』は、もう、その答えを、心の中に持っている。
――所見報告、以上




