8.2.『梟』の巣
8.2.『梟』の巣
上官の待つ、最上階の執務室。
分厚い防音壁に囲まれたその部屋は、外部のノイズを完全に遮断していた。机の上には、世界中の情報がリアルタイムで表示される、巨大なホログラムモニターだけが、青白い光を放っている。
「――戻ったか、『梟』」
デスクの向こうで、上官――時雨を育て上げ、そして、彼女を道具として使役してきた男が、感情の読めない目で彼女を見つめていた。
「報告書は読んだ。相変わらず、事実の羅列は完璧だ。だが……『所見』が、空白だったな。君らしくない」
「……申し訳、ありません」
時雨は、深く頭を下げる。
「構わん。それだけ、ターゲットが、我々の想定を超える存在だったということだろう。送られてきた映像も、確認した。……なるほど。これは確かに、厄介だ。武力で制圧するには、彼らはあまりにも『清廉』すぎる」
上官は、まるで面白いおもちゃを見つけたかのように、口の端を吊り上げた。
「だが、どんな聖人にも、弱点はある。家族、仲間、あるいは、過去の過ち……。更に深く、潜入を続けろ。必ず、埃の一つや二つは、出てくるはずだ」
淡々と、非情な命令が下される。
時雨は、黙って、その言葉を聞いていた。以前の彼女なら、ただ「御意」とだけ答え、再び、あの聖域へと舞い戻っていただろう。
だが、今の彼女は、違った。
「……長官」
「なんだ?」
「一つ、報告すべき、追加事項が、あります」
時雨は、ポケットから、私が渡した、一枚のチップを取り出した。




