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日本社会のノイズに絶望した最強AIエンジニア(62)、俺を「マスター」と慕う天才美少女たちと静かな理想国家を建国する  作者: 春凪一


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7.5.帰郷、そして選択

7.5.帰郷、そして選択


翌日の朝。私は、時雨を司令室に呼び出した。


「時雨くん。君の怪我も、もうすっかり良いようだ。ご両親も、心配しているだろう。……今日、東京へお帰りなさい」


私の言葉に、時雨は、驚いたように顔を上げた。


(……帰る?任務は、まだ終わっていないのに……?これは、罠?それとも……)


「ですが……まだ、皆様には、ご恩を返しきれていません」


「恩、かね。まあ、そう思うなら、一つだけ、お土産を持っていくといい」


私は、彼女に、一枚の小さなチップを手渡した。


「……これは?」


「君が、悩みに悩んで、書けなかった『所見』だよ。私が、代わりに書いておいてやった」


私の言葉に、時雨の呼吸が止まった。


全て、お見通しだったのだ。報告書の内容も、その葛藤も。


「そ、そんな……」


「内容は、君の目で確かめるといい。それを、君の上官に渡すか、あるいは、握りつぶすか。……全て、君が決めなさい」


その日の昼過ぎ。校庭に、一機のヘリコプターが降り立った。


時雨の見送りのために、少女たちが集まっている。


「時雨ちゃん、行っちゃうの……?寂しくなるなあ……。これ、あげる!私が作った、お守り!」


響は、涙ぐみながら、不格好な手作りのお守りを、時雨の手に握らせた。


「……また、会えるわよね?物理学の議論の続き、まだ終わってないんだから……!」


燈は、そっぽを向きながらも、その声には確かな寂しさが滲んでいた。


「道中、お気をつけて。外の世界は、少し、騒々しいかもしれませんから」


静香は、ただ、静かに、意味深な言葉をかけるだけだった。


時雨は、何も言えなかった。


ただ、三人に、そして、少し離れた場所から静かに見守っている私に、深く、深く、頭を下げることしかできなかった。


ヘリに乗り込み、機体は、ゆっくりと上昇していく。


窓から、どんどん小さくなっていく校舎と、手を振る少女たちの姿が見えた。


この数日間が、まるで、夢だったかのように、現実感を失っていく。


(……帰るんだ。私の、いるべき場所に)


そう、自分に言い聞かせた、その時。


時雨の瞳から、一筋、熱いものが、頬を伝った。


それは、彼女が『梟』となって以来、一度も流したことのなかった、感情の雫だった。


東京の、無機質なビル群が見えてくる。


彼女の戦場。彼女の日常。


だが、今の彼女には、その全てが、色褪せた、ノイズに満ちた世界にしか見えなかった。


手の中には、響がくれた、温かいお守りと、私が渡した、冷たいチップが握られている。


温もりか、任務か。


信頼か、裏切りか。


静寂か、ノイズか。


時雨は、そっと、目を閉じた。


彼女の心の中で、二つの心臓の音が、一つに重なろうとしていた。


どちらの音を選ぶのか。その答えは、もう、出ている。


静かなるチェスは、まだ、終わらない。


いや、今、本当の意味で、始まったのだ。



――第七部・完――


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