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日本社会のノイズに絶望した最強AIエンジニア(62)、俺を「マスター」と慕う天才美少女たちと静かな理想国家を建国する  作者: 春凪一


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7.4.仮面のひび割れ

7.4.仮面のひび割れ


司令室。


私は、時雨が送信した、中身の抜けた報告書のコピーを、静かに読んでいた。


Nagiが、私の知らないところで、彼女の通信を全て傍受し、解析しているのだ。


「……面白いことになったな」


「はい、マスター」


私の隣で、静香が、満足げに紅茶をすする。


「彼女の心は、今、完全に飽和状態ですわ。これ以上、情報を与えても、処理しきれないでしょう。むしろ、少し『何もない時間』を与える方が、効果的かもしれませんわね」


静香の言う通りだ。


水を与えすぎれば、種は、芽を出す前に腐ってしまう。


必要なのは、静かに、待つこと。彼女自身の力で、固い殻を破るのを。


「Nagi。時雨くんの、実家について、何か分かったかね?」


私の問いに、Nagiのホログラムが、優雅に一礼した。


『はい、マスター。彼女の一族は、古くから、国家の暗部で情報収集を担ってきた、特殊な家系のようです。その能力は、血統によって受け継がれ、幼い頃から、徹底した英才教育が施される、と』


「まるで、巫女のようだな」


静香の言葉は、偶然ではない。彼女は、あの時、全てを確信した上で、時雨に揺さぶりをかけたのだ。


『彼女の受けた教育は、感情を完全にコントロールし、あらゆる状況で、最適な論理的判断を下すためのものです。ですが、そのカリキュラムには、一つ、致命的な欠陥がありました』


「欠陥?」


『はい。それは、『純粋な善意』や、『見返りを求めない親切』といった、非論理的な感情への、対処法です。彼女の人生には、今まで、そういったものが、一切存在しなかった。故に、響さんのような存在は、彼女にとって、対処不能な、システムエラーなのです』


「……なるほどな」


私は、深く頷いた。


鉄壁の城も、たった一つの、設計図にない攻撃には、脆いものだ。


ましてや、それが、城の内部から、最も信頼する仲間によって、もたらされたとしたら。


「さて、静香。そろそろ、彼女を家に帰してやろうと思う」


「……よろしいのですか?まだ、泳がせておいた方が……」


「いや。もう、十分に毒は回った。一度、日常に戻し、外の世界の『ノイズ』を、改めて体感させてやる方が、効果的だろう」


私は、チェス盤の、白いキングの駒を、そっと手に取った。


「そして、彼女が、自らの意思で、再びこの場所に戻ってきた時……。その時こそ、この静かなるチェスは、終局を迎えることになる」


私の言葉に、静香は、全てを理解したように、深く、そして美しく、微笑んだ。


時雨の仮面が、完全に砕け散る日は、もう、目前まで迫っていた。


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