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日本社会のノイズに絶望した最強AIエンジニア(62)、俺を「マスター」と慕う天才美少女たちと静かな理想国家を建国する  作者: 春凪一


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7.3.梟の報告書

7.3.梟の報告書


その夜。時雨は、保健室のベッドの上で、一人、ホログラム・キーボードを起動していた。


定時報告の時間だ。内調の上官へ、今日の成果を報告しなければならない。


いつもなら、指は自然に動き、見たままの事実を、客観的かつ簡潔に、暗号化されたテキストへと変換していく。だが、今日だけは、その指が、鉛のように重かった。


【件名:定時報告。コードネーム『梟』】


【本文】


ターゲット、春凪一の周辺調査を継続。


本日は、重要参考人である霧雨静香より、施設内部の案内を受ける。


エネルギー供給施設、食料生産施設、いずれも、既存の技術レベルを遥かに超越。


外部からの供給なしに、完全な自給自足体制を確立していると見られる。


(……添付資料として、録画データを送信済み)


――そこまで打ち込んで、時雨の指が止まった。


いつもなら、この後に、自らの「所見」を書き加える。観察から得られた、ターゲットの弱点、内部対立の可能性、そして、今後の潜入方針についての、冷静な分析だ。


だが、何を書けばいい?


霧雨静香は、私の正体に気づいている。いや、それ以上の何かを、知っている。


星影燈は、私を、敵ではなく、ライバルとして見始めた。


天宮響は、私を、ただの友人として、その善意の輪の中に引きずり込もうとする。


そして、春凪一は――。


彼の言葉が、脳裏に蘇る。


『ここが、春凪共和国の、心臓だよ』


祠。石ころ。祈り。


報告書に、そんな非論理的な単語を、どうやって記述すればいい?


『ターゲットは、毎朝、山中の石に祈りを捧げる、非科学的な儀式を実践。これが、組織の精神的支柱であると主張』


そんな報告をすれば、上官は、私の精神状態を疑うだろう。


(違う……違うんだ。あの場所には、確かに、何かがあった。あの静けさには、意味があった。私が、今まで、知らなかっただけの……)


時雨は、頭をかきむしった。


『梟』としての自分と、『時雨』としての自分が、脳内で激しくせめぎ合う。


報告書は、書かなければならない。だが、真実を、ありのままに書くことが、できない。かといって、嘘をつくことも、許されない。


結局、彼女がその日、送信できたのは、事実を羅列しただけの、空虚なレポートだけだった。


「所見」の欄は、空白のまま。


それは、『梟』としての、初めての「任務不履行」だった。


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