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日本社会のノイズに絶望した最強AIエンジニア(62)、俺を「マスター」と慕う天才美少女たちと静かな理想国家を建国する  作者: 春凪一


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7.1.静寂の応答

第七部 仮面の崩壊


7.1.静寂の応答


シン、と静まり返った図書室。


静香が突きつけた、あまりにも的確で、あまりにも鋭利な言葉の刃。それは、時雨が幾重にも身にまとっていたはずの、完璧な仮面を、いとも容易く貫いていた。


(なぜ……?私の正体を?いや、それ以上に、なぜ、私の、一族の成り立ちまで……?)


混乱。動揺。そして、初めて感じる、純粋な恐怖。


時雨の脳裏を、無数の思考が嵐のように駆け巡る。心臓が、警鐘のように激しく鳴り響き、指先が、氷のように冷たくなっていくのが分かった。


『警告。対象のストレスレベル、閾値を超過。思考パターンの同期、著しく低下しています』


司令室では、Nagiの冷静な声が、逆に事態の異常さを際立たせていた。


だが、『梟』としての長年の訓練が、時雨の崩壊を、寸でのところで食い止めた。


彼女は、震える唇をぐっと引き結び、ゆっくりと息を吸い込む。そして、かろうじて、平静を装った声を発した。


「……静香さん。それは、何の……お話、でしょうか。まるで、小説か何かのような……。私には、よく、分かりません」


それは、エージェントとしての、模範解答だった。知らない、分からない、関係ない。全ての情報を、否定する。


だが、その声は、微かに、しかし確かに、震えていた。


静香は、時雨のその必死の抵抗を、まるで慈しむかのように、穏やかな笑みで見つめていた。


彼女は、それ以上、何も追及しなかった。ただ、一礼すると、優雅に告げる。


「あら、失礼いたしましたわ。そうですよね、ただの荒唐無稽な与太話ですもの。お忘れになって。……では、私はこれで」


まるで、本当に、ただの世間話だったとでも言うように。


静香は、何事もなかったかのように、静かに踵を返し、図書室を去っていった。



一人、残された時雨。


静香が去った後も、彼女は、しばらくの間、その場に立ち尽くしていた。


今まで、彼女の世界を支配していたのは、任務という名の、絶対的な「秩序」だった。だが今、その秩序が、音を立てて崩れ始めている。


(違う。惑わされるな。これは、敵の揺さぶりだ。私を混乱させ、ミスを誘うための、高度な心理戦……)


時雨は、自らにそう言い聞かせる。


そうだ。これは、ゲームなのだ。春凪一が、そして霧雨静香が、私に対して仕掛けてきた、チェスなのだ。


ならば、私がすべきことは一つ。冷静さを取り戻し、次の手を、的確に打ち返すことだけだ。


だが、一度入ったヒビは、そう簡単には元に戻らない。


彼女が去った後の図書室の静寂は、もはや、時雨にとって安らぎの場所ではなかった。それは、自らの不協和音を、ただただ残酷に響かせる、不気味な無音空間へと成り果てていた。


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