6.6.ライバルと、友達のあいだ
6.6.ライバルと、友達のあいだ
時雨が、燈の難問を解いてしまった一件は、少女たちの間に、新たな波紋を広げていた。
「ねえ、静香ちゃん!時雨ちゃんって、やっぱりすごいよ!燈のあの難しい顔を、一発で解決しちゃうんだもん!」
響は、まるで自分のことのように、興奮して静香に話しかけていた。彼女の中では、時雨はもう、か弱き保護対象ではなく、尊敬すべき友人の一人になりつつある。
「ええ、そうね。……興味深いわ」
静香は、響に相槌をうちながらも、その思考は別の場所にあった。
(文系の女子大生が、超高次元物理学を解く……?ありえない。彼女の経歴は、やはり偽装されたもの。だが、あの能力は本物。一体、どこで、あれほどの知識を……?)
そして、当の燈は、一番複雑な心境にあった。
理科室に一人こもり、ぶつぶつと何事かを呟いている。
「……ありえない。あの解法は、まだ世界中の誰も発表していない、全く新しいアプローチだわ。それを、なぜ、彼女が……?文献にも、論文にも、どこにも載っていなかった。まるで……未来の物理学を知っているみたいじゃない……」
彼女は、時雨に対して、これまでの警戒心とは質の違う、新たな感情を抱き始めていた。
それは、恐怖であり、嫉妬であり、そして何よりも――科学者としての、燃えるような「好奇心」だった。
「時雨……。あなた、一体、何者なのよ……」
燈は、知らず知らずのうちに、時雨のことを「あなた」と呼んでいた。それは、彼女が、相手を自分と対等、あるいはそれ以上の存在と認めた時にだけ使う、特別な呼び方だった。
時雨自身は、あの日以来、ますます口数が少なくなった。
自分の犯した「ミス」を、どう取り繕うか、必死に考えているのだろう。彼女は、今まで以上に、響たちの輪から、そっと距離を置くようになった。
だが、そんな時雨の様子を、響が放っておくはずもなかった。
「しーぐれーちゃん!なーにしてるのー?そんな暗い顔してたら、幸せが逃げちゃうよ!ほら、こっち来て、一緒におやつ食べよ!」
響は、時雨の手をぐい、と引っ張る。その強引で、底抜けに明るい優しさが、今の時雨には、一番堪える薬だったのかもしれない。
「……響さん……」
「んー、なあに?」
「……なんでも、ありません」
時雨は、そう言って、力なく微笑んだ。
任務と、友情。
偽りと、真心。
二つの心臓の不協和音は、もはや、彼女の意思だけでは、コントロールできないレベルにまで達していた。




